秋 【鵙の贄】 長き尾を垂るる哀れや鵙の贄

全然堂歳時記 秋の部
【鵙の贄】もずのにえ

全然堂歳時記=現在、本号を含め91記事=春夏秋冬–年末年始=29-21-18-16–3-4
/2023.10.23

◎葉書俳句

◎テキスト

新しき有刺鉄線ゆうしてっせん鵙の贄 ハードエッジ

別案:
銀色の有刺鉄線鵙の贄 ハードエッジ

有刺鉄線:
錆生えた有刺鉄線雪の果 葛城蓮士

有刺鉄線などに夏蝶阻まれず 稲垣きくの
有刺鉄線にも咲きて薔薇の園 鷹羽狩行
有刺と来れば鉄線なれど薔薇もまた ハードエッジ

この浜の有刺鉄線烏賊を干す ハードエッジ

何を守る雪降る有刺鉄線は ハードエッジ
雪載せて有刺鉄線ひそかなり 北大路翼

見晴らしの良きにされて鵙の贄 ハードエッジ

見晴らし:
夏館見晴らしよくて退屈で 西村和子
こつぽりの良き見晴しや七五三 ハードエッジ

へびかえる蜥蜴とかげ蟷螂とうろう鵙の贄 ハードエッジ

蛇蛙:
寂しさを問ふ術もなし蛇蛙 ハードエッジ

のびのびと長きかえるや鵙の贄 ハードエッジ

のびのび:

のびのびと行くみみずあり喜雨の中 中田みづほ
くさむらに昼寝の裸のびのびと 日野草城

のびのびて衰ふ菊や秋の暮 森川許六
のびのびと針金冬へ葡萄棚 宮津昭彦

のび~し帰り詣や小六月 正岡子規
枯木にて枝のびのびと岐ちをり 上田五千石

まだ水のしたたるものを鵙の贄 ハードエッジ

水の滴る:
若草や水の滴る蜆籠 夏目漱石
吹く風に水の滴る青葉かな ハードエッジ
寒泳の抜手に水のしたたらず 内藤吐天
年の瀬の水の滴る消防車 ハードエッジ

もげさうな頭をかばふ鵙の贄 ハードエッジ

もげ:
何やらがもげて悲しき熊手かな 高濱虚子
海老の足きれいにもげる淑気かな 小野あらた

ふつくらと腹をされし鵙の贄 ハードエッジ

ふつくら:

あたたかや布巾にふの字ふつくらと 片山由美子
ふつくらと金の瞼の寝釈迦かな ハードエッジ

赤ん坊の足裏ふつくら汗臭き ハードエッジ
手の甲にふつくらと蚊や許すまじ ハードエッジ
ふつくらと膨らみし蚊の重たさう ハードエッジ
あぢさゐはあの字の如くふつくらと ハードエッジ
蓮の花ふつくらと夜も明けにけり 落合水尾

炊き上げて米ふつくらと豊の秋 ハードエッジ
ふつくらと蝗細身の飛蝗かな ハードエッジ

着膨れて薬袋もふつくらと ハードエッジ
顔見世や百合根ふつくらお弁当 草間時彦
ふつくらと己が身を乗せ牡蠣の殻 ハードエッジ
ふつくらとふくら雀や雪の上 ハードエッジ
妊れる手のふつくらと蜜柑むく 千野千佳

数へ日の手帳ふつくらしてをりぬ 齋藤朝比古

ふつくらと新年号に色香あり ハードエッジ
すらり水仙ふつくら福寿草 ハードエッジ

皮付のままにからびし鵙の贄 ハードエッジ

長き尾をるるあわれや鵙の贄 ハードエッジ

垂るる:

春浅く子のもの干して紐垂るる 皆吉爽雨
カーテンの二重に垂るゝ朝寝かな 鈴木真砂女
乳垂るる妻となりつも草の餅 芥川龍之介
軒を垂るる巣藁幾すぢ卒業す 木下夕爾
雛壇の紅垂るる畳かな ハードエッジ
馬車の上に垂るゝホテルの桜哉 正岡子規
無風曇天の紫藤垂るる ハードエッジ

大寺の大屋根垂るる暑さかな 鷹羽狩行
兎も片耳垂るる大暑かな 芥川龍之介

狗尾草も頭を垂るる秋の暮 ハードエッジ
朝寒や鬼灯垂るる草の中 芥川龍之介
梨むくや甘き雫の刃を垂るる 正岡子規
花籠を垂るる朝顔朝茶の湯 富安風生
葡萄棚の四隅に垂るる葡萄かな ハードエッジ

寒さとは草葉に垂るる氷柱かな ハードエッジ
三日月に垂るる氷柱もなかりけり ハードエッジ
枯蔓に巻きつき垂るる氷柱かな 池内友次郎
身に垂るる氷柱のごときものと言ふ 石田勝彦
とけ初めて藁屑垂るゝ氷柱かな 岡本松濱
マフラーの白さを惜しげなく垂るる 行方克巳

目口鼻胴体どうたい手足鵙の贄 ハードエッジ

目口鼻:

目口鼻づべらんとして朧かな 高濱虚子
目口鼻まるく収めて蝌蚪の顔 ハードエッジ

目口鼻あるにはありて日焼の子 ハードエッジ

桃の如く肥えて可愛や目口鼻 正岡子規

水鳥の水に突き刺す目口鼻 ハードエッジ

鵙の贄死後を明るく枝の先 ハードエッジ

死後:
こんなにも虹がきれいだ死後だろう 矢口晃
螢籠螢の死後も闇に置く 岡本眸
わが死後へわが飲む梅酒遺したし 石田波郷

兵の墓死後も隊伍を組み寒し 山崎ひさを
生前も死後もつめたき箒の柄 飯田龍太
生前の冬に紛るる死後の冬 宇多喜代子
妻死後を覚えし足袋のしまひ場所 能村登四郎
湯豆腐や死後に褒められようと思ふ 藤田湘子
祖母活けし菊枯れずあり祖母死後も 小澤實
死後も日向たのしむ墓か蜜柑山 篠田悌二郎

地に影の届かぬ高さ鵙の贄 ハードエッジ

届かぬ:

鉄砲のとゞかぬ空や鳥帰る 正岡子規
朝日まだ届かぬ梅の香なりけり 山田弘子
道の辺の雪にとどかぬ柳かな 長谷川櫂

青梅雨や櫂の届かぬ水底も 髙柳克弘
浅く見えて杓の届かぬ清水哉 正岡子規
葛餅の蜜の届かぬ角三つ 小野あらた
冷奴に醤油とどかぬ角ありけり 鈴木総史
田植機のとどかぬ隅を植ゑるなり 奈良文夫
蟬のこゑ届かぬところまで泳ぐ ハードエッジ

波音のとどかぬところ鳥渡る 古川朋子

朝の日の裾にとどかぬ寒さかな 加賀千代女
木枯のとどかぬ深さ父葬る 岬雪夫

鵙の贄土にかえるをゆるされず ハードエッジ

土に還:
石組は土に還らず落椿 西村和子
まだ土に還らぬものに冬の雨 羽根木椋

鵙の贄鵙の帰りを待つごとく ハードエッジ

帰りを待:
姉ちやんの帰りを待てる石鹸玉 ハードエッジ
日向水子らの帰りを待つばかり ハードエッジ
栗剥きぬ父の帰りを待つやうに 櫂未知子

贄いくつ忘れし鵙の高音たかねかな ハードエッジ

いくつ忘れ:
恋の歌いくつ忘れし歌留多かな ハードエッジ

日に一度夕日を浴びて鵙の贄 ハードエッジ

日に一度:

日に一度朝来て春の生卵 鈴木鷹夫
日に一度きりの落日種浸し 友岡子郷
日に一度掃く石段の落椿 右城暮石

日に一度いたむ胃夏に入りにけり 久保田万太郎

日に一度帰る家ありすいつちよん 黄土眠兎
日に一度自分を褒めて黄落期 鎌田保子

日にいちど入る日は沈み信天翁 三橋敏雄
沖に父あり日に一度沖に日は落ち 高柳重信

の先に月の出を待つ鵙の贄 ハードエッジ

月の出を待:

月の出を待てず落花の限りなし ハードエッジ

月の出を待つや虎魚の噛み応へ 小澤實
月の出を待つにしづもり月見草 遠藤若狭男

赤々と月の出を待つ夕焼かな ハードエッジ
髪乾くまで月の出を待たせある ハードエッジ
夕焼はもう月の出を待ち切れず ハードエッジ
月の出を待つ白鳥の羽づくろひ 中嶋秀子
月の出を待てり鼓の緒を緊めて 品川鈴子
月の出を待ち居る外に思ひなし 鈴木花蓑
我前に月の出を待つ人等かな 野村泊月
月の出を待つ神妙のありにけり 齋藤玄

月の出を待ちつつ太る氷柱かな ハードエッジ

高きに月の友あり鵙の贄 ハードエッジ

月の友:
月の友又来し気配甃いしだたみ 星野立子
月の友三人を追ふ一人かな 高濱虚子
ふるさとの人みな子規の月の友 高濱虚子
十六夜やひとり欠たる月の友 高井几董

岩鼻やここにもひとり月の客 向井去来

鵙の贄月の光にゆるかな ハードエッジ

月の光:

朧から出られぬ月の光かな 抜井諒一

月鉾のとらへし月のひかりかな 成瀬櫻桃子

はかなさは月のひかりのすでに秋 久保田万太郎
ふはとぬぐ羽織も月の光かな 夏目成美
やがてさす月の光や衣被 長谷川櫂
竹伐つて月の光に打たせあり 長谷川櫂
西鶴忌うき世の月のひかりかな 久保田万太郎

年の暮なまじに月のひかりかな 久保田万太郎

年越としこすやからつくせし鵙の贄 ハードエッジ

乾び尽:
楢柏からびつくりして霜つよし 蓁樹

 

◎推敲過程/テキスト/pdf

全2枚/118句

全然堂歳時記 秋 【鵙の贄】 テキスト推敲

 

 

◎推敲過程/A4プリント 原稿/pdf

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全然堂歳時記 秋 【鵙の贄】A4推敲 原稿

 

◎推敲過程/A4プリント 加筆/pdf

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全然堂歳時記 秋 【鵙の贄】A4推敲 加筆

 

◎推敲過程/葉書プリント 原稿/pdf

葉書俳句プリント原稿 全4枚

全然堂歳時記 秋 【鵙の贄】葉書推敲 原稿

 

◎推敲過程/葉書プリント 加筆/pdf

葉書俳句プリント加筆 全4枚

全然堂歳時記 秋 【鵙の贄】葉書推敲 加筆

 

◎葉書俳句表側

 

 

 

◎データベース画面/桐v10

◎鵙の贄秀句

鵙の贄思ひ出さねば過去は無し 岡崎るり子
百舌の贄即身仏は法の贄 阿波野青畝
生きものの形ちぢみて鵙の贄 山口速
鵙の贄わが生きの根は誰が刺す 佐藤鬼房
鵙の贄死後のあれこれ人まかせ 波多洋子

枯れ枯れて素性の失せし鵙の贄 稲畑汀子
刺はまだ十分に鋭し鵙の贄 中戸川朝人
容赦無き青空となり鵙の贄 矢島渚男
青空のいまいましくて鵙の贄 加藤静夫
鵙の贄空におぼるるごとくあり 小滝肇

天気晴朗あつぱれな鵙の贄 内田美紗
鵙の贄焚書坑儒の世にも似て 斉田仁
てつぺんはかわくかわくと鵙の贄 小檜山繁子
鵙の贄より雨垂れのうまれけり 中田剛
腹這うて書く文字弱し鵙の贄 田中裕明

歳時記にピンクの付箋鵙の贄 坂倉一光
鵙に贄蛙の股のまだ白く 南うみを
鵙の贄木瓜の實となるかたはらに 高屋窓秋
鵙の贄戰利はかなきものばかり 中原道夫
からたちに卍掛けなる鵙の贄 斎藤夏風

隣にも忘れられたる鵙の贄 稲畑廣太郎
しばらくは動いてゐたり鵙の贄 吉田汀史
百舌の贄見向きもせざる鴉かな 阿波野青畝
贄成ると高きに鵙の鳴くなるか 尾崎紅葉
紐となり果てたる蛇や鵙の贄 峰山清

◎未練句/補遺/在庫処分

青空に死臭抜けたる鵙の贄 ハードエッジ
げつそりと秋日に痩せて鵙の贄 ハードエッジ
鵙の贄修行の僧の如く痩せ ハードエッジ
青空にまた新しき鵙の贄 ハードエッジ
青空を呪ふが如く鵙の贄 ハードエッジ

黒ずんで棒の如くに鵙の贄 ハードエッジ
青空に堅き瞑目鵙の贄 ハードエッジ
紐のごと棒のごと垂れ鵙の贄 ハードエッジ
これ見よとばかりに長き鵙の贄 ハードエッジ
二三割縮こまりたる鵙の贄 ハードエッジ

 

以上です