冬 【手袋】 うれしくてその手袋で手をたたく

全然堂歳時記 冬の部
【手袋】てぶくろ

全然堂歳時記=現在、本号を含め97記事=春夏秋冬–年末年始=29-21-21-19–3-4
/2023.12.16

子季語:手套

 

◎葉書俳句

 

 

◎テキスト

手袋を知らぬ紫式部むらさきしきぶの手 ハードエッジ

知らぬ:
春のほか知らぬ雛を飾りけり 鶴田玲子
天瓜粉まだ土知らぬ土踏まず 古賀まり子
海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり 寺山修司
母の日の知らぬは母の誕生日 ハードエッジ
シャワー浴ぶ日焼けて戦知らぬ肩 櫛原希伊子
血の味を知らぬ藪蚊もありぬべし ハードエッジ
まだ風の怖さを知らぬ若葉かな 保坂リエ
東京を知らぬ機関車秋の空 ハードエッジ
まだ文字を知らぬペン先流れ星 ハードエッジ
星流る無数の知らぬ人の上 利普苑るな
明日は角切らるることも知らぬ貌 ハードエッジ
断崖を跳ねしいとどの後知らぬ 山口誓子
妻知らぬ女難の厄を払ひけり 塚本治彦
麻酔にて知らぬ一日室の花 小池康生

あまた手の並ぶ手袋売場なり ハードエッジ

売場:
春の色ずらり口紅売場なり ハードエッジ
雲の峰中古車売場の旗千本 長嶋有
宝くじ売場の隅の蚊遣豚 中嶋憲武
玻璃に鍵かけて香水売り場かな 佐藤博美
扇風機売り場からいろいろな風 寺澤一雄
冷房の下着売場の白世界 草間時彦
鳥渡る場外馬券売場かな 金子敦
無花果の売場はたかが十日ほど ハードエッジ
王・金・紅の林檎売場や富士もある ハードエッジ
松過ぎの日記売場のほのかなる ハードエッジ
繭玉の呉服売場にしだれけり 今泉貞鳳
屋上の墓石売場を飛ぶ電波 夏石番矢

手袋をした手でもう片方をむ ハードエッジ

嵌む:
天高し蟷螂晴のカラー嵌む 山口青邨
枯れし明るさ黒手袋を深く嵌む 鷲谷七菜子

細長くひやりとかわ手袋のやみ ハードエッジ

細長:
丸きもの細長きもの寺の柿 高野素十
細長く皮手袋をしまひけり 今橋眞理子

細長/自作:
細長き穴ある如く落花かな ハードエッジ
をかしさや蛇の卵の細長き ハードエッジ
十薬に莟が出来て細長き ハードエッジ
細長きビルの屋上流れ星 ハードエッジ

手を入れて手袋の手となりにけり ハードエッジ

手袋の手:
スチュワーデス夏手袋の手を振れる 田中冬二
手袋の手にて押さへる大あくび ハードエッジ
雪白の手袋の手よ善き事為せ 中村草田男
手袋の手が濡れて来しかなしさよ 西村和子
炭を挽く手袋の手して母よ 河東碧梧桐

うれしくてその手袋で手をたたく ハードエッジ

手を叩:
盆踊り人に生まれて手をたたく 岩淵喜代子
手をたゝき婢を呼びづめや風邪の妻 高濱虚子
用あれば手を叩けてふ冬籠 後藤比奈夫
寒鯉に喪服の男手をたたく 坂間恒子

ジョギングのマフラ、手袋、紙懐炉かみかいろ ハードエッジ

紙懐炉/自作宣伝:
暖炉ほどの情熱はなし紙懐炉 ハードエッジ
枯れ枯れて硬くなりたる紙懐炉 ハードエッジ
一晩で熱の引きけり紙懐炉 ハードエッジ
謝して捨つ石となりたる紙懐炉 林翔
主とは一日のえにし紙懐炉 ハードエッジ
錆びてゆく熱の哀れを紙懐炉 ハードエッジ
文明の良き賜物や紙懐炉 ハードエッジ
紙懐炉揉み手の中に暖かし ハードエッジ

手袋をはめて働き始めたる ハードエッジ

嵌めて:
胴体にはめて浮輪を買つてくる 辻桃子
張れざりし障子も嵌めて夜の長さ 下村槐太
冬来たるごとりと嵌めて乾電池 奥坂まや
たいくつや人の手袋はめてみる 嵯峨根鈴子

踊子の長き手套しゅとうの赤と黒 ハードエッジ

手套:
赤き爪夏手套を透きにけり 木下夕爾
夏手套指より老いて勤め長し 岡本眸
吾子を抱く外套のまま手套のまま 鷹羽狩行
外套も手套も兵の名残かな 石塚友二
やはらかき掌を与へむと手套脱ぐ 佐野まもる
黒き手套はめつゝ螺旋階くだる 岸風三楼

手袋は五本の指の個包装こほうそう ハードエッジ

包装:
母の日に届く真紅の包装紙 鈴木セツ
濃き薔薇に薄ばら色の包装紙 望月周

手袋の中でぬくぬくしてゐる手 ハードエッジ

ぬくぬく:
母の日に届く真紅の包装紙 鈴木セツ
濃き薔薇に薄ばら色の包装紙 望月周
春眠の神に愛されぬくぬくと ハードエッジ
ぬくぬくと日向かゝえて鶏つるむ 正岡子規
ぬくぬくの牛糞蠅を喜ばす 津田清子
掛稲に靄ぬくぬくとながれけり 西島麦南
ぬくぬくと部屋暖かき氷柱かな ハードエッジ

手袋をしてもひびあかぎれの手よ ハードエッジ

しても/末尾の:
陽炎や糸遊といひなほしても 平井照敏
恋猫や世界を敵にまはしても 大木あまり
恋猫や真紅の首輪汚しても ハードエッジ
秋雨や灯を点しても点しても ハードエッジ
淋しさは秋灯いくつともしても 稲畑汀子
去年今年どんなに息を凝らしても ハードエッジ

好きなもの母の手袋父の下駄げた ハードエッジ

好きなもの:
好きな物みんなありけり冷蔵庫 市川きつね
好きなものいふとき小声吾亦紅 柏柳明子
好きなものすぐに眠たき風邪薬 ハードエッジ
庵主の好きなものから霜囲ひ 後藤比奈夫
好きなものイチゴ珈琲花美人懐手して宇宙見物 寺田寅彦

手袋で好きな絵本をでてをる ハードエッジ

絵本:
あたたかや絵本見る児のひとりごと 福田蓼汀
兄入学兄の絵本を読んでをり 上野泰
絵本より教科書小さし入学す ハードエッジ
母と読むおばけ絵本や蚊帳のなか ハードエッジ
流星や大きな本は子の絵本 ハードエッジ
遠花火街を絵本にしてしまふ 水田むつみ
雪の夜の閉ぢて絵本は板の如 ハードエッジ
絵本と散らばる甥よ姪よ風邪ひくな 菖蒲あや
姉絵本弟積み木日向ぼこ 上野泰
日向ぼこ歯型のついてゐる絵本 西山ゆりこ
他国見る絵本の空にぶら下り 阿部完市
絵本もやしてどんどここちら明るくする 阿部完市

手袋はもしや眠れる猫の下 ハードエッジ

もしや:
もしやとてあふぐ二日の初月夜 山口素堂
もしやこれ初夢なりや長居せむ ハードエッジ

子や眠しもう手袋をぐのさへ ハードエッジ

子や:
海士の子や舟の中より紙鳶 高井几董
リボンして伴奏の子や卒業歌 ハードエッジ
小僧皆士の子や梅の寺 高濱虚子
両脇に男の子女の子やはたゝ神 阿部みどり女
草笛の子や吾を見て又吹ける 星野立子
みめよくてにくらしき子や天瓜粉 飯田蛇笏
街の子や雨後の溜りの水遊び 石塚友二
いたづらをせむと笑む子やさくらんぼ 鶴岡加苗
数言へて言つてゐる子や十三夜 加倉井秋を
牛の子や賣られて遊ぶ小六月 正岡子規

風船は空に片手袋は地に ハードエッジ

空に地に:
春雷は空にあそびて地に降りず 福田甲子雄
地に月日空に月日や地虫出づ 橋本鶏二
大空に春の雲地に春の草 高濱虚子
たんぽぽは地に菜の花は空にかな ハードエッジ
地に遊び空にも駆けて稲雀 ハードエッジ

かれたる手袋パーを出したまま ハードエッジ

轢かれ:
蛇の子の轢かれし屍短かかり 林翔
胴長きゆえに轢かれし蛇ありぬ 五十嵐研三
大寒の軍手の轢かれ通しなり 松山足羽
厚氷轢かれ轢かれてなくなりぬ ハードエッジ
轢かれたる野兎の耳乾きをり 矢島渚男
どこを見ていた狸やら轢かれいる 高山青苔
路上に蜜柑轢かれて今日をつつがなし 原子公平
轢かれたる朴の落葉でありにけり 岸本尚毅

踏まれても踏まれても片手袋は待つ ハードエッジ

踏まれて:
ぬかるみの踏まれ踏まれて春なかば ハードエッジ
踏まれても踏まれなくても春の土 ハードエッジ
ぜすきりしと踏まれ踏まれて失せたまへり 水原秋櫻子
下萌のいたく踏まれて御開帳 芝不器男
うぐひすに踏まれてうくや竹柄杓 田川鳳朗
こぼれ蚕の踏まれて糸をもらしけり 石田勝彦
踏まれても踏まれても犬ふぐりかな 稲畑汀子
川沿ひに生えて踏まれて春の草 ハードエッジ
春の草踏まれ踏まれて近道に ハードエッジ
ふまれてもまだたんほゝの盛哉 正岡子規
絨緞の踏まれ踏まれて冬を越す ハードエッジ
アルミ缶の踏まれて錆びず落葉道 ハードエッジ

ひろはれてみても手袋心細こころぼそ ハードエッジ

拾はれ:
拾はれて長閑なバスの客となる ハードエッジ
拾はれてよりの仕合せ桜貝 後藤比奈夫
捨てられし苗や鬼にも拾はれず 相生垣瓜人
ひろわれてやっとどんぐりらしくなる 後藤麻衣子
小春日や循環バスに拾はれて 北原登美子

 

◎初案20句

 

 

◎推敲過程/テキスト/pdf

全95句/2枚

全然堂歳時記 冬 【手袋】テキスト推敲

 

 

◎推敲過程/A4プリント 原稿/pdf

なし

 

◎推敲過程/A4プリント 加筆/pdf

全1枚

全然堂歳時記 冬 【手袋】A4推敲 加筆

 

 

◎推敲過程/葉書プリント 原稿/pdf

葉書俳句プリント原稿 全3枚

全然堂歳時記 冬 【手袋】葉書推敲 原稿

 

 

◎推敲過程/葉書プリント 加筆/pdf

葉書俳句プリント加筆 全3枚

全然堂歳時記 冬 【手袋】葉書推敲 加筆

 

 

◎葉書俳句表側

 

 

◎データベース画面/桐v10

 

 

◎手袋秀句

リハーサルまだ手袋をつけたまま キートスばんじょうし
手袋が欠伸のやうに置かれあり 松野苑子
黒手袋指にぴちりと神を説く 齋藤愼爾
手袋の忘れてありし懺悔台 三枝正子
観音の手に手袋の忘れもの 綾部仁喜

手袋に年をかくして夫人かな 星野立子
手袋をはめるでもなく二次会へ 鶴岡加苗
手袋を取りて夜会の始まれり 稲畑廣太郎
手袋をぬぐ手ながむる逢瀬かな 日野草城
手袋に葬後の指をふかくさす 渡邊千枝子

手袋をかんで映画を見て泣いて 野見山ひふみ
大いなる手袋忘れありにけり 高濱虚子
手袋は手のかたちゆゑ置き忘る 猪村直樹
陽のあたる場所に片手袋置かれ 北大路翼
手袋をとりたての手の暖かく 星野立子

手袋にやさしい闇が五つある 北大路翼
手袋外すはマスク外すため 田中惣一郎
手袋の中の水仕の嫌ひな手 前内木耳
手袋の手が濡れて来しかなしさよ 西村和子
拾ひ上げたる手袋の濡れてをり 中岡毅雄

手袋に付きて解けざる霜払ふ 茨木和生
漂へる手袋のある運河かな 高野素十
海に浮く手袋何を掴みしぞ 福田蓼汀
手袋を出でていつもの手なりけり 櫂未知子
手袋の真白なる挙手をして征けり 日野草城

手袋に純白の白を借しまざる 山口誓子
雪白の手袋の手よ善き事為せ 中村草田男
礼装の白手袋や遺品めき 山口青邨
純白の手袋も買ひそろへたる 西村和子
ロートレクの踊子手袋黒く長く 山口青邨

指抜いて革手袋のただ黒し 岡本眸
枯れし明るさ黒手袋を深く嵌む 鷲谷七菜子
滅びよと黒き手袋落ちてゐる 奥坂まや
絲赤く手袋の破れつくろひし 正岡子規
手袋の革の匂ひの日暮かな 松野苑子

手袋のままに街頭署名せり 佐藤郁良
ふかふかの手袋が持つ通信簿 井上康明
手袋を出て母の手となりにけり 仲寒蟬
炭を挽く手袋の手して母よ 河東碧梧桐
手袋へ紐つけ首へ掛け幼な 福田蓼汀

黒手套嵌めたるあとを一握り 岡本眸
花を買ふ手袋のままそれを指し 山口波津女
指先をつまみ手袋拾ひけり 薮内小鈴
手袋に秘めたる指をおもはめや 飯田龍太
手袋の五指恍惚と広げおく 対馬康子

手袋の十本の指を深く組めり 山口誓子
指人形解き手袋に戻りけり 金子敦
手袋に五指を分ちて意を決す 桂信子
手袋の五指なげうつて五指のこる 行方克巳
手袋の指でフレミングの法則 佐川盟子

手袋を編みあげし指冷たくて 馬場龍吉
われ勝ちに指手袋の穴に入る 永礼能孚
手袋と鞭置かれあるペチカかな 原田青児
たいくつや人の手袋はめてみる 嵯峨根鈴子
穴へ忘れられ穴掘りたる手袋は 加倉井秋を

細長く皮手袋をしまひけり 今橋眞理子
やはらかき掌を与へむと手套脱ぐ 佐野まもる
手袋の片手穂高に忘れけり 冨村みと
黒き手套はめつゝ螺旋階くだる 岸風三楼
手袋の赤き手振りて歩きけり 日野草城

手袋を咥へ夜汽車の切符買ふ 後藤渡
手袋は落とすもの恋拾ふもの 柳沢桂子
手袋の難破のやうに落ちてをり 加藤御影

 

◎未練句/補遺/在庫処理

大あくびなり手袋の手を溢る ハードエッジ
手袋が決定的な証拠なり ハードエッジ
ぽんぽんと手袋の手を楽しげに ハードエッジ
手袋に憧れてゐる軍手かな ハードエッジ
手袋を脱ぎ手袋と遊びをる ハードエッジ

手袋の別れ手袋売場かな ハードエッジ
手袋を罪なきものが踏んでゆく ハードエッジ
親方の革手袋が真赤なり ハードエッジ
手袋で叩けばいつもと違ふ音 ハードエッジ
手袋を逆さに読んで叩かれる ハードエッジ

手袋てふ何の衒ひもなき名前 ハードエッジ
監督は手袋作業の人軍手 ハードエッジ
親方の革手袋の指図かな ハードエッジ
なくし易しよ手ぶくろもおふくろも ハードエッジ
手袋をしたぞと叩く両手かな ハードエッジ

手袋に指を温存してをりぬ ハードエッジ
手袋のものも言はずに落ちてをる ハードエッジ
手袋の大手を振つて歩き出す ハードエッジ

 

以上です