ペアリング66 長き長き春暁の貨車なつかしき 加藤楸邨

追記:井の底/2020.3.13

ペアリング66

◎水の表情

川波の手がひらひらとかんくる 飯田蛇笏   だこつ

さざ波は立春りっしゅんをひろげたり 渡辺水巴    すいは

春雨はるさめやみなまたたける水たまり 木下夕爾きのした ゆうじ

 

 

◎石ころの春・秋・冬

石ころに寄る石ころや暖かし ハードエッジ

秋声しゅうせいや石ころ二つよるところ 村上鬼城    きじょう

石ころの相倚あいよりむつみ冬すみれ 山口青邨    せいそん

 

 

◎明けと夜更

長き長き春暁しゅんぎょうの貨車なつかしき 加藤楸邨    しゅうそん

やりすごす夜汽車の春の燈をつらね 木下夕爾

 

 

◎春雨傘

れをらぬ春雨傘はるさめがさも置かれある 上野泰   やすし

雨に濡れ春雨傘となりにけり ハードエッジ

 

 

◎寂しさ

さびしさにネオンのともる花の雨 ハードエッジ

淋しさにまた銅鑼どら打つや鹿火屋守かびやもり 原石鼎  せきてい

 

 

◎ゆらゆら、にこにこ

生涯二万日いまはハンモックにゆらゆら 宇佐美魚目うさみ ぎょもく

地球一万余回転冬日にこにこ 高濱虚子たかはま きょし

 

 

◎水の底など

水底を見て来た顔の子鴨こがもかな 内藤丈草ないとう じょうそう

井の底をちよつと見て来る小てふかな 小林一茶   いっさ

忘れもの取りにぼうふらまた沈む 加藤静夫

泥鰌どじょう浮いてなまずも居るというて沈む 永田耕衣   こうい

水底の日暮見て来しにおの首 福永耕二

水底を見て来し鳰の眞顔まがおかな 中嶋秀子

 

 

◎鍛へし

声は皆山にきたへし盆踊ぼんおどり 加藤知世子

大根を抜いて鍛へしかいなとも ハードエッジ

 

 

◎わすれもの

観音かんのんの手に手袋の忘れもの 綾部仁喜あやべ じんき

忘れ物持たされてゐる雪だるま 金子敦   あつし

 

 

◎戦と数

戦場に近眼鏡はいくつ飛んだ 池田澄子

戦死者と傘の忘れものの数 北大路翼きたおおじ つばさ

 

以上です