本箱に手の届かざる炬燵かな 会津八一
ざつくりと割れたるものを闇汁に 岸本尚毅
店の灯の明るさに買ふ風邪薬 日野草城
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
本箱に手の届かざる炬燵かな 会津八一
ざつくりと割れたるものを闇汁に 岸本尚毅
店の灯の明るさに買ふ風邪薬 日野草城
ピストルの手入れ運動会前夜
蟷螂の怒りに燃ゆる緑色
紫も緑も黒も葡萄なり
腹巻の腹話術師もありぬべし
乾鮭に腸のなき叫びかな
青空を胸一杯に囀るよ
両足で乗つて重たき踏絵かな
赤ん坊の足裏ふつくら汗臭き
山茶花の散り敷く上を土足にて
涅槃絵図涙ながらに褪せゆくも
吾輩は西日に立てる赤い箱
呪文の如くチヨコレイトや露地の秋
大好きな春を二人で待つつもり 西村麒麟
手の薔薇に蜂来れば我王の如し 中村草田男
猫が知る冬日もつとも濃きところ 伊藤伊那男
マンションの昼の閑けさ花水木 鶴岡加苗
鐘の音は音速で消ゆ秋の暮 ハードエッジ
ふゆぞらに雲一つなきまことかな 久保田万太郎
天井に届く悲しみ涅槃絵図
さくらんぼ美しき血を絶やさずに
よく遊びよく学ぶべき秋のチョコ
生産地シールはピンク春キャベツ ハードエッジ
白狐もとより踊上手なり ハードエッジ
まだ馴れぬこの世の寒さ乳を欲る 鷹羽狩行
夫かなしくすし通ひに日焼して 岡本眸
秋の暮大魚の骨を海が引く 西東三鬼
賀状書くわが旧姓のおとうとへ 内田美紗
恋人と葡萄の園に昼寝して
食べ終へて骨格残る葡萄かな
園閉ざすころには雪か葡萄村
吾も春の野に下り立てば紫に 星野立子
二三粒葡萄沈みし洗桶 ハードエッジ
外套を脱げば一家のお母さん 八木忠栄
赤々と月の出を待つ夕焼かな
ふる雪もちる花もなき月夜なり
真夜中の月夜の日本大使館
婚の荷でありし柿の木祖母の庭
入りし刃にシクと切られし柿の種
柿たわわ日本の村の滅びつつ
流れ星ただ一筋に光るなり
一の糸そして二の糸流れ星
流星や柱の中に錆びし釘
水替へてひと日蜆を飼ふごとし 大石悦子
ぱかと開く缶ペンケース夏の蝶 ハードエッジ
いやいやをしながら水洟を拭かれ ハードエッジ
素麺の入りし桐箱平べつた
素麺の湯を沸かしつつ胡瓜揉み
印度人も素麺すする暑さかな
大いなるものはゆるりと初日の出
人々の歩みゆくなり初詣
歳時記の古きを開く淑気かな
蔑めり激しからざる雷などを 山田みづえ
秋袷育ちがものをいひにけり 久保田万太郎
元日の開くと灯る冷蔵庫 池田澄子
初刷にがばりと富士やインクの香
アルバムにもう懐しや初写真
正月を遊び尽して目出度けれ
山寺や涅槃図かけて僧一人 星野立子
鉾宿に男ばかりが嬉しさう 西村和子
高く飛ぶものはゆつくり初御空 ハードエッジ
ここに駅つくれと吹雪く関ヶ原
昼月や蜜柑に淡き花の跡
ノックして芯を出すペン春近し
春雪や二段重ねの室外機 ハードエッジ
柿若葉豆腐ふれあふ水の中 長谷川櫂
蜩は寂しと幼な心にも 上野泰
螢籠昏ければ揺り炎えたたす 橋本多佳子
死は何かどまん中なり雪ちらちら 金田咲子
除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり 森澄雄
水の地球すこし離れて春の月 正木ゆう子
行水のすて所なき虫の声 上島鬼貫
初暦頼みもかけず掛けにけり 高濱虚子
蟻の列鞭の如くに飴に伸ぶ
黒山の蟻に歓喜の声もなし
蟻の列にも殿のありぬべし
夕雲のふちのきんいろ雛納め 鍵和田[ゆう]子
団栗の葎に落ちてくゞる音 鈴木花蓑
初映画ほろほろ泣けて恥かしや 富安風生
外出自粛中、
動画もマンガも見飽きて、
ふと俳句でもと思った人のための、
初めての俳句歳時記
【春300句】
わが先祖代々の墓暖かし
足し算はもらつてばかりあたたかし
うんちして笑ふ赤ちやん暖かし
何事も無かつたやうに花は葉に ハードエッジ
栗飯のまつたき栗にめぐりあふ 日野草城
嚔して驚いてゐる赤ん坊 ハードエッジ