秋 【虫】 暗闇に緑の虫の鳴けりけり

全然堂歳時記 秋の部
【虫】むし

全然堂歳時記=現在、本号を含め93記事=春夏秋冬–年末年始=29-21-20-16–3-4
/2023.11.11

◎葉書俳句

 

◎テキスト

鳴く虫の代替だいがわりして今年また ハードエッジ

代替り:
打水や代替りして路地のバー 鈴木真砂女

台風の大きくれて昼の虫 ハードエッジ

逸れて:
颱風が逸れてなんだか蒸し御飯 池田澄子
手が逸れて手毬は母の厨へと ハードエッジ

タクシーの出払ではらつてゐる昼の虫 ハードエッジ

出払:

海苔干すや船出払へる磯日和 高橋淡路女
釣船の出払つてゐる古巣かな 綾部仁喜
托鉢に出払ひて梅真白なり 片野達郎

遊船も出ではらひたる茶店かな 野村泊月

旅客機の出払つてをる草の花 千葉皓史
国宝の出払つてゐる式部の実 太田うさぎ

寒暮なりすべて出払ふ消防署 鈴木総史
雲水の出払つてゐる氷柱かな 南うみを

夜行バスの洗車のしずく昼の虫 ハードエッジ

洗車:

洗車機の泡の輝き聖五月 菊田一平
炎天の洗車に吾は滝行者 山口誓子

洗車機を溢るる泡や秋高し 齋藤朝比古

冬の日の洗車に虹のよく立ちぬ 斉藤志歩
小寒の夜半きらきらと洗車場 塚本邦雄

鳴き通す図書館裏の本の虫 ハードエッジ

鳴き通す:

一と夏を蟬鳴き通す踏切よ 波多野爽波
鳴き通す蟬に昼寝はなかるべし ハードエッジ

暮るるまで蝉鳴き通す終戦日 下村ひろし
鳴き通す虫の夜長となりにけり ハードエッジ

づる姫君とその物語 ハードエッジ

姫君:
姫君のあはれや雛の子守歌 正岡子規
姫君の月へ旅路の髪洗ふ ハードエッジ
桃食べて虫めづる姫君となる 如月真菜

切株をはげますごと虫時雨むししぐれ ハードエッジ

切株:

薄氷や切株の上を滑り落つ ハードエッジ
切株の生きて紅さす雪解風 岸田稚魚
水奏で切株匂ふ雪解谷 福田蓼汀
切株を突きて出づるや蜆舟 岸本尚毅
切株という傷口に初蝶来 二村典子
切株のぐるりよりふく木の芽哉 正岡子規
たんぽぽや切株はまだ新しき ハードエッジ
切株の落花再び吹かれ行く ハードエッジ

苔寺の苔の切株梅雨深し ハードエッジ

行く秋の切株にある余熱かな 佐藤郁良
切株がひとつ秋風聞けとこそ 山田弘子
切株に廻れよ廻れ木の実独楽 ハードエッジ

切株の丸くて小春日和かな ハードエッジ
切株に坐つて待てば春や来む 鈴木榮子
切株に冬日二段の鋸の跡 大串章
切株の木の名な問いそ片時雨 池田澄子

鳴く虫のリリリの中のルルルかな ハードエッジ

虫の音:
ちりと鳴きちりちりと鳴き月の虫 後藤夜半

鳴く虫のこれは月見の虫らしき ハードエッジ

鳴く虫も月に力を得たりけり ハードエッジ

月と虫:
海暮れて月出るまでの虫の闇 宗像夕野火
虫の音のたかまりくれば月出でん 今井つる女
虫繁し恐らく月の凄からむ 高田風人子
虫の声月よりこぼれ地に満ちぬ 富安風生
月を見に下りたる庭の虫時雨 深見けん二
虫鳴くやしとゞに濡れし草に月 上村占魚
ある月夜ことごとく籠の虫を放つ 正岡子規
月育つ一夜一夜の虫時雨 深見けん二
遅月や夜毎にほそる虫の声 高橋淡路女
虫鳴くやあたかも月のあるごとく 依光陽子
月出でゝをらむ鈴虫鳴き澄むは 岸風三楼
松虫に立ち三日月に坐りけり 京極杞陽
松虫や風呂暗らくして松の月 正岡子規
虫飛ぶや葡萄畠の薄月夜 正岡子規

童謡どうようが「あれ」と歌ふよ虫の声 ハードエッジ

歌ふよ:
先生も歌ふよ春の幼稚園 ハードエッジ
正月の唄も歌ふよクリスマス ハードエッジ

秋の夜にああおもしろい虫の声 ハードエッジ

暗闇くらやみに緑の虫の鳴けりけり ハードエッジ

虫と緑:

でで虫の葉に触れしよりうすみどり 今井杏太郎
玉虫に山の緑の走りけり 中西夕紀
玉虫の羽のみどりは推古より 山口青邨
万緑に朱のアンテナは百足虫なる 山口誓子
新緑を虫が好めり鹿も食ふ ハードエッジ

芋虫の体液もまたみどりなる 大木孝子
よく噛んで緑つめこむ菜虫なり ハードエッジ

寒中や柴の虫繭あさみどり 飯田蛇笏

下駄箱げたばこ長靴ながぐつ長し虫の声 ハードエッジ

下駄箱:

春かなし下駄箱の名札みな剥がされ ハードエッジ
下駄箱の前にいくたり卒業子 ハードエッジ

下駄箱の奥になきけりきりきりす 正岡子規
下駄箱にいたく似合ひぬ猫じやらし 攝津幸彦
下駄箱の奥に忘れし猫じやらし ハードエッジ

下駄箱に母と子の靴聖夜劇 下山和美

人日や寺の下駄箱大いなる 斉田仁

火落ひおとして湯舟の孤独こどく虫の闇 ハードエッジ

湯舟:
柿若葉湯舟のかわく朝のうち 長谷川櫂
ゆく年の湯舟に眠くいのちって何 池田澄子

湯舟/自作:

花の宿湯舟に足の長きかな ハードエッジ
うとうとと花見疲れの湯舟かな ハードエッジ

赤とんぼ湯舟に水を入れ始む ハードエッジ

大寒の湯を抜かれたる湯舟かな ハードエッジ
夕暮れの湯舟の窓に雪が舞ふ ハードエッジ
湯舟の湯ぬくが如くに湯ざめかな ハードエッジ
聖夜かな銀の湯舟に身を任せ ハードエッジ

首さらしおく極月の湯舟かな ハードエッジ

鳴く虫に鳴かざる虫に命の夜 ハードエッジ

虫の命:

火を取りて命取らるる火取虫 正岡子規
灯取虫すてる命のいくつある 正岡子規
火取虫命燃やしてしまひけり ハードエッジ
燃え尽きて命知らずよ火取虫 ハードエッジ

かく細き命綱にて蓑虫は 能村登四郎
鳴く虫の命を切に思ふ夜ぞ 相馬遷子

この頃の虫の弱音よわねや数もり ハードエッジ

弱音:

春の雷弱音を吐いて失せにけり 中原道夫

弱音吐かなくて何吐く雲の峰 飯島晴子
闇に跼み蟇の弱音を聴いてやる 上田五千石

唐辛子母の弱音は聞かざりし 北見さとる
白桃や弱音を吐かば寧からむ 山田みづえ

鳴き鳴きて今朝けさなきがらのかごの虫 ハードエッジ

鳴き鳴き:
鳴き鳴きて囮は霧につつまれし 大野林火

鳴く虫の鳴かなくなれば横倒よこだおし ハードエッジ

横倒し:

合格子土手に自転車横倒し 岡本眸

青空の横倒しなる昼寝覚 ハードエッジ
蓮剪つて畳の上に横倒し 村上鬼城

横倒しとは凍蝶の死の形 ハードエッジ
枯木大揺れ煙突煙横倒し 高濱年尾

鳴く虫も鳴かざる虫もててなし ハードエッジ

果てて:

ちりはてゝ花も地をはふ日永哉 正岡子規
山寺は廃れぶらんこ朽ち果てて ハードエッジ
水口の昏れはててなほ幣白う 本井英

大旱土橋の草の枯れはてゝ 滝沢伊代次
魂の抜けはててゐる昼寝かな 星野立子
ペーロンの果てて戻りし魚影かな 山田弘子

暮れ果ててなほ鳴く蟬や敗戦日 石田波郷
夕餉はてゝ迎火を焚くいそぎ哉 正岡子規

凩や水涸れはてて石を吹く 高濱虚子
枯れはてゝ数珠玉の実の白かりし 五十嵐播水

 

◎初案20句

 

 

◎推敲過程/テキスト/pdf

全2枚/108句

全然堂歳時記 秋 【虫】 テキスト推敲

 

◎推敲過程/A4プリント 原稿/pdf

全1枚

全然堂歳時記 秋 【虫】A4推敲 原稿

 

◎推敲過程/A4プリント 加筆/pdf

全1枚

全然堂歳時記 秋 【虫】A4推敲 加筆

 

◎推敲過程/葉書プリント 原稿/pdf

葉書俳句プリント原稿 全4枚

全然堂歳時記 秋 【虫】葉書推敲 原稿

 

◎推敲過程/葉書プリント 加筆/pdf

葉書俳句プリント加筆 全3枚

全然堂歳時記 秋 【虫】葉書推敲 加筆

 

◎葉書俳句表側

 

◎データベース画面/桐v10

 

◎虫秀句

鳴けよ虫秋が鳴かずに居らりふか 小林一茶
昼の虫夜が怖いのかも知れず 後藤立夫
鳴く虫の命を切に思ふ夜ぞ 相馬遷子
虫の闇これより恋の混み合へる 山田露結
あきらめし如く鳴かなくなりし虫 西村和子

虫の闇死の闇ほどは深からず 成瀬櫻桃子
昼の虫骨格見するネオン管 田川飛旅子
月を見に下りたる庭の虫時雨 深見けん二
虫鳴くやあたかも月のあるごとく 依光陽子
虫の夜の星空に浮く地球かな 大峯あきら

或る闇は蟲の形をして哭けり 河原枇杷男
虫聞くや庭木にとゞく影法師 高野素十
雨暗し蟲に晝夜のけぢめなき 上村占魚
雨音のかむさりにけり虫の宿 松本たかし
あかつきや歩く音して籠の虫 岸本尚毅

其中に金鈴をふる虫一つ 高濱虚子
虫の音の夜夜澄むは飢極まるか 高橋睦郎
鳴く虫のたゞしく置ける間なりけり 久保田万太郎
食卓で済むもの書いて昼の虫 岡本眸
校庭の隅までくれば昼の虫 安部元気

鳴き交ふや買うて来た虫庭の虫 尾崎紅葉
戸袋に戸がぎつしりや昼の虫 石田郷子
船すでに錆の一塊昼の虫 岡本眸

 

◎未練句/補遺/在庫処理

山道を吹かれて越すや昼の虫 ハードエッジ
玄関の他にドアなし虫の声 ハードエッジ
玄関に家族の靴と虫の声 ハードエッジ
鳥籠の庭に朽ちゆく虫の声 ハードエッジ
虫の音も線香の火もやがて消ゆ ハードエッジ

 

以上です