ぬるみたる水にぬるりと蝌蚪の紐
水遁の術でどろんと蝌蚪に化け
月夜の晩ばかりじやないぞ蝌蚪に足
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
自作自選の歳時記です
ぬるみたる水にぬるりと蝌蚪の紐
水遁の術でどろんと蝌蚪に化け
月夜の晩ばかりじやないぞ蝌蚪に足
猫の子の噂たちまち組中に
あくびなら子猫も負けてをらざりし
座布団の子猫お行儀よくして「ね」
モノリスを埋めて蒲公英咲かせある
蒲公英の旅装は丸く白づくめ
蒲公英の絮大空へ青空へ
二人しておむすび持つて凧揚に
凧揚げて歌ふ雲雀を驚かす
ゆふぐれのさびしさに凧つれかへる
就中雛の部屋の春燈
長靴で泥濘を来し雛の客
街も家も雛も一夜の焼夷弾
巫女赤く神主白く梅みごろ
今年はや娘十八むめの花
白梅の末は梅酒か梅干か
蒲公英を少しちやほやしてやりぬ
蒲公英や鯵が干されてその日陰
蒲公英の絮に全てを託しけり
ふる雪にお涅槃の寺ま白なり
涅槃図に贔屓の菩薩ありにけり
涅槃図の涙ながらに褪せゆくも
左義長の火の粉ぱちぱち新しき
火もまた涼しとどんどの中の達磨さん
どんど火の崩れむばかり崩れたり
めでたさの観音びらき初御空
高く飛ぶものはゆつくり初御空
青空は塵の恩寵初御空
神々は陸海空に初日の出
藍すがし茜めでたし初日の出
宿の湯の永久にあふるる初日かな
行く年の袋小路の三輪車
ゆく年や湯に湯加減を問はれをる
行く年の窓開けてみる直ぐ閉める
数へ日にドプラー効果あるやうな
数へ日に宅急便を待たす罪
数へ日の街が暮れ行くカフェオーレ
言葉さへ躓くやうに日、みじか
葱細く大根太く日短
短日の終点にゐる電車かな
枯木にも電飾の綺羅クリスマス
待つ人に後光の如く聖樹立つ
紅白に着膨れてゐるサンタこそ
御無念の殿に代りて雪女
雪女郎ながす涙のガラス玉
寛いて一風呂あびよ雪女
やすらかや蜜柑に淡き花の跡
裏打のもやもやもまた蜜柑なり
幼子が母に剥きやる蜜柑かな
根つからの大根畑でありにけり
大根があれば何とか成りさうな
ライオンは食はぬ大根我は食ふ
セーターを嬰がひつぱる涎ふく
何話そセーターを編む母のそば
セーターを開きにすればカーディガン
旅ゆけば秋田青森りんご晴れ
見て見てと小学四年林檎むく
しりとりのりんごが誘ふごはんかな
ドガとその踊子たちの夜食の絵
急患に夜食なかばで呼び出され
眠たさの夜食つまみつ乳飲ます
地下水をタンクに貯めし大西瓜
切られるか叩き割られるかの西瓜
素麺に添へて西瓜の箸休め
白黒の間の黄色終戦日
植民地解放成らず敗戦日
悪魔の手借りし米国戦勝日
うつとりと雲雀を聞きつ椿落つ
当り籤出るまで椿落ち続く
この庭のここ十年の落椿
ぶらんこの搭乗員の列に付く
ぶらんこも代替りせし母校かな
明日は遠足ぶらんこを漕ぎに漕ぐ
遠足の子らを満載春の山
遠足に原寸大の富士の山
ころころと誰が遠足のおむすびぞ
花の雨ぬれて鴉の重たけれ
花の雨花の都に早くも灯
クリームかチョコかと迷ふ花の雨
ダム底に花を忘れし桜かな
遠山の白雪みゆる桜かな
今はもう住めば都の桜かな
ひらかなのふところ丸く春の風
春風のやうな幼子春の風
春風に冷たくされてゐたりけり
沐浴も叶はぬ雛を納めけり
神主が風にはたはた雛流し
雛流し鯛や鮃の海へかな