春 【落椿】 一つ落ち又一つ落椿かな

全然堂歳時記 春の部
【落椿】おちつばき

「落椿」は「椿」の子季語ですが、
制作数が多かったので独立させました

全然堂歳時記=現在、本号を含め57記事=春夏秋冬=21-9-14-10—2-1/年末年始
/2022.5.4

◎葉書俳句

◎テキスト

石段に朝日を待てる落椿 ハードエッジ

待てる:
永き日ぞつとめの母に待てる子に 林翔はやし しょう
蒲団ふとんしきくるゝを待てる端居はしいかな 星野立子
三寒さんかん四温しおんを待てる机かな 石川桂郎    けいろう
単線の下りを待てる時雨しぐれかな 平井照敏    しょうびん
その蒲団ふとん干し退院の日を待てる 西村和子

待てる/自作:
姉ちやんの帰りを待てる石鹸玉しゃぼんだま ハードエッジ
明日届く新酒しんしゅを待てる古酒こしゅの夜 ハードエッジ
船で着く秋刀魚さんまを待てる大根だいこかな ハードエッジ
静かさや初日を待てる富士の山 ハードエッジ
明々とあるじを待てる初日記はつにっき ハードエッジ
歌留多会かるたかい終るを待てるブーツかな ハードエッジ

うつとりと雲雀ひばりを聞きつ椿つ ハードエッジ

聞きつ:
さえずりを聞きつ涅槃ねはん金色こんじきに ハードエッジ
松のことは松に聞きつつ手入ていれかな 山田弘子
木の実降る音を聞きつゝひにけり 高濱虚子たかはま きょし
学校のことも聞きつつ毛糸編けいとあむ ハードエッジ
聖菓せいか売る声を聞きつつ人を待つ 金子敦かねこ あつし

一つ落ち又一つ落椿かな ハードエッジ

また一つ:
また一つ消えて最後の花篝はなかがり ハードエッジ
つくしんぼまたひとつから子がかぞふ 木附沢麦青きつけざわ ばくせい
また一つ死出しでの火花を誘蛾燈ゆうがとう ハードエッジ
またひとつちょう来て蜘蛛くもを太らする ハードエッジ
はちもののまた一つ枯れ初氷 宇佐美魚目うさみ ぎょもく
また一つ離陸りりくの灯あり大晦日おおみそか ハードエッジ
又一つ師走しわすの町が車窓しゃそう過ぎ 清崎敏郎きよさき としお
また一つ風の中より除夜じょやかね 岸本尚毅   なおき

ての多産系たさんけいなる椿の木 ハードエッジ

多産:
毒消し飲むやわが詩多産の夏来なつきたる 中村草田男   くさたお

あたくじ出るまで椿落ち続く ハードエッジ

籤:
夏蝶なつちょうの羽根を開けば外れ籤 しまねこくん
焼藷やきいもを買ひに出る籤引き当てし 山田弘子
ためらはず河豚ふぐ宝籤たからくじを買ふ 石川桂郎    けいろう

落ち延びて日向ひなたでし落椿 ハードエッジ

断崖だんがいけずる楽しみ落椿 ハードエッジ

断崖:
断崖のごとくに涅槃図ねはんずあおぐ 中岡毅雄なかおか たけお
断崖を吹き上りくる風涼し 長谷川櫂はせがわ かい
断崖をおろかに長き清水かな 尾崎紅葉    こうよう
考への断崖にをる端居はしいかな 上野泰    やすし
鰺刺あじさしや空に断崖あるごとし 林翔はやし しょう
断崖をねしいとどの後知らぬ 山口誓子   せいし
断崖を削りて落ちし木の実かな 西山泊雲    はくうん
断崖も甘しXマスケーキ ハードエッジ

落椿海に落ちなば塩辛しおからき ハードエッジ

落ちなば:
いま一つ椿落ちなば立ち去らん 松本たかし
このほこら椿落ちなばまるべし 森田峠    とうげ
スコール過ぎいざ落ちなばとしづくかな 如月真菜きさらぎ まな

落椿みな尻子玉しりこだま抜かれけり ハードエッジ

抜かれ:
ながき日の長き電車に追ひ抜かれ ハードエッジ
我先にに出て田草ぬかれけり 正岡子規  しき
引き抜かれ棒とし案山子たばねらる 岸風三楼きし ふうさんろう
引き抜かれゐて白粉花おしろいの咲き続く 菖蒲しょうぶあや
自転車にちりんと抜かれ日短ひみじか 齋藤朝比古さいとう あさひこ
大寒だいかんの湯を抜かれたる湯舟かな ハードエッジ
抜かれたる畑に干されて干大根ほしだいこ ハードエッジ
大根を抜きつ大根抜かれつつ ハードエッジ

うつせに火の山赤し落椿 ハードエッジ

火の山:
火の山の中途ちゅうとたきのかゝりけり 今井杏太郎    きょうたろう
火の山のすそ夏帽なつぼう振る別れ 高濱虚子たかはま きょし
火の山のマグマのごとくにしきせり 阿波野青畝あわの せいほ
火の山のきりふりかぶり登りゆく 上村占魚うえむら せんぎょ
火の山や真白にかづく昨日の雪 水原秋櫻子    しゅうおうし
火の山の死活しかつ不明のまま眠る 鷹羽狩行たかは しゅぎょう
海底の火の山眠る海鼠なまこかな 龍岡晋たつおか しん
火の山のふところふかき初湯はつゆかな 飴山實あめやま みのる

大悪人虚子きょし足下そっかの落椿 ハードエッジ

先行句:
初空はつぞらや大悪人虚子の頭上に 高濱虚子たかはま きょし

落椿赤くひよこはぴよぴよと ハードエッジ

猫の子をおどろかしたる落椿 ハードエッジ

驚かし:
鎌倉を驚かしたる余寒よかんあり 高濱虚子たかはま きょし
ありを驚かしたるアイスかな ハードエッジ
山々を驚かしたる除夜じょやかね ハードエッジ

緑濃みどりこき中を最後の落椿 ハードエッジ

緑濃:
桜貝さくらがい灯台とうだいのガラス緑濃く 田川飛旅子たがわ ひりょし
湯がやさし魚が美味うまし緑濃し 北大路翼きたおおじ つばさ
緑濃き明日あり今を眠るべく 岡本眸     ひとみ
緑濃きところは捨ててねぎ白し ハードエッジ
緑濃き冬菜畑ふゆなばたけや背の低く ハードエッジ

落椿踏み行くと意を決しけり ハードエッジ

意を決:
手袋に五指ごしを分ちて意を決す 桂信子

暗闇くらやみの積りて赤き落椿 ハードエッジ

積りて:
遅き日のつもりて遠きむかしかな 与謝蕪村よさ ぶそん
懺悔室ざんげしつ懺悔つもりて黴びにけり 堀口星眠ほりぐち せいみん
雪つもりつもりつもりて哀しさよ 久保田万太郎

さびたるも黒ずみたるも落椿 ハードエッジ

黒ず:
黒ずみて落椿とはもう言はず 宮津昭彦みやつ あきひこ
金屏きんびょうの金くろずめり山桜 茨木和生いばらき かずお
峯雲みねぐも朱肉しゅにくくろずむ村役場 土生重次はぶ じゅうじ
向日葵ひまわり群立ぐんりついまは黒ずみぬ 山口青邨    せいそん
黒ずむが真盛まっさかりなるか鶏頭花けいとうか 鷹羽狩行たかは しゅぎょう
鶏頭けいとうのくろずみて立つしぐれかな 室生犀星むろう さいせい

金粉はまだたつぷりと落椿 ハードエッジ

金粉:
金粉の黒ずむ絵巻養花天ようかてん 松野苑子
雲雀ひばり落ち天に金粉残りけり 平井照敏    しょうびん
口ぢうを金粉にして落椿 長谷川櫂はせがわ かい
金粉をこぼして火蛾ひがやすさまじき 松本たかし
一望いちぼうの冬海金粉打ちたしや 中村草田男   くさたお
りゅうねて金粉散らす賀状がじょうかな 中嶋秀子
初夢の金粉を塗りまぶしたる 高濱虚子たかはま きょし
花粉金粉ぶつかけられて駄目だめになる 阿部完市あべ かんいち

土かぶせ見えなくなりぬ落椿 ハードエッジ

見えなく:
流しびな見えなくなりて子の手とる 能村登四郎のむら としろう
夏休み見えなくなるも手を振つて ハードエッジ
親里は見えなくなりて秋の風 小林一茶   いっさ

この庭のここ十年の落椿 ハードエッジ

十年:
十年は使ひ廻せし苗札なえふだぞ ハードエッジ
十年後町はなに色チューリップ 南十二国みなみ じゅうにこく
サラリーマンあと十年か更衣ころもがえ 小川軽舟    けいしゅう
十年前亡くなりしとや人の秋 星野立子
主人せつを守る十年つくねいも 芥川龍之介あくたがわ りゅうのすけ
十年一トむかしとこそ小春こはるかな 久保田万太郎

◎推敲過程/テキスト/pdf

全然堂歳時記 春 【落椿】テキスト推敲

◎推敲過程/A4印刷+手書き/pdf

全然堂歳時記 春 【落椿】A4推敲

◎推敲過程/葉書印刷+手書き/pdf

全然堂歳時記 春 【落椿】葉書推敲

◎落椿秀句

落ざまに水こぼしけり花椿はなつばき 松尾芭蕉    ばしょう
椿落ちて昨日の雨をこぼしけり 与謝蕪村よさ ぶそん
古井戸のくらきに落る椿かな 与謝蕪村よさ ぶそん
落ちなむを葉にかかへたる椿かな 黒柳召波くろやなぎ しょうは

落るだけ落てさびしき椿かな 正岡子規  しき
落椿土にせんとしつつあり 高濱虚子たかはま きょし
落椿美し平家へいけ物語 高濱虚子たかはま きょし
赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧梧桐かわひがし へきごとう
落椿めにもしろきあはれかな 久保田万太郎
椿落つかたづをのんで他の椿 上野泰    やすし
椿落ちて水にひろごる花粉かな 松本たかし
いま一つ椿落ちなば立ち去らん 松本たかし
興奮のなほ冷めやらぬ落椿 相生垣瓜人あいおいがき かじん
椿落つ捨身すてみの事もあるなれや 相生垣瓜人あいおいがき かじん

落椿もみあふ最終便の水脈みお 鷹羽狩行たかは しゅぎょう
輪となりし水のおどろき落椿 鷹羽狩行たかは しゅぎょう
椿散るあゝなまぬるき昼の火事 富澤赤黄男とみざわ かきお
昨夜われら椿でありき落椿 池田澄子
口ぢうを金粉にして落椿 長谷川櫂はせがわ かい
みな椿落ち真中に椿の木 今瀬剛一いませ ごういち
火の椿踏んで百夜を通ひよ 藤山八江

◎参考サイト

【椿】/増殖する俳句歳時記

黒澤明『用心棒』『椿三十郎』 特報+予告篇

 

以上です