腰伸ばし見るや周りの潮干狩
ちらかつて庭うつくしや野分あと
手袋で好きな絵本を撫でてをる
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
腰伸ばし見るや周りの潮干狩
ちらかつて庭うつくしや野分あと
手袋で好きな絵本を撫でてをる
初恋のあとの永生き春満月 池田澄子
残暑とはショートパンツの老人よ 星野立子
飲めるだけのめたるころのおでんかな 久保田万太郎
菫束ぬ寄りあひ易き花にして 中村草田男
ガラス戸の遠き夜火事に触れにけり 村上鞆彦
如月や身を切る風に身を切らせ 鈴木真砂女
つながつて長き夜汽車の去年今年
十二時は即ち零時去年今年
時計みな去年今年なく励むなり
冬たのし新幹線型スニーカー
大皿に青き山脈雪催
「翌年のパリ」の字幕に雪と兵
人気なき松の廊下や除夜の鐘
蕎麦を啜り蜜柑を剥いて除夜の鐘
NHK第一放送除夜の鐘
重ね着の雪より白き恋衣
着膨れのままか一肌脱ぐべきか
着膨れの仏の顔も三度とや
コロナ禍、
年末年始も外出自粛中で、
ふと俳句でもと思った人のための、
初めての俳句歳時記
【冬500句】
順番に赤子を抱く雛の客 抜井諒一
広間よりさらに涼しき大広間 ハードエッジ
藍すがし茜めでたし初日の出 ハードエッジ
本箱に手の届かざる炬燵かな 会津八一
ざつくりと割れたるものを闇汁に 岸本尚毅
店の灯の明るさに買ふ風邪薬 日野草城
ピストルの手入れ運動会前夜
蟷螂の怒りに燃ゆる緑色
紫も緑も黒も葡萄なり
腹巻の腹話術師もありぬべし
乾鮭に腸のなき叫びかな
青空を胸一杯に囀るよ
両足で乗つて重たき踏絵かな
赤ん坊の足裏ふつくら汗臭き
山茶花の散り敷く上を土足にて
涅槃絵図涙ながらに褪せゆくも
吾輩は西日に立てる赤い箱
呪文の如くチヨコレイトや露地の秋
大好きな春を二人で待つつもり 西村麒麟
手の薔薇に蜂来れば我王の如し 中村草田男
猫が知る冬日もつとも濃きところ 伊藤伊那男
マンションの昼の閑けさ花水木 鶴岡加苗
鐘の音は音速で消ゆ秋の暮 ハードエッジ
ふゆぞらに雲一つなきまことかな 久保田万太郎
天井に届く悲しみ涅槃絵図
さくらんぼ美しき血を絶やさずに
よく遊びよく学ぶべき秋のチョコ
生産地シールはピンク春キャベツ ハードエッジ
白狐もとより踊上手なり ハードエッジ
まだ馴れぬこの世の寒さ乳を欲る 鷹羽狩行
夫かなしくすし通ひに日焼して 岡本眸
秋の暮大魚の骨を海が引く 西東三鬼
賀状書くわが旧姓のおとうとへ 内田美紗
恋人と葡萄の園に昼寝して
食べ終へて骨格残る葡萄かな
園閉ざすころには雪か葡萄村
吾も春の野に下り立てば紫に 星野立子
二三粒葡萄沈みし洗桶 ハードエッジ
外套を脱げば一家のお母さん 八木忠栄
赤々と月の出を待つ夕焼かな
ふる雪もちる花もなき月夜なり
真夜中の月夜の日本大使館
婚の荷でありし柿の木祖母の庭
入りし刃にシクと切られし柿の種
柿たわわ日本の村の滅びつつ
流れ星ただ一筋に光るなり
一の糸そして二の糸流れ星
流星や柱の中に錆びし釘
水替へてひと日蜆を飼ふごとし 大石悦子
ぱかと開く缶ペンケース夏の蝶 ハードエッジ
いやいやをしながら水洟を拭かれ ハードエッジ
素麺の入りし桐箱平べつた
素麺の湯を沸かしつつ胡瓜揉み
印度人も素麺すする暑さかな
大いなるものはゆるりと初日の出
人々の歩みゆくなり初詣
歳時記の古きを開く淑気かな
蔑めり激しからざる雷などを 山田みづえ
秋袷育ちがものをいひにけり 久保田万太郎
元日の開くと灯る冷蔵庫 池田澄子
初刷にがばりと富士やインクの香
アルバムにもう懐しや初写真
正月を遊び尽して目出度けれ
山寺や涅槃図かけて僧一人 星野立子
鉾宿に男ばかりが嬉しさう 西村和子
高く飛ぶものはゆつくり初御空 ハードエッジ