冬 【雪女】 雪女軍馬に乗つて来りけり

全然堂歳時記 冬の部
【雪女】ゆきおんな

全然堂歳時記＝現在、本号を含め64記事＝春夏秋冬–年末年始＝21-9-17-14–2-1
／2022.12.18

子季語：雪女郎（ゆきじょろう）

◎葉書俳句

◎テキスト

雪女軍馬（ぐんば）に乗つて来（きた）りけり　ハードエッジ

軍馬：
一頭も帰らぬ軍馬木曽（きそ）雪解（ゆきげ）　渡邉充
露（つゆ）の貨車病（や）める軍馬を下ろし発（た）つ　皆吉爽雨（みなよし そうう）
馬肥（うまこ）ゆるころをしぐれて軍馬の碑（ひ）　大島民郎（おおしま たみろう）
若き軍馬貨車に積まれて怒る反（そ）る　細谷源二（ほそや げんじ）

伝令（でんれい）の鴉（からす）を肩に雪女　ハードエッジ

御無念（ごむねん）の殿（との）に代（かわ）りて雪女　ハードエッジ

別案：
雪女殿の無念を晴らすべく　ハードエッジ

無念：
古びたる白の無念を雪解（ゆきげ）かな　ハードエッジ
目を閉（と）ぢて無念にあれば涼（すず）しかり　阿部（あべ）みどり女
朴若葉（ほうわかば）子規（しき）の無念の畳（たたみ）かな　長谷川櫂（はせがわ かい）
平凡の無念が父母の後光（ごこう）ぞよ　江里昭彦（えさと あきひこ）

火事跡（かじあと）の黒き柱や雪女　ハードエッジ

火事跡：
火事跡の無傷（むきず）の茶碗（ちゃわん）冬の月　斉田仁（さいだ じん）
初霜（はつしも）や火事跡といふ黒きもの　鷹羽狩行（たかは しゅぎょう）
火事跡のバケツの縁（ふち）につもる雪　皆吉司（みなよし つかさ）
火事跡の間取（まど）りくきやかにて雨よ　櫂未知子（かい みちこ）
火事跡の火をまぬがれし便器かな　大木あまり
火事跡に鮮（あたら）しき朝の午乳壜（びん）　高島茂
火事跡に日本晴の水たまり　本庄登志彦（ほんじょう としひこ）
火事跡の貼紙（はりがみ）にある遠い町　林菊枝
火事跡に焼けのこりたる窓のあり　藺草慶子（いぐさ けいこ）
火事跡の焚火（たきび）に寄るもぬくからず　大熊輝一

来（こ）ぬ人を白無垢（しろむく）で待つ雪女　ハードエッジ

やがて、
白無垢に雪ふり初（そ）めし雪女　ハードエッジ

来ぬ人：
北窓を開けても還（もど）り来ぬ人よ　山田弘子
いまだ来ぬ人にも盛（も）れよさくらんぼ　宇多喜代子（うだ きよこ）
来ぬ人の話となりぬ雨の月　片山由美子

機（はた）織（お）るは鶴（つる）にはあらず雪女　ハードエッジ

雪女もとより翼（つばさ）なかりけり　ハードエッジ

別案：
雪女もとより翼なけれども　ハードエッジ

足跡（あしあと）に菫（すみれ）咲きけり雪女　ハードエッジ

足跡：
四方より鳥の足跡雪の間　南うみを
足跡の幾百年や遍路道（へんろみち）　ハードエッジ
プールサイド水の足跡戸口まで　林翔（はやし しょう）
めり込める足跡鹿（しか）か猪（しし）か　右城暮石（うしろ ぼせき）
足跡が雪の動物園を行く　ハードエッジ
足跡の盡（つ）きし戸口や雪の原　正岡子規（　　しき）
足跡の兎（うさぎ）と知れてこはさなく　稲畑汀子（いなはた ていこ）
黄泉（よみ）はるかまたもや足跡が鏡　夏石番矢（なついし ばんや）

文（ふみ）書くや友の中なる雪女　ハードエッジ

もう追つて来るなと諭（さと）す雪女　ハードエッジ

諭す：
猫の子にかがみて諭す京言葉　中戸川朝人
親芋（おやいも）の子芋（こいも）にさとす章魚（たこ）のこと　フクスケ
交番に夜（よ）の向日葵（ひまわり）を諭すなり　ハードエッジ
立秋（りっしゅう）と諭すが如（ごと）く予報官（よほうかん）　ハードエッジ
幸綱（ゆきつな）を諭す修司（しゅうじ）や冬の雲　押野裕
帯解（おびとき）の子が袴着（はかまぎ）の子を諭す　ハードエッジ

炭鉱（たんこう）で栄（さか）えし町の雪女郎　ハードエッジ

栄えし：
その昔栄えし港ラムネ飲む　岸本尚毅（　　　なおき）

遠ざかる火の用心や雪女郎　ハードエッジ

火の用心：
火の用心さつしやりませう餅（もち）の反（そ）り　石塚友二（いしづか ともじ）

呉服屋（ごふくや）の戸をどんどんと雪女郎　ハードエッジ

呉服屋/呉服店：
あけてゐるだけの呉服屋あたたかし　鈴木牛後（　　　　ぎゅうご）
呉服屋にチヨコも売られて二月来る　金堂豊子
呉服屋の帳場（ちょうば）の裏の昼寝かな　吉川千早
身にしむや洋服を売る呉服店　山口恵子
呉服屋が来てをる縁（えん）や干大根（ほしだいこ）　高濱虚子（たかはま きょし）

深窓（しんそう）に血の滴（したた）るや雪女郎　ハードエッジ

深窓：
深窓に香水の香（か）と黴（かび）の香（か）と　ハードエッジ

雪女郎ながす涙のガラス玉　ハードエッジ

ガラス玉：
西田佐知子「東京ブルース」/YouTube
赤いルビーの指環に秘めたあの日の夢もガラス玉
作詞：水木かおる、作曲：藤原秀行

雪女にひびあかぎれはなかるべし　ハードエッジ

寛（くつろ）いて一風呂（ひとふろ）あびよ雪女　ハードエッジ

一風呂：
寝正月（ねしょうがつ）ときに一風呂湯気籠（ゆげごもり）　ハードエッジ

雪女ゆきぢよとなりてゲレンデに　ハードエッジ

理系女子＝リケジョ、なら、
スキーの女子＝ユキジョ、では？

窓の雪女体（にょたい）にて、あれ雪女　ハードエッジ

本歌取り：
窓の雪女体にて湯をあふれしむ　桂信子

「たすけて」ととけはじめたる雪女　ハードエッジ

助けて：
うらがえる芥子（けし）の畑よ誰かたすけて　宇多喜代子（うだ きよこ）

◎推敲過程/テキスト/pdf

全２枚/１４２句

全然堂歳時記 冬 【雪女】テキスト推敲

◎推敲過程/Ａ４印刷+手書き/pdf

略

◎推敲過程/葉書印刷+手書き/pdf

Ａ４-２枚/葉書８枚

全然堂歳時記 冬 【雪女】葉書推敲

◎葉書俳句表側

◎データベース画面/桐v10

◎雪女秀句

雪女郎寿（ほ）ぎ状刷（す）る燈（ひ）洩（も）らすまじ　沢藤紫星（さわふじ しせい）
よく笑ふから雪女ではないな　松本逸朗
雪女郎おそろし父の恋恐ろし　中村草田男（　　　くさたお）
夫（つま）の句の雪女郎てふ恋敵（こいがたき）　栗林（くりばやし）ひろゑ
良寛（りょうかん）と遊んでしまふ雪をんな　小島健
雪女郎高野（こうや）の僧（そう）とすれ違ふ　三好潤子（みよし じゅんこ）
目撃者（もくげきしゃ）全員男雪女　中村折矢（　　　せつや）
毆（なぐ）られし痕（あと）よりとけて雪女郞　堀田季何（ほった きか）
雪女郞融（と）けたる水や犬舐（な）むる　堀田季何（ほった きか）
飲まされし煮（に）え湯（ゆ）いくたび雪女郎　鷹羽狩行（たかは しゅぎょう）
雪女郎逆白波（さかしらなみ）の立つ夜（よ）かな　行方克巳（なめかた かつみ）
雪女郎湖（うみ）が凍（こお）らば通（かよ）ひ来む　西村和子
みちのくの雪深ければ雪女郎　山口青邨（　　　　せいそん）
山の雪女郎うはさをすれば影　鷹羽狩行（たかは しゅぎょう）
紅（あか）きもの欲（ほ）り且（か）つ恐（おそ）れ雪女郎　鷹羽狩行（たかは しゅぎょう）
立てば雪女郎坐（すわ）れば遣手婆（やりてばば）　鷹羽狩行（たかは しゅぎょう）
雪女足手（あしで）まとひの子は持たず　鈴木真砂女（　　　まさじょ）
雪女郎乳房の傷はこの世のもの　鷹羽狩行（たかは しゅぎょう）
雪女郎化粧のあとの雪払ふ　清水緑子
道ならぬ道を迷（まよ）はず雪女郎　木内怜子（きうち れいこ）
新しき家へみしりと雪女郎　野澤節子（のざわ せつこ）
雪女まぎれてゐたり上野駅　黛（まゆずみ）まどか
「驛（えき）」の字の残る駅舎（えきしゃ）や雪女郎　須坂大寒

◎未練句/補遺

雪女熱き血潮（ちしお）を忘れしや　ハードエッジ
老いたれば再び雪に雪女　ハードエッジ
雪女老いて引きずる青い影　ハードエッジ
毒薬の甘き香りを雪女　ハードエッジ
次の世は青き氷に雪女　ハードエッジ
雪女親子連れとは珍しや　ハードエッジ
鬣（たてがみ）の如（ごと）き白髪（はくはつ）雪女郎　ハードエッジ
ちらと見えし真つ赤な足や雪女　ハードエッジ
合ひに来て都に解（と）けし雪女郎　ハードエッジ
寺町か小間物町（こまものちょう）か雪女　ハードエッジ
武家屋敷（ぶけやしき）跡のマンション雪女　ハードエッジ
懐（ふところ）に蛇（へび）や鴉（からす）や雪女郎　ハードエッジ
干柿（ほしがき）は体に良いと雪女　ハードエッジ
干柿（ほしがき）を食はせてやりぬ雪女　ハードエッジ
雪女には山茶花（さざんか）の裾模様（すそもよう）　ハードエッジ

以上です