ペア73 海に入ることを急がず春の川 富安風生

ペア73

◎一輪挿の四季

暖かや一輪挿いちりんざしに花増やす ハードエッジ

一輪ざしに活けたる薔薇ばらの二輪かな 正岡子規  しき

新涼しんりょうや一輪ざしの白桔梗ききょう 阿部みどり女

一輪挿し転びあふれて氷りをり 石田波郷    はきょう

枯れ進む一輪挿しの長きどう/ほら 対馬康子つしま やすこ

 

 

◎室外機の四季

春雪しゅんせつや二段重ねの室外機 ハードエッジ

室外機涼しき部屋のすぐ外に ハードエッジ

室外機月見の酒を置きにけり 岡田一実

暖房の室外機の上灰皿置く 榮猿丸さかえ さるまる

 

 

◎急がぬ川

海に入ることを急がず春の川 富安風生とみやす ふうせい

大川はくをいそがず桜餅さくらもち 上田五千石    ごせんごく

東京の川は急がず桜餅 佐藤郁良   いくら

を抜けてよりは急がず水の秋 若井新一

 

 

◎力ある

春の雪色にも力あるごとく 田中裕明    ひろあき

力ある風出てきたり鯉幟こいのぼり 矢島渚男    なじさお

日脚伸ひあしのぶ光に力ある如く 西村麒麟   きりん

 

 

◎おいて来し子

おいて来し子のことばかり花吹雪はなふぶき 星野立子

おいて来し子ほどに遠きせみのあり 中村汀女    ていじょ

おいて来し子の眠る頃虫のやみ 西村和子

 

 

◎豆腐と花や葉

豆腐屋とうふやの奥の水にも浮く落花らっか 鷹羽狩行たかは しゅぎょう

柿若葉かきわかば豆腐ふれあふ水の中 長谷川櫂      かい

豆腐屋の豆腐の水にもみぢかな 正岡子規

 

 

手摺てすり

蝸牛かたつむり雨の手すりのうらがはに 上田信治

ベランダの手摺に小さき雪兎ゆきうさぎ ハードエッジ

 

 

◎乗客

炎天えんてんよりそうひとり乗り岐阜羽島ぎふはじま 森澄雄

旅客機ざす秋風のアラブ服が最後 飯島晴子

乗客となつて師走しわすの町を見て ハードエッジ

 

 

◎おさなごころ

雨乞あまごいやをさな心におそろしき 正岡子規

ひぐらしさびしとおさな心にも 上野泰    やすし

 

 

◎途方に暮れ

昼顔のあれは途方とほうに暮るる色 飯島晴子

蜩や途方といふは暮れやすき 山田露結   ろけつ

産声うぶごえの途方に暮れていたるなり 池田澄子

 

以上です