変換の挙式と出でし虚子忌かな
シュッと出る泡の石鹸若葉の夜
真空を自由落下の羽根布団
秋 【鵙の贄】 長き尾を垂るる哀れや鵙の贄
のびのびと長き蛙や鵙の贄
鵙の贄鵙の帰りを待つ如く
鵙の贄月の光に冷ゆるかな
開発素句報 2023-03 浴衣着てエレベーターの硝子張り
万緑に光合成の今や旬
炎天をスポーツカーの真つ赤なり
水は清きわが故郷に帰省かな
開発素句報 2023-04 炎天はガスの炎と同じ色
頂上の光るは雪か雲の峰
酷暑日は本も机もほつかほか
町川の夕立濁りの塵芥
開発素句報 2023-05 この小さき鶉の卵から雛が
紫外線浴びて真赤な鶏頭花
団栗が旨し縄文土器を焼く
失敗を面白がつて夜の長し
開発素句報 2023-06 掛布団秋の重さとなりにけり
荒ぶるや門の仁王と菊の武者
桃の実の花柱名残といふあたり
穴のあるナットと穴のなき木の実
夏 【金魚】 終戦の後の復興金魚玉
ぽたぽたと金魚を注ぐ金魚鉢
土嚢の如く金魚掬ひの子ら蹲踞む
金魚ゆらゆら母船を待つてゐるやうな
夏 【蟬生る】 暁闇や決死の蟬が穴を出づ
蟬の穴地下から掘つて来りけり
蟬の殻ぬるりと抜けて生れけり
羽化の蟬飛んで風化の蟬の穴
夏 【雲の峰】 恐竜がずしんずしんと雲の峰
また一人行者降りくる雲の峰
空母対空母積乱雲真白
天上へ入道雲ののしあがる
夏 【夏休】 夏休み第一日目日の出前
夏休お代りをして褒めらるる
変てこな塔の工作夏休
いつまでも手を振る別れ夏休
夏 【昼寝】 吾輩と苦沙弥先生昼寝の図
ひるねしてみんなぐうぐうねましたと
庭先に水着吹かるる昼寝かな
昼寝覚この世が雨に煙りをる
開発素句報 2023-07 ああこれが秋の寒さか雨も降り
朝顔の花が減り葉に穴があき
朝夕の六時の暗さ曼珠沙華
柿の実に装填されし種八個
夏 【香水】 小癪なる香水瓶の小兵ども
香水の後を黒衣の揚羽蝶
香水や両肌脱ぎの夜会服
香水の瓶を融かして何作ろ
夏 【螢】 ほうたるの余命を刻む点滅ぞ
冠に二つ火のある螢かな
連絡船は磁気嵐とや螢の夜
螢火の歓喜観音様来る
夏 【打水】 打水の余りは庭の箒にも
せめてもの打水を打ち重ねたり
打水を固き大地が吸ひ込みぬ
打水の最中一天かき曇り
夏 【薄暑】 花買うて薄暑の街を我がものに
旅に良し家居また良し薄暑かな
通り雨薄暑疑ひなかりけり
軽暖のオープンカフェに人を待つ
夏 【若葉】 老木の自ら励む若葉かな
若葉とは日に透きとほる薄みどり
ぶらんこに子らを遊ばす若葉かな
既に花終へし木もある若葉かな
夏 【梅雨３】 玄関は靴の港や梅雨の夜
傘の骨ぐいと曲げたる梅雨入かな
梅雨深く書類に印を点じたる
横にして傘をバサバサ梅雨の日々
開発素句報 2023-08 秀句あれ運動会は晴れ渡り
秋晴のマンション写真撮れさうな
桜紅葉桜黄葉とうち混じり
船外に泳ぎ遊ぶや天の川
夏 【毛虫】 ねつとりと踏み潰されし毛虫かな
毛虫にも赤子がありてそも毛虫
咥へられいまはの空を行く毛虫
毛虫とは似ても似つかぬものとなる
春 【蝌蚪】 幼くてお玉と呼ばれ蛙の子
ぬるみたる水にぬるりと蝌蚪の紐
水遁の術でどろんと蝌蚪に化け
月夜の晩ばかりじやないぞ蝌蚪に足
開発素句報 2023-09 ふいくしよんと出でし嚔は本物か
枯葉いま枯葉色なり銀杏は黄
悉く核融合や冬の星
年用意カレーも買つて抜かりなく
春 【猫の子２】 ゐるだけで人も子猫も幸せに
猫の子の噂たちまち組中に
あくびなら子猫も負けてをらざりし
座布団の子猫お行儀よくして「ね」
春 【蒲公英２】 蒲公英の穂絮発進準備よし
モノリスを埋めて蒲公英咲かせある
蒲公英の旅装は丸く白づくめ
蒲公英の絮大空へ青空へ
春 【凧】 沖をゆく幼子たちの凧高し
二人しておむすび持つて凧揚に
凧揚げて歌ふ雲雀を驚かす
ゆふぐれのさびしさに凧つれかへる
春 【雛祭３】 ケーキあり紅茶も淹れて雛飾ろ
就中雛の部屋の春燈
長靴で泥濘を来し雛の客
街も家も雛も一夜の焼夷弾
春 【梅】白梅の硬き蕾の香なりけり
巫女赤く神主白く梅みごろ
今年はや娘十八むめの花
白梅の末は梅酒か梅干か
春 【蒲公英１】 故郷に菫・蒲公英・紫雲英かな
蒲公英を少しちやほやしてやりぬ
蒲公英や鯵が干されてその日陰
蒲公英の絮に全てを託しけり
春 【涅槃会】 復活を説かず寝釈迦の大いなる
ふる雪にお涅槃の寺ま白なり
涅槃図に贔屓の菩薩ありにけり
涅槃図の涙ながらに褪せゆくも
NHK俳句2022 落選作抄 ワープから抜けて見知らぬ星月夜
街も家も雛も一夜の焼夷弾
朝顔の朝の力の濃紫
子狸のこれは小さな腹鼓