秋 【桃】 白桃や月の如くに盆の上

全然堂歳時記 秋の部
【桃】もも

全然堂歳時記=現在、本号を含め107記事=春夏秋冬–年末年始=29-25-22-19–5-7
/2024.9.9

子季語:桃の実、白桃、水蜜桃
フレーズ:桃畑、桃の香、桃匂ふ、桃熟る、桃の皮、桃の種、桃売、桃剥く、桃啜る

 

◎葉書俳句の日付ミス/自筆部分

情けないことに、
鉛筆サインの日付を間違えました

刊行日は狙っていた重陽の節句(9.9)にも、
十日の菊(9.10)にも間に合わず、
不本意な「9.11」になったのですが、
残暑のためか、
無意識に「8.11」と書いてしまいました

しかも、サインの途中ではなく、
サインを終え、
郵送分の投函も終えた段階で、ようやく発覚

全数を再制作する気力はなく、
資源保護にも配慮して、
ボールペンによる強制上書きで対処しました

なので、全然堂歳時記史上初のサインミス!ということで、
レア物です (^_^;;; ←ヲイヲイ

 

◎葉書俳句

以下がオリジナル

 

◎テキスト

桃太郎のつんととがりし桃のもん ハードエッジ

昔、桃太郎の絵本で見た桃は尖っていたハズだが、
現在見かける桃は大方、丸っこい
流通時に傷つかないようにとか、その他の品種改良で、
尖らなくなったのだろう

当初、「桃の実」や「白桃」で作句したが、
一般的ではなさそうなので「桃太郎の紋」に転進、ちょっと苦しい
「これは季語じゃない」派に叩かれそう

なお、
家紋としては「桃紋もももん」と言うらしい、ちょっと可笑しい
桃紋/Chrome検索

つんと:
つんとせし乳房を抱く月朧 仙田洋子
雛飾る磯の匂ひがつんと来て 岸本尚毅
雛の日やつんと冷たき除光液 折勝家鴨
粉わさびつんとにほへば夏めく夜 飯田龍太
ソフトクリーム仕上げはつんとすましたる 安里道子
つんと酢が鼻を突くなり夏料理 抜井諒一
うすもののつんと乳房のありにけり 小澤克己
夜濯や漂白剤がつんと来て ハードエッジ
菊の香のつんと神さま仏さま ハードエッジ
露草のつんとかゝげし花一つ 河野静雲
売家につんと立たる冬木かな 小林一茶
靴墨のつんと香の立つ淑気かな 小川軽舟

白桃はくとうのいくらでもある桃畑 ハードエッジ

いくらでも:
いくらでも水吸ふ墓標遠蛙 奈良文夫
まだいくらでも眠れそう昼寝覚 鶴岡加苗
いくらでも眠れる秋となりにけり 田中重美
いくらでも眠れる一日秋に入る 茅根知子
幾らでも花火の消ゆる夜空かな ハードエッジ
いくらでも芋蔓式や豊の秋 ハードエッジ
いくらでも水吸ふ墓に参りけり 岩田由美
拾ふ気になれば団栗いくらでも 柳本津也子
磯焚火拾へば木切れいくらでも 水木祥壱
いくらでも雪捨てられて日本海 ハードエッジ

白桃はくとうなしかきとはまた別の ハードエッジ

季語濃度300%

「梨や柿」か「柿や梨」かで迷う
前者のほうが音がなだからな気がする
K音で入るとN音よりも、音がきつめで、
この句には合わないような、、、

別の:

また別の濁りを加へ雪解川 山本一歩
浅蜊の舌別の浅蜊の舌にさはり 小澤實
角落ちて別の愛嬌鹿にあり 猪俣千代子
花菜畑昃りて別の明るさに 猪俣千代子
遠くには別の風あり花吹雪 水野あき子

白夜とは別の光に朝が来る 千原叡子
夕焼に別の赤子も泣きだせり ハードエッジ
転がりて別の姿となる毛虫 小泉八重子

秋の雲いわし雲とはまた別の ハードエッジ
男てふ別の生き物西鶴忌 吉田林檎
桃のなか別の昔が夕焼けて 中村苑子
秋ざくらその子が泣けば別の子も 山本洋子

腸は別の手になる海鼠かな ハードエッジ
きのふありけふまた別の帰り花 島谷征良

別の空なり神宮の初御空 山口誓子
どんど待つ別の小さき火を焚いて 木戸節

桃色は桃の色甘さうな色 ハードエッジ

桃色:

魚は氷に上り土竜は桃色に 小島健
ももいろの素甘をつまみ春の風邪 金子敦
さくら貝と生れてうすももいろの視野 正木ゆう子
子猫啼くうすももいろの口あけて 今井千鶴子
ももいろをはなれて桃の花雫 伊藤通明
湯上がりの我はももいろ桃咲く頃 池田澄子

汗は透き通り汗疹は桃色に ハードエッジ
もも色といふはあせものものあたり ハードエッジ
青く塗り桃色に塗り海の家 本井英
ベビーカーより桃色の素足かな 白石渕路
うすもののうすももいろの天女かな ハードエッジ

目薬のうすももいろの寒さかな 長谷川櫂
砂時計の砂のももいろ春を待つ 津川絵理子
ゆふぐれのうす桃色や冬深し ハードエッジ
金髪にして桃色の毛絲編む 京極杞陽
黒人の掌の桃色にクリスマス 西東三鬼
彼方なる火事のもも色近松忌 鈴木鷹夫
桃色の舌を出しけり大根馬 池内友次郎

初湯して桃色となる赤子かな ハードエッジ

桃の実のうす桃いろの香なりけり ハードエッジ

薄桃色:
さくら貝と生れてうすももいろの視野 正木ゆう子
子猫啼くうすももいろの口あけて 今井千鶴子
うすもののうすももいろの天女かな ハードエッジ
目薬のうすももいろの寒さかな 長谷川櫂
ゆふぐれのうす桃色や冬深し ハードエッジ
うろくづのうすももいろの淑気かな 安里琉太

仏壇ぶつだん白桃はくとう匂ふ夜も匂ふ ハードエッジ

仏壇:
佛壇のひきだしからも種袋 廣江八重櫻
佛壇は金色の闇桜餅 ハードエッジ

仏壇のともされてゐる夕立かな 大野林火
仏壇に尻を向けたる団扇かな 夏目漱石
仏壇の奥の暗がり昼寝覚 金子敦
仏壇に花新しき帰省かな ハードエッジ
まもり古る大仏壇や黴の宿 河野静雲

仏壇の金の衰へ夜の長き 川名将義
神棚に仏壇に燈を月の宿 阿部みどり女
佛壇に野分の過ぎし朝の水 川崎展宏
光つつ仏壇沈む秋出水 東條素香
仏壇の中までおよび稲埃 若井新一
仏壇の十日の菊の香かな 蝶夢
ぼんやりとお盆の桃が仏壇に ハードエッジ
仏壇の前にうたた寝虫時雨 高田風人子
佛壇の萩に何やら虫が鳴く 寺田寅彦
仏壇の花の中より鉦叩 吉川信子
仏壇の菊しばらくはかたきかな 金田咲子
佛壇に鷄頭枯るゝ日數哉 正岡子規
仏壇に戒名の母桃匂ふ 小川軽舟
仏壇の金をくもらす蒸し藷 檜紀代
仏壇に柿を供へて菊を生け ハードエッジ
仏壇に棘もて立ちし栗の毬 若井新一

仏壇の妻の写真も日短か 森澄雄
仏壇の菓子うつくしき冬至かな 正岡子規
佛壇も火燵もあるや四疊半 正岡子規
仏壇に在す父母冬ごもり 河野静雲

仏壇の煤を払ふや南無阿弥陀 阿部みどり女
佛壇に風呂敷かけて煤拂 正岡子規

仏壇の兄はみどり児小豆粥 深見けん二

満月が桃のうたげの上にかな ハードエッジ

桃の宴:
妹が頬のほのかに赤し桃の宴 正岡子規

61.5万句のわがデータベースで、
「桃の宴」はこの1句のみ

「桃の宴」って、雰囲気良いよね
と子規の句に意を強くしたものの、
よくよく考えると、これ「桃の節句」ではないかと

また、
秋の「桃の宴」を想定しても、
桃の他にさして食べ物が思い浮ばない、、、
新米や新酒も場違い

雰囲気は良いが失敗作

桃+月:
白桃や満月はやや曇りをり 森澄雄
白桃は月の光の果実かな 長谷川櫂

さつきまで月に供へてありし桃 ハードエッジ

さつきまで:
さつきまで雛を包んでありし紙 岩田由美
さつきまで梅雨の晴間と思ひしが ハードエッジ
さつきまで粽を結ひし紐なりし 能村登四郎

白桃はくとうや月の如くに盆の上 ハードエッジ

月の如:
花の如く月の如くにもてなさん 高濱虚子
母のごとく月のごとくにくらげかな ハードエッジ
子の寝顔河豚の如また月のごと 川崎展宏
銀の皿師走の月のごと飾る 山口青邨

そなへの桃を生者せいじゃわかつなり ハードエッジ

生者:
春暁の死者も生者も横たはる 小池康生
群がつて生者の歩く花のころ ハードエッジ
死者は白生者は黒を着て晩夏 斉田仁
扇風機ひとつの風に死者生者 今瀬剛一
いづこにも生者ゐて喪の夏座敷 辻田克巳
またひとり生者の抜ける踊の輪 川名将義
死者ありて生者八月十五日 ハードエッジ
いくたりか生者と遭ひぬ墓参り 上田五千石
迎火を焚けば生者の寄りきたる 大串章
死者生者共にかじかみ合掌す 西東三鬼
死者も聞け生者も聞けと除夜の鐘 相生垣瓜人

白桃はくとうをひたと包みし白き皮 ハードエッジ

ひたと:
騒人にひたと閉して花の寺 高濱虚子
掛稲よりひたと落ちしは青蛙 高野素十
厳といふ字寒といふ字を身にひたと 高濱虚子
背にひたと一枚の寒負ふごとし 原子公平
畳まれてひたと吸ひつく屏風かな 長谷川櫂
板張にひたと坐りて初鼓 長谷川櫂

むく桃の皮と果肉かにくあわい/はざまかな ハードエッジ

「桃むけば」→「むく桃の」
あまり一般的ではない言い方、、、良かったと思う

果肉:
夜の椿果肉のごとき重さもつ 加藤楸邨
桜桃の種に果肉の残りたる 江渡華子
寒紅のくちびる何の果肉なる 上田五千石

土色つちいろ白桃はくとうの非の打ちどころ ハードエッジ

成句の応用、、、たまには良いのでは

「うす茶なる」→「土色は」の推敲は良かったか?

桃すする桃より柔らかなつぺ ハードエッジ

柔+頬:
ほほづゑの頬やはらかし春の雪 鷲谷七菜子
草餅ややはらかなりし妻の頬 森澄雄
片頬なる日のやはらかに晩稲刈 軽部烏頭子

わが好きのヘビーシロップ桃缶の ハードエッジ

これは季語じゃない、、、仰るとおり、ではあるが、、、

わが好き:
鉄線はわが好きの花五月来ぬ 星野立子
わが好きな暑い夏来ぬすだれ掛く 森川暁水
我が好きの月鉾ゆらぎ近より来 加藤三七子
我好の柿をくはれぬ病哉 正岡子規
我好て我する旅の寒哉 小林一茶
舞初やわが好きのもの所望され 高濱虚子
わが好きの数の七つの福寿草 五十嵐播水

枇杷びわの種真つ黒桃の種真つ赤 ハードエッジ

黒い枇杷の種:
枇杷の種黒く大きく美しく ハードエッジ

白桃はくとうや黄泉路の旅の安かれと ハードエッジ

黄泉路:
日に汐に灼かれ黄泉路のトタン板 攝津幸彦
百歳の黄泉路は花野分けゆくか 楠田光子

泣きながらさい河原かわらに桃を積む ハードエッジ

賽の河原の桃バージョン

「泣きながら」のベタ感

賽の河原/コトバンク

桃の香の残る机に稿こうぐ ハードエッジ

「稿を継ぐ」の文人感に自己陶酔

稿を継:
ぎぎとなく子の兜虫稿を継ぐ 志摩芳次郎
稿を継ぐ朝顔の縒り戻る刻 鷹羽狩行
温もりて粕汁のあと稿を継ぐ 森澄雄

大あくび大きな桃をくやうに ハードエッジ

参考句:
雲を呑で花を吐なるよしの山 与謝蕪村

 

◎初案19句

花の痕とんがつている白桃よ/誤用 ハードエッジ
もものみのうすももいろにふくらんで ハードエッジ
薄皮を剥いて桃の実桃の皮 ハードエッジ
白桃のいくらでもある桃畑 ハードエッジ
白桃や梨や柿とはまた別の ハードエッジ

仏壇に白桃匂ふ夜も匂ふ ハードエッジ
桃の香の残る書斎に稿を継ぐ ハードエッジ
桃の香や死者の旅路の安かれと ハードエッジ
白桃の欠伸の如く大きかり ハードエッジ
白桃の一生の傷悲しけれ ハードエッジ

積み上げて白桃の山作りたし ハードエッジ
白桃や赤子のほつぺ落ちさうに ハードエッジ
宵の口月に供へし桃を食ふ ハードエッジ
桃色は桃の色なり甘さうな ハードエッジ
わが好きなヘビーシロップパイン缶 ハードエッジ

供へたる桃を生者が分つなり ハードエッジ
枇杷の種真黒桃の種真赤 ハードエッジ
白桃を皮引きにして丸裸 ハードエッジ
満月に桃の宴と思ふなり ハードエッジ

 

◎推敲一覧/pdf

全149句/2枚

全然堂歳時記 秋 【桃】 テキスト推敲

 

◎A4推敲 原稿/pdf

全4枚

全然堂歳時記 秋 【桃】 A4推敲 原稿

 

◎A4推敲 加筆/pdf

全4枚

全然堂歳時記 秋 【桃】 A4推敲 加筆

 

◎葉書推敲 原稿/pdf

全9枚

全然堂歳時記 秋 【桃】 葉書推敲 原稿

 

◎葉書推敲 加筆/pdf

全9枚

全然堂歳時記 秋 【桃】 葉書推敲 加筆

 

◎葉書俳句表側

 

◎データベース画面/桐v10

 

◎桃秀句

切口をひとりいたむか夜の桃 服部嵐雪
中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼
桃の実のほのぼのと子を生まざりし きくちつねこ
桃の木や童子童女が鈴生りに 中村苑子
息の代となりても桃をくださるる 本井英

わからぬ句好きなわかる句ももすもも 富安風生
白桃のいたみながらのよい匂い 池田澄子
桃一顆ナイフ一本冷やしおく 成田一子
磧にて白桃むけば水過ぎゆく 森澄雄
しろがねの水蜜桃や水の中 日野草城

桃青し赤きところの少しあり 高野素十
桃の香や世界の時間みな違ふ 中嶋憲武
桃太郎は桃金太郎は何からぞ 正岡子規
妻告ぐる胎児は白桃程の重さ 有馬朗人
白桃の皮引く指にやゝちから 川崎展宏

桃の如く肥えて可愛や目口鼻 正岡子規
白桃をすするや時も豊満に 能村登四郎
白桃をよよとすすれば山青き 富安風生
缶詰の桃冷ゆるまで待てぬとは 池田澄子
桃食うて煙草を喫うて一人旅 星野立子

桃の種妬心に形あるならば 仲村折矢

 

◎未練句/補遺/在庫処理

灯を消して白桃の夜となりにけり ハードエッジ
鬼女の如く髪振り乱す桃の種 ハードエッジ
桃の傷の無惨を切つて捨てにけり ハードエッジ
白桃や哀れ打身を免れず ハードエッジ
白桃の中に苦悩の種がある ハードエッジ

予報通り雨ふり来る夜の桃 ハードエッジ
桃の夜に真つ赤な種を吐き出せり ハードエッジ
灯を消して白桃の香を存分に ハードエッジ
桃太郎桃から生れ桃が好き ハードエッジ
桃の皮むけば水着のごと縮む ハードエッジ

桃かしら桃に似てゐるだけかしら ハードエッジ

 

以上です