ペア80
◎割れた花
皿割れて絵の花割れて春のくれ 池田澄子
陶片に残る全き草の花 ハードエッジ
◎雲一つ無き
雲一つなくてまばゆき雪解かな 久保田万太郎
うつくしや雲一つなき土用空 小林一茶
雲ひとつなき秋晴の日なりけり ハードエッジ
いざよひは雲ひとつなき寒さ哉 高井几董
富士山に雲ひとつなき懐手 黛まどか
◎大きな地、大きな海
淡海といふ大いなる雪間あり 長谷川櫂
大いなる近江の国に梅雨籠 ハードエッジ
みすずかる信濃は大き蛍籠 伊藤伊那男
◎湯水と微笑
うぐひすや微笑むやうにスープ煮ゆ 南うみを
田を亘る風に微笑む植田水 高澤良一
さくらんぼくすぐるやうに洗ひけり 金子敦
寒卵微笑むやうに湯の沸きて 小池康生
◎城の高さ
巣燕の城の高さをまだ知らず 八染藍子
黄落のはじまる城の高さより 野見山ひふみ
◎マンションの四季
マンションの昼の閑けさ花水木 鶴岡加苗
荒梅雨やマンションもある大通り ハードエッジ
マンションの又も建ちたる西日かな ハードエッジ
花火が見えるマンションの説明会 今村豊
マンションの干蒲団みな白き舌 山口誓子
◎まとわる
日盛や梯子貼りつくガスタンク 相子智恵
青空や道に巻かれて山眠る 鈴木六林男
◎葱と女
妻老いて冷索麺の葱きざむ 遠藤梧逸
もう去らぬ女となりて葱刻む 高柳克弘
OL四年主婦二十年葱刻む 小川軽舟
葱きざみ妻の三十路も駈くるごとし 宮津昭彦
葱きざむこの音とわが四十年 加藤楸邨
◎秋の暮の音
水入れて壺に音する秋の暮 桂信子
引く浪の音はかへらず秋の暮 渡辺水巴
火とともに消ゆる火の音秋の暮 神尾久美子
鐘の音は音速で消ゆ秋の暮 ハードエッジ
◎木の葉型
土いまだ木の葉のかたち山眠る 正木ゆう子
灰の上の灰は木の葉の形して 長谷川櫂
以上です