神々も寂しかりしや秋の暮
原つぱも喇叭も消えて秋の暮
町の子に町の寂しさ秋の暮
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
自作自選の歳時記です
神々も寂しかりしや秋の暮
原つぱも喇叭も消えて秋の暮
町の子に町の寂しさ秋の暮
小春日のそれは小さなエピソード
座布団や小春日和の人を待つ
小春日や枯れ行く草を暖めて
鳴き通す図書館裏の本の虫
童謡が「あれ」と歌ふよ虫の声
この頃の虫の弱音や数も減り
満天の星に送られ流星は
流星に潮吹き上ぐる鯨かな
流星の降り止まぬ夜もいつか来て
のびのびと長き蛙や鵙の贄
鵙の贄鵙の帰りを待つ如く
鵙の贄月の光に冷ゆるかな
ぽたぽたと金魚を注ぐ金魚鉢
土嚢の如く金魚掬ひの子ら蹲踞む
金魚ゆらゆら母船を待つてゐるやうな
蟬の穴地下から掘つて来りけり
蟬の殻ぬるりと抜けて生れけり
羽化の蟬飛んで風化の蟬の穴
また一人行者降りくる雲の峰
空母対空母積乱雲真白
天上へ入道雲ののしあがる
夏休お代りをして褒めらるる
変てこな塔の工作夏休
いつまでも手を振る別れ夏休
ひるねしてみんなぐうぐうねましたと
庭先に水着吹かるる昼寝かな
昼寝覚この世が雨に煙りをる
香水の後を黒衣の揚羽蝶
香水や両肌脱ぎの夜会服
香水の瓶を融かして何作ろ
冠に二つ火のある螢かな
連絡船は磁気嵐とや螢の夜
螢火の歓喜観音様来る
せめてもの打水を打ち重ねたり
打水を固き大地が吸ひ込みぬ
打水の最中一天かき曇り
旅に良し家居また良し薄暑かな
通り雨薄暑疑ひなかりけり
軽暖のオープンカフェに人を待つ
若葉とは日に透きとほる薄みどり
ぶらんこに子らを遊ばす若葉かな
既に花終へし木もある若葉かな
傘の骨ぐいと曲げたる梅雨入かな
梅雨深く書類に印を点じたる
横にして傘をバサバサ梅雨の日々
毛虫にも赤子がありてそも毛虫
咥へられいまはの空を行く毛虫
毛虫とは似ても似つかぬものとなる
ぬるみたる水にぬるりと蝌蚪の紐
水遁の術でどろんと蝌蚪に化け
月夜の晩ばかりじやないぞ蝌蚪に足
猫の子の噂たちまち組中に
あくびなら子猫も負けてをらざりし
座布団の子猫お行儀よくして「ね」
モノリスを埋めて蒲公英咲かせある
蒲公英の旅装は丸く白づくめ
蒲公英の絮大空へ青空へ
二人しておむすび持つて凧揚に
凧揚げて歌ふ雲雀を驚かす
ゆふぐれのさびしさに凧つれかへる
就中雛の部屋の春燈
長靴で泥濘を来し雛の客
街も家も雛も一夜の焼夷弾
巫女赤く神主白く梅みごろ
今年はや娘十八むめの花
白梅の末は梅酒か梅干か
蒲公英を少しちやほやしてやりぬ
蒲公英や鯵が干されてその日陰
蒲公英の絮に全てを託しけり
ふる雪にお涅槃の寺ま白なり
涅槃図に贔屓の菩薩ありにけり
涅槃図の涙ながらに褪せゆくも
左義長の火の粉ぱちぱち新しき
火もまた涼しとどんどの中の達磨さん
どんど火の崩れむばかり崩れたり
めでたさの観音びらき初御空
高く飛ぶものはゆつくり初御空
青空は塵の恩寵初御空
神々は陸海空に初日の出
藍すがし茜めでたし初日の出
宿の湯の永久にあふるる初日かな
行く年の袋小路の三輪車
ゆく年や湯に湯加減を問はれをる
行く年の窓開けてみる直ぐ閉める
数へ日にドプラー効果あるやうな
数へ日に宅急便を待たす罪
数へ日の街が暮れ行くカフェオーレ