桃活けて雛はあらねどある如し
雛は赤に仏は金に座し給ふ
雛壇の前でくるりとランドセル
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
自作自選の歳時記です
桃活けて雛はあらねどある如し
雛は赤に仏は金に座し給ふ
雛壇の前でくるりとランドセル
七五三着飾るに良き寒さなり
胎内の次女も健やか七五三
長きものフランスパンと千歳飴
紫陽花は気圧の谷に咲くといふ
紫陽花も金魚の墓も雨の中
紫陽花やハムを土台の目玉焼
明暗の春よ根を張り芽を伸ばし
スキップで春の体が飛んでくる
春かなし下駄箱の名札みな剥がされ
背が伸びて細き手足や雛祭
雛の灯に子の宝物ありつたけ
雛の間のひと夜ひと夜の桃の花
あけがたの黄の冷たさの花菜かな
花菜畑とは一面の花粉色
菜の花を中洲に積んで船出せん
春を待つものの日あたり風あたり
美しき蝶になる夢春を待つ
春を待つ百獣の王その妻子
もれいづる光と声とおでんの香
おでん屋のテレビに「地球最後の日」
おでん酒ぐびぐび飲んで寝るとせむ
つながつて長き夜汽車の去年今年
十二時は即ち零時去年今年
時計みな去年今年なく励むなり
人気なき松の廊下や除夜の鐘
蕎麦を啜り蜜柑を剥いて除夜の鐘
NHK第一放送除夜の鐘
重ね着の雪より白き恋衣
着膨れのままか一肌脱ぐべきか
着膨れの仏の顔も三度とや
恋人と葡萄の園に昼寝して
食べ終へて骨格残る葡萄かな
園閉ざすころには雪か葡萄村
赤々と月の出を待つ夕焼かな
ふる雪もちる花もなき月夜なり
真夜中の月夜の日本大使館
婚の荷でありし柿の木祖母の庭
入りし刃にシクと切られし柿の種
柿たわわ日本の村の滅びつつ
流れ星ただ一筋に光るなり
一の糸そして二の糸流れ星
流星や柱の中に錆びし釘
素麺の入りし桐箱平べつた
素麺の湯を沸かしつつ胡瓜揉み
印度人も素麺すする暑さかな
蟻の列鞭の如くに飴に伸ぶ
黒山の蟻に歓喜の声もなし
蟻の列にも殿のありぬべし
わが先祖代々の墓暖かし
足し算はもらつてばかりあたたかし
うんちして笑ふ赤ちやん暖かし
落葉みな土に帰しゆく蕗の薹
小さき葉に小さく包まれ蕗の薹
味噌汁に鶉の卵蕗の薹
鬼のごと追儺太鼓を打ち鳴らす
ぶらんこにもすべり台にも鬼は外
逃れ来て春立つ朝の鬼ヶ島
聖夜劇の天使の羽根を枕辺に
眠りたる子らにホワイトクリスマス
メリークリスマス空飛ぶプレゼント
長き夜を線香の火の沈みゆく
長き夜の胡麻を圧して胡麻油
而して頁を捲る夜長かな
旧家こそ昔ながらに涼しけれ
黄の辛子みどりの山葵涼しけれ
忘らるることも涼しと思ひけり
柿の実の大暑に耐ふる緑色
暑し暑しと素麺すする印度人
暗闇に団扇を探る暑さかな
襷して新茶娘や駅前に
サイダーとラムネの差異を雲に聞く
アイスクリーム食べさせてゐる古写真
持つて出る昨日の傘や梅雨暗し
梅雨出水畦道消えて恐ろしや
草引けば土美しや梅雨晴間
降り方の緩急自在梅雨の日々
梅雨なれや傘の袋が落ちてをる
長梅雨の変な処に変な虫
卵焼黄色豆飯緑色
目に見えぬ塩の恩寵豆御飯
母の日の母なき月日豆ごはん
青い目は魔法使の子猫とも
猫の子に何かいいことありさうな
猫の子と雨音を聞く日曜日
花ふぶき給水塔をたてまつる
後に続けと遠近の花吹雪
夢の世のホワイトノイズ花吹雪