ぬるみたる水にぬるりと蝌蚪の紐
水遁の術でどろんと蝌蚪に化け
月夜の晩ばかりじやないぞ蝌蚪に足
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
ぬるみたる水にぬるりと蝌蚪の紐
水遁の術でどろんと蝌蚪に化け
月夜の晩ばかりじやないぞ蝌蚪に足
猫の子の噂たちまち組中に
あくびなら子猫も負けてをらざりし
座布団の子猫お行儀よくして「ね」
モノリスを埋めて蒲公英咲かせある
蒲公英の旅装は丸く白づくめ
蒲公英の絮大空へ青空へ
二人しておむすび持つて凧揚に
凧揚げて歌ふ雲雀を驚かす
ゆふぐれのさびしさに凧つれかへる
就中雛の部屋の春燈
長靴で泥濘を来し雛の客
街も家も雛も一夜の焼夷弾
巫女赤く神主白く梅みごろ
今年はや娘十八むめの花
白梅の末は梅酒か梅干か
蒲公英を少しちやほやしてやりぬ
蒲公英や鯵が干されてその日陰
蒲公英の絮に全てを託しけり
ふる雪にお涅槃の寺ま白なり
涅槃図に贔屓の菩薩ありにけり
涅槃図の涙ながらに褪せゆくも
うつとりと雲雀を聞きつ椿落つ
当り籤出るまで椿落ち続く
この庭のここ十年の落椿
ぶらんこの搭乗員の列に付く
ぶらんこも代替りせし母校かな
明日は遠足ぶらんこを漕ぎに漕ぐ
遠足の子らを満載春の山
遠足に原寸大の富士の山
ころころと誰が遠足のおむすびぞ
花の雨ぬれて鴉の重たけれ
花の雨花の都に早くも灯
クリームかチョコかと迷ふ花の雨
ダム底に花を忘れし桜かな
遠山の白雪みゆる桜かな
今はもう住めば都の桜かな
ひらかなのふところ丸く春の風
春風のやうな幼子春の風
春風に冷たくされてゐたりけり
沐浴も叶はぬ雛を納めけり
神主が風にはたはた雛流し
雛流し鯛や鮃の海へかな
桃活けて雛はあらねどある如し
雛は赤に仏は金に座し給ふ
雛壇の前でくるりとランドセル
明暗の春よ根を張り芽を伸ばし
スキップで春の体が飛んでくる
春かなし下駄箱の名札みな剥がされ
背が伸びて細き手足や雛祭
雛の灯に子の宝物ありつたけ
雛の間のひと夜ひと夜の桃の花
あけがたの黄の冷たさの花菜かな
花菜畑とは一面の花粉色
菜の花を中洲に積んで船出せん
わが先祖代々の墓暖かし
足し算はもらつてばかりあたたかし
うんちして笑ふ赤ちやん暖かし
落葉みな土に帰しゆく蕗の薹
小さき葉に小さく包まれ蕗の薹
味噌汁に鶉の卵蕗の薹
青い目は魔法使の子猫とも
猫の子に何かいいことありさうな
猫の子と雨音を聞く日曜日
花ふぶき給水塔をたてまつる
後に続けと遠近の花吹雪
夢の世のホワイトノイズ花吹雪
リボンして伴奏の子や卒業歌
去るものは追はず卒業式終る
忘れ得ぬことぞ悲しき卒業歌
苗札に大きくなれと書いてある
苗札の予告通りに芽吹きたる
苗札の影くつきりと良い天気
燃えて立つ鋼の足の花篝
また一つ消えて最後の花篝
花篝消えて夜明の石畳
今日こそは晴れて桜の出番なれ
僧の名を沢庵と云ふ花の宴
花冷の銀の落花となりにけり
美しやこの囀も鳥籠も
囀の色とりどりの故郷かな
古寺の朽ち行くままに囀れり
淡々と流るる色も石鹸玉
しやぼん玉わつて天使の楽しけれ
多作なる虚子の一生石鹸玉