初夏のガードレールの緑色
夜明けなり決死の蝉が穴を出づ
ほんまやなものの五分で蟻たかる
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
初夏のガードレールの緑色
夜明けなり決死の蝉が穴を出づ
ほんまやなものの五分で蟻たかる
初詣神も佛も隔てなく
初夢といふ年玉を賜りぬ
綺羅星の月雪花の初芝居
あたたかや布巾にふの字ふつくらと 片山由美子
日のくれと子供が言ひて秋の暮 高濱虚子
神もまた素数を愛す七五三 ハードエッジ
蝶が舞ふパンもケーキも無き寺に
蟻の道お天道様が見てをられ
きゆつと鳴く踏んで幼き霜柱
坂道を春一番の子が駆ける
開かれて鯵は干物に花は葉に
病院も駅も夜長の灯を点し
七五三着飾るに良き寒さなり
胎内の次女も健やか七五三
長きものフランスパンと千歳飴
桜貝よりも色濃し蓮の花
八方へシャワー打ち出す畑かな
ドーナツ状に残土積み上げ蟻の穴
図書室は本の涼しさ夏休
二度寝して昼寝の贅を尽しけり
電車には都の生者盂蘭盆会
あたたかや一番星に女神の名 山口速
夏草や兵どもが夢のあと 松尾芭蕉
尾頭の心もとなき海鼠かな 向井去来
かんばせは春眠とこそ見まつれど 高橋淡路女
泳ぎより歩行に移るその境 山口誓子
獅子舞の口かちかちと喜べる 中本真人
打水に刹那の虹を賜りぬ
母と読むおばけ絵本や蚊帳のなか
絵日記もその子も燃えて終戦日
もやもやと腸のある南瓜かな
顔だけの食はれ残りの秋刀魚なり
行く秋の実を柔かに種硬し
天井に届く悲しみ涅槃絵図 ハードエッジ
こときれてなほ邯鄲のうすみどり 富安風生
うすうすとしかもさだかに天の川 清崎敏郎
紫陽花は気圧の谷に咲くといふ
紫陽花も金魚の墓も雨の中
紫陽花やハムを土台の目玉焼
温泉の神に燈をたてまつる裸かな 飯田蛇笏
雲間より稲妻の尾の現れぬ 高濱虚子
喝采や白粉花の赤白黄 ハードエッジ
炎上をまぬがれたまひ出開帳 清原枴童
花びらに舌打したる蛙哉 小林一茶
獅子舞の心臓ふたつもて怒る 大石雄鬼
明暗の春よ根を張り芽を伸ばし
スキップで春の体が飛んでくる
春かなし下駄箱の名札みな剥がされ
あたたかや鳩の中なる乳母車 野見山朱鳥
亜米利加が眩しき頃のクリスマス 鎌田保子
初空のなんにもなくて美しき 今井杏太郎
スポンジに春のうれひはなかるべし ハードエッジ
菜の花に渾身の黄のありにけり 平井照敏
あかあかと除夜の駅ある怒涛かな 小川軽舟
背が伸びて細き手足や雛祭
雛の灯に子の宝物ありつたけ
雛の間のひと夜ひと夜の桃の花
あけがたの黄の冷たさの花菜かな
花菜畑とは一面の花粉色
菜の花を中洲に積んで船出せん
菜の花にあらざる花も黄なりけり ハードエッジ
夏掛けのみづいろといふ自愛かな 能村登四郎
冬至までひと日ひと日の日暮かな 草間時彦
2020年発行の開発素句報
その葉書俳句、全6枚の画像
春を待つものの日あたり風あたり
美しき蝶になる夢春を待つ
春を待つ百獣の王その妻子
もれいづる光と声とおでんの香
おでん屋のテレビに「地球最後の日」
おでん酒ぐびぐび飲んで寝るとせむ
腰伸ばし見るや周りの潮干狩
ちらかつて庭うつくしや野分あと
手袋で好きな絵本を撫でてをる
初恋のあとの永生き春満月 池田澄子
残暑とはショートパンツの老人よ 星野立子
飲めるだけのめたるころのおでんかな 久保田万太郎
菫束ぬ寄りあひ易き花にして 中村草田男
ガラス戸の遠き夜火事に触れにけり 村上鞆彦
如月や身を切る風に身を切らせ 鈴木真砂女
つながつて長き夜汽車の去年今年
十二時は即ち零時去年今年
時計みな去年今年なく励むなり
冬たのし新幹線型スニーカー
大皿に青き山脈雪催
「翌年のパリ」の字幕に雪と兵