和語俳句 【つ】 仕る手に笛もなし古雛 松本たかし

推敲:春の空→春の坂/2018.7.12、追加:集ふ/2018.2.22
◎和語俳句、た行の「つ」です
  →「た」
  →「ち」
  →「て」
  →「と」

◎仕る=つかまつる

  →任す=まかす

仕る手に笛もなし古雛  松本たかし

  ※古雛=ふるひいな
  初学の頃の歳時記で出会いました
  「仕る」が読めない!
  「仕」なんて小学校の漢字で、
  「仕事」の「仕」なのに、
  誰でも書けるのに、
  どう唸っても読めない

  結局、
  辞書引いて、「つかまつる」と判明
  「つかまつる」なんて時代劇
  お侍さんの物言い
  しかもそれが、
  綺羅びやかな雛祭に使われているのです
  いかにも実直そうな笛方であります

  それでいて、悲しいかな、
  その笛を失くしてしまったと

  短い俳句でこんなに物が言えるのだと驚きました

  さて、失われた笛の行方は、、、(即吟/2017.7.21)
  ぼろ市に五人囃子の笛太鼓  ハードエッジ

  一方、競演するかのように、
  春昼や奏でんとして阿修羅の手  中田剛(ごう)
  春昼=しゅんちゅう、奏でん=かなでん、阿修羅=あしゅら

芦の葉も笛仕る神の旅  高濱虚子(たかはま・きょし)
  ※芦=あし
  出雲へ行く神々の旅の、お見送りです

一ふしはいづれの虫もつかまつる  向井去来(きょらい)

舞初や昔おぼえを仕る  白井一江
  ※舞初=まいぞめ
  「昔覚え」というのも古風な、目出度い、言い回しです
  55DBに「昔覚え」はこの1句のみ

 

 

◎掴む=つかむ

雲を掴むやうな話を春の坂  ハードエッジ

飛んできて紅梅の枝を鷲掴み  ハードエッジ
  ※鷲掴み=わしづかみ

螢火や手首ほそしと掴まれし  正木ゆう子

黄泉が空掴まんとして曼珠沙華  竹岡一郎
  ※黄泉=よみ、曼珠沙華=まんじゅしゃげ

掴むものなくて焚火の手なりけり  ハードエッジ

蓮根掘モーゼの杖を掴み出す  鷹羽狩行(たかは・しゅぎょう)
  ※蓮根掘=はすねほり

鮟鱇の凍てざる腸を掴み出す  遠藤若狭男(わかさお)
  ※鮟鱇=あんこう、凍て=いて、腸=わた

 

 

◎噤む=つぐむ

いとけなき口を噤みぬ花桔梗  松瀬青々(せいせい)
  ※花桔梗=はなききょう

老の口初笑ひして噤むなる  皆吉爽雨(そうう)

  つぐまない人もいます
   口あけて腹の底まで初笑  高濱虚子

 

 

◎繕ふ=つくろう

  季語の「垣繕ふ」は除外

繕ひて小さくなりぬ捕虫網  今井聖(せい)
  ※捕虫網=ほちゅうもう

つくろへり我は外套鴉は羽  木下夕爾(ゆうじ)
  ※外套=がいとう、鴉=からす

 

 

◎伝ふ=つたう

春雨や蜂の巣つたふ屋根の漏  松尾芭蕉(ばしょう)
  蜂の巣=はちのす、漏=もり

柿喰ヒの俳句好みしと伝ふべし  正岡子規(しき)

富士を出て箱根をつたふ時雨哉  正岡子規
  時雨哉=しぐれかな

全長を伝つて氷柱雫かな  ハードエッジ
  氷柱=つらら、雫=しずく

手毬唄うたひ伝へてなつかしき  高濱虚子
  手毬唄=てまりうた

 

 

◎包む=つつむ

割れ瓶を包んで捨つる梅雨入かな  北大路翼きたおおじ つばさ
  ※瓶=びん、梅雨入=ついり

安らかや日は夕焼に包まれて  ハードエッジ

枯深し欠伸を包むたなごころ  岡本眸(ひとみ)
  ※欠伸=あくび、たなごころ=手の心=手のひら

年玉を妻に包まうかと思ふ  後藤比奈夫(ひなお)

炎に包まれて完全な寺となる  中村安伸
  ※無季俳句

 

 

◎集ふ=つどう

  →集む=あつむ
  →集る=たかる
こんな夜はかめも鳴くかや集ひ来よ  高木晴子

うち集ふことは春待つことに似て  後藤夜半やはん

日向ひなたぼこ神の集ひも日向ならむ  大野林火りんか

 

 

◎抓む=つまむ

つまみをり靴の固さの甲虫  齋藤朝比古
  ※甲虫=かぶとむし

つままれて紙魚は指紋となりにけり  大石石仏
  ※紙魚=しみ

露草や分銅つまむピンセット  小川軽舟(けいしゅう)
  ※露草=つゆくさ、分銅=ふんどう

白粉花の種抓まんとして零す  ハードエッジ
  ※白粉花=おしろい、零す=こぼす

聖菓切るためにサンタをつまみ出す  松浦敬親
  ※聖菓=せいか

 

 

◎貫く=つらぬく

ひとすじの水貫ける野焼かな  高田正子

仏飯をつらぬく箸や日の盛り  鷹羽狩行(たかは・しゅぎょう)

足元を船の貫く橋涼み  ハードエッジ

去年今年貫く棒の如きもの  高濱虚子

 

 

◎連る=つる

麗かや赤子を抱いて家族連れ  ハードエッジ
  ※麗か=うららか


どこへゆきしや母の日の妻を子が連れて  安住敦(あつし)


父ははを連れて兄来る茄子の牛  安住敦


流灯の白蛾を連れてゆきにけり  望月周
  蛾=が


泣く人の連れ去られゐし火事明り  中村汀女(ていじょ)


夜ごと来る狸子連れとなりにけり  中本真人
  ※狸=たぬき

その他のた行:

  →「た」
  →「ち」
  →「て」
  →「と」

以上です