コロナ禍、
年末年始も外出自粛で、
ふと俳句でもと思った人のための、
初めての俳句歳時記 【冬500句】
◎縦書きpdf
A4用紙、縦置縦書、12ポ、17行、3段組、10ページです
データベース桐v9からは明朝で出力するも、なぜかゴチックに
と思ったら、
ブラウザ=ゴチック、印刷=明朝みたいで、もうワケワカです
当方のシステム=Win10+Chrome
【時候】
82句
捨て菜畑うぐひすいろに氷りけり 飴山實
氷張る微々たる水も見逃さず 丁野弘
壁を流れて薄々と氷りける 堀下翔
潦かはかんとして凍てにける 五十崎古郷
叱られて次の間へ出る寒さかな 各務支考
日は西へ傾いてゐる寒さかな 今井杏太郎
みづうみは真水の寒さ舟を出す 長谷川櫂
幼しや水をさむがるかげぼふし 小川軽舟
しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子
まだ馴れぬこの世の寒さ乳を欲る 鷹羽狩行
奏楽寒し苔むすまでぞと打楽器が 赤城さかえ
寒いとき寒いところへ行く切符 加藤静夫
京寒し金閣薪にくべてなほ 中村安伸
水枕ガバリと寒い海がある 西東三鬼
白金に黄金に柩寒からず 夏目漱石
鯛は美のおこぜは醜の寒さかな 鈴木真砂女
短日の門掃き終へて閉しけり 高濱年尾
あたたかき日は日短きこと忘れ 後藤比奈夫
人間は管より成れる日短 川崎展宏
日沈む方へ歩きて日短 岸本尚毅
甘辛き匂ひの路地や暮早し 佐藤郁良
短日や買ひ物かごに土のもの 森賀まり
短日やたのみもかけずのむくすり 中村伸郎
手が冷た頬に当てれば頬冷た 波多野爽波
生前も死後もつめたき箒の柄 飯田龍太
日のあたる石にさはればつめたさよ 正岡子規
終業の冷たき靴へ履きかへる 柏柳明子
光年のつめたき昔とどきけり 中塚健太
教会のつめたき椅子を拭く仕事 田中裕明
冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ 川崎展宏
温めるも冷ますも息や日々の冬 岡本眸
跳箱の突手一瞬冬が来る 友岡子郷
己れを喰ふ冬蟻を曳き蛾があるく 加藤知世子
こなごなになれど鏡ぞ冬映す 野口る理
珈琲はミルクを拒みきれず冬 山口優夢
冬あたたか嬰が母の手を食べんとす 池田澄子
冬ざるるリボンかければ贈り物 波多野爽波
噴水の栓のあらはに冬ざるる 山本歩禅
大石の割目に小石冬ざるる 上田信治
古タイヤ燃えてゐるなり冬の暮 和田耕三郎
冬の暮灯さねば世に無きごとし 野見山朱鳥
おのづから粘土は花器に神無月 生駒大祐
犬つるむ出雲は神のふきだまり 夏石番矢
矢大臣の顔修繕や神無月 西山泊雲
玉の如き小春日和を授かりし 松本たかし
小春日や石を噛みゐる赤蜻蛉 村上鬼城
おばちやんに飴ちやん貰ふ小春かな 金子敦
小春日の生地の真中に置く餡子 大塚迷路
俗名と戒名睦む小春かな 中村苑子
峠見ゆ十一月のむなしさに 細見綾子
立冬や父の枕の重かりき 片山由美子
石の家にぼろんとごつんと冬が来て 高屋窓秋
荷の上で押す印鑑も十二月 林昭太郎
山国の虚空日わたる冬至かな 飯田蛇笏
冬至までひと日ひと日の日暮かな 草間時彦
一月の川一月の谷の中 飯田龍太
厳寒の駅かんたんな時刻表 仲寒蝉
酷寒に死して吹雪に葬らる 相馬遷子
三寒の四温を待てる机かな 石川桂郎
ああといひて吾を生みしか大寒に 矢島渚男
大寒や見舞に行けば死んでをり 高濱虚子
春来つつあり万感といふ言葉 清水径子
春はすぐそこだけどパスワードが違う 福田若之
春隣吾子の微笑の日日あたらし 篠原梵
待つ春や氷にまじる塵あくた 智月
春待つや萬葉、古今、新古今 久保田万太郎
春待つといふ大いなる言葉あり 後藤夜半
春待つは妻の帰宅を待つごとし 鈴木鷹夫
春を待つ老の心を老いて知る 後藤比奈夫
九十の端を忘れ春を待つ 阿部みどり女
春を待つ大きな鳥のごとき指揮 西村麒麟
待つと言ふことに馴れつつ春を待つ 菖蒲あや
すぐそこに来てゐる春や春を待つ 上村占魚
遠き世のごとく春待ち老夫婦 加倉井秋を
待春のバターにぐぐと削り跡 鈴木牛後
砂時計の砂のももいろ春を待つ 津川絵理子
大好きな春を二人で待つつもり 西村麒麟
待春の大階段となりにけり 齋藤朝比古
春待つや愚図なをとこを待つごとく 津高里永子
日脚のぶ土曜の午後の彼彼女 成瀬正俊
かく伸びてしまへば日脚問はずなる 上田五千石
【天文】
79句
とけるまで霰のかたちしてをりぬ 辻桃子
よく弾む春の霰でありにけり 柘植史子
霜掃きし箒しばらくして倒る 能村登四郎
霜夜子は泣く父母よりはるかなるものを呼び 加藤楸邨
ワイパーのけづり寄せたる今朝の霜 依光陽子
冬銀河子が減り子守唄が減り 折勝家鴨
冬銀河かくもしづかに子の宿る 仙田洋子
冬銀河歳月をもて測る距離 辻美奈子
まだ土に還らぬものに冬の雨 羽根木椋
冬の雨高速バスの腹を開け 小野あらた
冬空の汚れか玻璃の汚れかと 波多野爽波
神官に自宅ありけり寒の月 宇多喜代子
サイレンを追ふサイレンや冬の月 大西朋
寒星や出した手紙はまだポスト 内田美紗
荒星や毛布にくるむサキソフォン 攝津幸彦
大仏の冬日は山に移りけり 星野立子
クレヨンの折れて冬日の匂ひかな 倉田有希
土は土に隠れて深し冬日向 三橋敏雄
昼過ぎてやや頼もしき冬日かな 岩田由美
どんぐりを拾へば根あり冬日向 藺草慶子
ひとやさし背に置かれし冬日また 木下夕爾
寒夕焼終れりすべて終りしごと 細見綾子
淋しさの底ぬけて降るみぞれかな 内藤丈草
コンテナの陸揚げしづか雪催 村越敦
頬ずりの暗くなりけり雪催 丸田洋渡
嘘つきのバス時刻表雪もよひ 丸田余志子
木枯の果てはありけり海の音 池西言水
海に出て木枯帰るところなし 山口誓子
凩に吹き寄せられし星座かな 利普苑るな
木枯や胡麻煎れば鍋はじく音 松根東洋城
木がらしや目刺にのこる海の色 芥川龍之介
化さうな傘かす寺の時雨かな 与謝蕪村
掃きよせて時雨の音を聴く落葉 井上井月
もてあそぶ火のうつくしき時雨かな 日野草城
しぐるるや駅に西口東口 安住敦
天地の間にほろと時雨かな 高濱虚子
小夜時雨上野を虚子の来つつあらん 正岡子規
たはごとはみみずにまかせしぐれけり 佐々木六戈
しぐるゝやこれ俳諧の一大事 加藤郁乎
大阪はしぐれてゐたり稲荷ずし 北野平八
湯ぶねより一とくべたのむ時雨かな 川端茅舎
初雪をどろにこねたる都かな 水田正秀
寒晴や釘は一本づつ孤独 奥坂まや
我が雪とおもへばかろし笠の雪 宝井其角
下京や雪積む上の夜の雨 野澤凡兆
雪も亦怒りに任せ降るらしも 相生垣瓜人
細雪妻に言葉を待たれをり 石田波郷
山門を掘り出してある深雪かな 清崎敏郎
能舞台一歩は雪を踏むように 対馬康子
泥に降る雪うつくしや泥になる 小川軽舟
雪の降る町といふ唄ありし忘れたり 安住敦
コーヒーかコーラか雪に缶赤く 岸本尚毅
降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男
いくたびも雪の深さを尋ねけり 正岡子規
雪の日のそれはちひさなラシャ鋏 中岡毅雄
雪の海底紅花積り蟹となるや 金子兜太
産卵のはげしき雪の帝都かな 江里昭彦
南無阿彌陀佛南無の高さに雪の墓 石寒太
電飾の音なき音や夜の雪 北川美美
純白で私を避ける雪ばかり 櫂未知子
雪しまく中を追ひ来て喜捨申す 市堀玉宗
クレヨンのぽくりと折れる雪の降る 岡田一実
雪国に雪一日がもう終る 山本一歩
窓の雪女体にて湯をあふれしむ 桂信子
バスを追ひ雪の角巻翼ひろぐ 岸田稚魚
雪降るや何かと嗚呼の明治の詩 高柳克弘
雪に燃ゆ注連にならざる藁の嵩 南うみを
降る雪へ蝙蝠傘の闇ひらく しなだしん
雪国に花鳥づくしの婚衣裳 筑紫磐井
教科書のをはりの雪の詩なりけり 柳元佑太
雪道の汚れはじめて村に入る 山田真砂年
死は何かどまん中なり雪ちらちら 金田咲子
てんでんに温泉に浸かるごと雪の墓 恩田侑布子
ちちははの深寝おそろし雪の底 阿部静雄
雪の上に金魚をこぼすそれが遺書 栗林千津
天然色映画の雪が実に白し 内藤吐天
豆腐屋の早寝につもる夜の雪 関成美
みちのくの雪深ければ雪女郎 山口青邨
舌のみは肉の色して雪女郎 松尾隆信
【地理】
41句
土手を外れ枯野の犬となりゆけり 山口誓子
一対か一対一か枯野人 鷹羽狩行
わが汽車の汽罐車見えて枯野行く 山口波津女
おくれ来し一人が見ゆる枯野かな 高濱年尾
飛行機のずしんと降りる枯野かな 長谷川櫂
遠山に日の当りたる枯野かな 高濱虚子
落ちてゐる紙に文字ある枯野かな 杉本零
襖絵の鶴相寄りて枯野閉づ 橋本榮治
胃薬に枯野のにほひありにけり 池田瑠那
いつ来ても枯野にのこる汽笛の尾 八田木枯
空港の明かりのとどく枯野かな 涼野海音
わが影の吹かれて長き枯野かな 夏目漱石
枯野ゆく棺のわれふと目覚めずや 寺山修司
なほ遠く往けと枯野の道しるべ 山口速
観音の微笑枯野の果てにあり 九鬼あきゑ
狐火や濡るるがごときしんの闇 富安風生
狐火小さし親なし子狐がともし 成瀬櫻桃子
冬景色なり何人で見てゐても 田中裕明
ながながと川一筋や雪の原 野澤凡兆
雨水も赤くさびゆく冬田かな 炭太祇
電柱の丘へ外れ去る冬田かな 鈴木花蓑
家にゐても見ゆる冬田を見に出づる 相生垣瓜人
何もなき冬田へだてゝ村と村 赤星水竹居
冬の浪炎の如く立ち上り 上野泰
日時計は銅の塊り冬の湾 今井聖
冬河に新聞全紙浸り浮く 山口誓子
冬の水一枝の影も欺かず 中村草田男
登りゆく人が丸見え冬の山 抜井諒一
雪嶺のひとたび暮れて顕はるる 森澄雄
雪の山遥か他界にあるごとし 鈴木花蓑
ライターの火がポポポポと滝涸るゝ 秋元不死男
発電は水こそよけれ山眠る 鷹羽狩行
その重さとてつもなくて山眠る 鈴木鷹夫
灯の数が家の数なり山眠る 若井新一
星空はおほきな時計山眠る 南十二国
樹皮残る桜の撞木山眠る 滝川直広
凍滝のなかはひそひそしてゐたる 宮本佳世乃
仏にも寒九の水をたてまつる 森澄雄
十二月三十日の氷かな 今井杏太郎
すぐ氷る木賊の前のうすき水 宇佐美魚目
はや出来て小さき氷柱や暮るゝ軒 高濱年尾
【生活】
148句
熱燗や討入りおりた者同士 川崎展宏
熱燗の夫にも捨てし夢あらむ 西村和子
白息のあたたかかりし昔かな 今井杏太郎
モナリザはまつ白な息吐きさうな 大木あまり
泣きしあとわが白息の豊かなる 橋本多佳子
献血をしてをりますと息白く 依光陽子
水よりも泥光りをり池普請 小圷健水
埋火やつひには煮ゆる鍋の物 与謝蕪村
飲めるだけのめたるころのおでんかな 久保田万太郎
おでん汁冷めて浮かべる油かな 杉原祐之
提灯の三つに一字づつおでん 下田實花
外套を着せらるる手をうしろにす 池田秀水
外套の大きがあはれ警備員 小池康生
外套を脱げば一家のお母さん 八木忠栄
棚に置きて帯占め直す懐炉かな 内藤鳴雪
今思へば皆遠火事のごとくなり 能村登四郎
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼
遠火事の百年燃えてゐるごとし 望月周
消防車しづく垂らして帰りをり 西原天気
ガラス戸の遠き夜火事に触れにけり 村上鞆彦
そのみづのどこへもゆかぬ火事の跡 大塚凱
姿見の火事を映して火事の中 山田露結
門柱に朝刊置かれ火事終る 皆吉司
迷惑をかけまいと呑む風邪薬 岡本眸
店の灯の明るさに買ふ風邪薬 日野草城
早寝してなほりしほどの風邪なりし 稲畑汀子
不機嫌といふにあらねど風邪心地 上村占魚
風邪ひいてどこか安心してゐたり 岡崎陽市
気に入りのおもちや召し寄せ風邪の床 西村和子
まだ水の重みの紙を漉き重ね 今瀬剛一
乾鮭は魚の枯木と申すべく 正岡子規
猟銃を鹿は静かに見据ゑけり 櫂未知子
縫へと言ふ猟犬の腹裂けたるを 谷口智行
猟犬のはじめうろうろしてをりぬ 石田郷子
百貨店めぐる着ぶくれ一家族 草間時彦
着ぶくれてお座りの子のすぐ傾ぎ 鶴岡加苗
着膨れてなんだかめんどりの気分 正木ゆう子
すれ違ふ蛍光色に着ぶくれて 杉山久子
着ぶくれて抱けとばかりに諸手あげ 西村和子
着ぶくれてゐても見つけてくれる人 石塚直子
着ぶくれてしまへば老の天下なり 大牧広
着ぶくれて津軽の人になりすまし 高木晴子
うすめても花の匂ひの葛湯かな 渡辺水巴
あはあはと吹けば片寄る葛湯かな 大野林火
紐ながき換気扇なり薬喰 中原道夫
下しても煮えたつ鍋や薬喰 下村梅子
港で編む毛糸続きは故郷で編む 大串章
があと鳴る毛糸編み機や冬の雨 上田信治
毛糸玉とはもう言へぬ平たさよ 青本瑞季
毛皮着て東京タワーより寂し 小久保佳世子
うたたねの夢美しやおきごたつ 久保より江
牛乳やこたつで過ごす日曜日 山下つばさ
本箱に手の届かざる炬燵かな 会津八一
絨毯は空を飛ばねど妻を乗す 中原道夫
絨毯を深々と刺すハイヒール 竹岡一郎
顔の幅に障子を開けて問ひにけり 高倉和子
ショール掛けてくださるように死は多分 池田澄子
走り出しすぐ消灯にスキーバス 岡田由季
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや 中村汀女
雑炊の卵の黄身の濃きところ 澤田和弥
ストーブの音が吹雪に似てきたる 黒岩徳将
セーターの黒い弾力親不孝 中嶋秀子
セーターをくぐる両手が宙を突く 大高翔
セーターのあつたかさうな予報官 西原天気
鯛焼の腹やはらかくあたたかく 関根千方
一生を焚火の番をしてゐたき 辻桃子
焚火離る誰にともなく会釈して 鈴木鷹夫
焚火かなし消えんとすれば育てられ 高濱虚子
とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな 松本たかし
火に学ぶごとく焚火を囲みけり 木村淳一郎
焚火跡踏むや空気のぱふと出づ 松野苑子
拾得は焚き寒山は掃く落葉 芥川龍之介
焚火中身を爆ぜ終るもののあり 野澤節子
竹馬やいろはにほへとちりぢりに 久保田万太郎
足袋つぐやノラともならず教師妻 杉田久女
夢よりは先へさめたる湯婆哉 横井也有
ゆたんぽのぶりきのなみのあはれかな 小澤實
寂寞と湯婆に足をそろへけり 渡辺水巴
信心はさめることなき湯婆かな 増田龍雨
手袋をとりたての手の暖かく 星野立子
細長く皮手袋をしまひけり 今橋眞理子
手袋の指でフレミングの法則 佐川盟子
褞袍着てなんや子分のゐる心地 大住日呂姿
煮凝や夜は身近なる汽車の音 岩淵喜代子
ねんねこの中で歌ふを母のみ知る 千原叡子
畳まれてひたと吸ひつく屏風かな 長谷川櫂
日向ぼつこ日向がいやになりにけり 久保田万太郎
日向ぼこ笑ひくづれて散りにけり 富安風生
日向ぼこしてはをらぬかしてをりぬ 京極杞陽
日向ぼこ呼ばれて去ればそれきりに 中村汀女
日向ぼこ貯金たつぷりあるごとく 加藤静夫
日向ぼこ歯型のついてゐる絵本 西山ゆりこ
ゆけむりの二階の窓に日向ぼこ 倉田紘文
冬籠足らぬがままに足るままに 上野泰
兵糧のごとくに書あり冬籠 後藤比奈夫
栄えたるころの金庫や冬館 安部元気
風呂吹にとろりと味噌の流れけり 松瀬青々
大榾をかへせば裏は一面火 高野素十
鍋底に猪のあぶらの薄茶色 島田牙城
マスクして家事手伝と記入せり 黛まどか
女教師が水洟すする皆笑ふ 楠節子
水洟を拭かれこどもや話止めず 榮猿丸
電気毛布にも青空を見せむとす 中原道夫
孤独死のきちんと畳んである毛布 北大路翼
遠く行く声や焼いも焼いもと 岸本尚毅
焼藷屋柱燃やしてゐたりけり 大石雄鬼
焼藷を買ひに出る籤引き当てし 山田弘子
土佐脱藩以後いくつめの焼芋ぞ 高山れおな
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎
湯豆腐や死後に褒められようと思ふ 藤田湘子
又例の寄鍋にてもいたすべし 高濱虚子
ラグビーの多勢遅れて駆けりくる 山口誓子
ラグビーボールぶるぶる青空をまはる 正木ゆう子
ラガー等のたたきあふ肩胸背腹 野崎海芋
ラグビーの頬傷ほてる海見ては 寺山修司
ラガー等のそのかち歌のみじかけれ 横山白虹
花嫁を見上げて七五三の子よ 大串章
かくも小さき白足袋ありし七五三 林翔
行きずりのよそのよき子の七五三 富安風生
揺るるものばかり身につけ七五三 高倉和子
母の手で蝶になる帯七五三 増田妙子
七五三三は祝詞の間に眠る 伊藤伊那男
七五三子よりも母の美しく 吉屋信子
泥の上に泥のひろごる蓮根掘 千葉皓史
湯の町の小学校や冬休 高田風人子
雪下ろす勉強部屋はこのあたり 松倉ゆずる
獣らは齢を知らず寒施行 広渡敬雄
寒卵割れば双子の目出度さよ 高濱虚子
寒卵地面つくづくつづくなり 阿部完市
一汁と一菜と寒卵かな 清水基吉
凍豆腐とは凍らなくなりしもの 後藤立夫
世に合はぬ歯車一つぼろ市に 有馬朗人
ひつぱりて動かぬ橇や引つぱりぬ 高野素十
掻き分けるほどの濃き闇鬼やらふ 鷹羽狩行
古枡や追儺の豆にあたたまり 百合山羽公
山国の闇恐ろしき追儺かな 原石鼎
両膝をついて降参追儺鬼 中本真人
もうあかん追儺の豆に歯が立たず 小寺正三
翔べよ翔べ老人ホームの干布団 飯島晴子
他所者のきれいな布団干してある 行方克巳
干蒲団子が見し悪夢叩き出す 西宮舞
惜しみなく豆を撒きたる後始末 黒川悦子
雪兎煙はしめりつつながれ 田中裕明
日溜まりの水となりけり雪兎 安里琉太
雪掻のまばらと見えて総出なり 宮津昭彦
雪吊の縄のとぐろの解かれだす 馬場龍吉
葬送や雪踏み役の五六人 細川加賀
【行事】
28句
イブノーシンセデスバファリン一葉忌 櫂未知子
神の留守預かつてゐる我らかな 大谷弘至
誤字をもて自筆と断じ翁の忌 三村純也
降誕祭町にふる雪わが家にも 安住敦
ナイフなほ聖菓の中に動きをり 山口波津女
刻かけて海を来る闇クリスマス 藤田湘子
柔かき海の半球クリスマス 三橋敏雄
どこへ隠そうクリスマスプレゼント 神野紗希
小道具のパンはほんもの聖夜劇 仮屋賢一
大き手に押され踏み出す聖夜劇 吉田葎
人の世は火より興れりクリスマス 青島玄武
眠る子をベッドへはこぶクリスマス 鶴岡加苗
マッチ売る少女の点けし聖樹かも ふけとしこ
聖夜劇終へし天使が母探す 遠藤若狭男
降誕祭終りし綺羅を掃きあつめ 福永耕二
サンタクロース大きな足を脱いでゐる 大石雄鬼
東京が瞬いてゐるクリスマス 茅根知子
チンドン屋のサンタサックス吹きゆけり 相子智恵
クリスマスツリーの電気消す係 杉田菜穂
神父老い信者われ老いクリスマス 景山筍吉
闇のみが無垢のくらさや降誕祭 猿橋統流子
クリスマス「君と結婚していたら」 堀井春一郎
聖菓剪るゆつくり底に刃が達し 橋本美代子
漱石忌教鞭なる語古りにけり 押野裕
硝子戸の中の句会や漱石忌 瀧井孝作
死にたれば人来て大根焚きはじむ 下村槐太
漉き紙に草のひとすぢ蕪村の忌 井上弘美
うつくしき炭火蕪村の忌たりけり 岸風三楼 修正:なり→たり/2024.9.12
【動物】
43句
海神に踏んづけられし鮟鱇かな 市堀玉宗
凍鶴が羽根ひろげたるめでたさよ 阿波野青畝
撃たれたる夢に愕く浮寝鳥 高橋悦男
狼の毛もて書くべし立志伝 川奈正和
牡蠣剥くは身ぐるみ剥ぐに似たりけり 相生垣瓜人
牡蠣すするわが塩味もこれくらゐ 正木ゆう子
明方や城をとりまく鴨の声 森川許六
海に鴨発砲直前かも知れず 山口誓子
また啼いて同じ夜鴨であるらしや 石井とし夫
鴨流れ次の一羽もまたゆるく 西村麒麟
夜鴨撃掌に煙草火をかばひ待つ 米澤吾亦紅
雌狐の尾が雄狐の首を抱く 橋本鶏二
われ鯱となりて鯨を追ふ月夜 眞鍋呉夫
熊出るといふ立札の新しく 関口美子
鷹匠のマイクで語る鷹のこと 本井英
夜ごと来る狸子連れとなりにけり 中本真人
鶴眠るころか蝋燭より泪 鳥居真里子
次の間に手負いの鶴の気配あり 曾根毅
鶴啼くやわが身のこゑと思ふまで 鍵和田[ゆう]子
草の根の蛇の眠りにとどきけり 桂信子
生きながらひとつに氷る海鼠かな 松尾芭蕉
憂きことを海月に語る海鼠かな 黒柳召波
尾頭の心もとなき海鼠かな 向井去来
海鼠切りもとの形に寄せてある 小原啄葉
海底より寒しや冷蔵庫のなまこ 品川鈴子
ふはふはのふくろふの子のふかれをり 小澤實
瞠目はふくろふのもの瞑目も 亀丸公俊
文机の端まで歩く冬の蝿 夏井いつき
水鳥の水尾引き捨てゝ飛びにけり 松藤夏山
水鳥の争ふ水の上に立ち 伊藤通明
水鳥に朝の灯ひとつづつ消ゆる 山田弘子
水鳥の水啜る音恐ろしき 吉田林檎
水鳥のしづかに己が身を流す 柴田白葉女
檻の鷲寂しくなれば羽搏つかも 石田波郷
寒鴉田畑といふ言葉かな 綾部仁喜
寒鴉己(し)が影の上におりたちぬ 芝不器男
寒鯉を雲のごとくに食はず飼ふ 森澄雄
力とは地から飛び立つ寒すずめ 五島高資
けふの糧に幸足る汝や寒雀 杉田久女
佳き名つけふくらすずめを飼ひたしや 大石悦子
白鳥といふ一巨花を水に置く 中村草田男
千里飛び来て白鳥の争へる 津田清子
白鳥おほかた眠り新潟テレビも了ふ 鈴木榮子
【植物】
67句
掃けるが終には掃ず落葉かな 炭太祇
焚くほどは風がくれたる落葉哉 小林一茶
西ふけば東にたまる落葉かな 与謝蕪村
帚あり即ちとつて落葉掃く 高濱虚子
オムレツが上手に焼けて落葉かな 草間時彦
縁に干す蒲団の上の落葉かな 正岡子規
落葉掃く父なきあとの母の日々 深見けん二
落葉籠底の腐つてをりしかな 茨木和生
竹箒落葉の寺へ納めけり 野村喜舟
落葉掻きにて水面の落葉寄す 右城暮石
落葉はく箒に拳ふたつかな 清水良郎
缶コーヒー取出口の落葉かな 金子敦
なつかしく日が当たりくる枯木かな 高柳重信
枯菊と言ひ捨てんには情あり 松本たかし
括りたる縄もろともに菊を焚く 斉田仁
火の迫るとき枯草の閑かさよ 橋閒石
ごみぶくろ枯葉の息にくもりけり 清水良郎
枯蓮をうつす水さへなかりけり 安住敦
冬菊のまとふはおのがひかりのみ 水原秋櫻子
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ 加藤楸邨
上着きてゐても木の葉のあふれ出す 鴇田智哉
生馬の身を大根でうづめけり 川端茅舎
黒土の大根浮かす力かな 三宅やよい
大根の輪切りのあっという間かな 小西昭夫
大根にしみ入るやうに諭しけり 佐藤郁良
人参は丈をあきらめ色に出づ 藤田湘子
葱白く洗ひたてたる寒さかな 松尾芭蕉
夢の世に葱を作りて寂しさよ 永田耕衣
日の暮れぬうちにと葱を抜いてくる 市堀玉宗
葱をよく買ふ妻のゐて我家なり 宮津昭彦
余生なほなすことあらむ冬苺 水原秋櫻子
日あるうち光り蓄めおけ冬苺 角川源義
草々の呼びかはしつつ枯れてゆく 相生垣瓜人
まつくろに枯れて何かの実なりけり 高田正子
冬木の枝しだいに細し終に無し 正木浩一
力瘤付けて冬木となりにけり 小島健
冬の木に縛られてゐる拡声器 西川火尖
ものごころつきし如くに冬木の芽 岬雪夫
のこりものに福あるみかん一つかな 久保田万太郎
愛媛いま悩むほどあるみかんかな 岡崎陽市
蜜柑むき大人の話聞いてゐる 西村和子
蜜柑より小さき両手で剥いてをり 抜井諒一
死後も日向たのしむ墓か蜜柑山 篠田悌二郎
龍の玉深く蔵すといふことを 高濱虚子
生きものに眠るあはれや龍の玉 岡本眸
山茶花の垣に銀杏の落葉哉 正岡子規
帰りには左に見える返り花 高梨章
真青な葉も二三枚返り花 高野素十
咲きし日も散る日も知らず返り花 福田蓼汀
帰り花鶴折るうちに折り殺す 赤尾兜子
イエスには復活木には返り花 岩岡中正
返り咲くたんぽぽに茎なかりけり 福神規子
泣きじやくるやうにさざんか散り敷ける 市堀玉宗
ふと咲けば山茶花の散りはじめかな 平井照敏
山茶花やバイク覆ふと生るる角 高瀬祥子
老いて知る菓子の楽しみ石蕗の花 遠藤梧逸
海へ出て曲る鉄道石蕗の花 落合水尾
滝壺の底が真赤や冬もみぢ 日原傳
水仙の香やこぼれても雪の上 加賀千代女
水仙にたまる師走の埃かな 高井几董
水仙や束ねし花のそむきあひ 中村汀女
水仙の花のうしろの蕾かな 星野立子
水仙剪る錆びし鋏を花に詫び 桂信子
早梅を片言咲きと言ひとむる いのうえかつこ
寒椿つひに一日の懐手 石田波郷
花の中雪片こほる椿かな 中田剛
雪折の竹もうもれし深雪かな 鈴木花蓑
以上です
どうぞ、俳句を楽しんでください