ペアリング30 蜻蛉の夢や幾度杭の先 夏目漱石

追記:蟻の顔/2021.4.1、入道雲/2020.8.15、枝の弾力/2020.7.19、凍箒/2019.12.19、おこぜ・鮟鱇の肝/2019.6.11、コスモス/2019.5.13、豆腐汁/2019.3.12、餅/2019.1.9、薄氷/2018.10.28、1ペア入替/2018.9.7

ペアリング30

◎指の力

蝌蚪かとつまむ指頭の力愛に似て  金子兜太かねこ とうた

白桃はくとうの皮引く指にやゝちから  川崎展宏かわさき てんこう

 

 

◎白い日記

夜々芽吹く誰の日記も明日は白  岡本眸おかもと ひとみ

絵日記の白を拡げて日焼の子  ハードエッジ

夜々のつゆあしたのために日記の白  加倉井秋を

 

 

◎圧縮と解放

紙で包む枝の弾力だんりょく桃の花 川崎展宏    てんこう

紐解ひもといて枝ひろがるや桃の花  長谷川櫂はせがわ かい

つぼにして秋草の束ひろがりぬ  小川軽舟おがわ けいしゅう

 

 

◎割れ物処理

割れびんを包んで捨つる梅雨入 ついり かな  北大路翼きたおおじ つばさ

割れ鏡めたる上の焚火たきびかな  ハードエッジ

 

 

◎秋の日差し

あかあかと日は難面つれなくも秋の風  松尾芭蕉まつお ばしょう

一枚に日は照りつけて秋簾あきすだれ  川崎展宏

 

 

◎いにしえ

秋風や皆千年の物ばかり  正岡子規まさおか しき

水澄むや物皆古き法隆寺ほうりゅうじ  岸本尚毅きしもと なおき

 

 

◎秋の人

秋風やつまらぬ男をとこまへ  日野草城ひの そうじょう

秋風や殺すに足らぬ人ひとり  西島麦南にしじま ばくなん

コスモスや働かずして美男美女  中村安伸    やすのぶ

 

 

◎繰り返し

蜻蛉とんぼうの夢や幾度いくたびくいの先  夏目漱石なつめ そうせき

とんぼうや水輪の中に置く水輪  軽部烏頭子かるべ うとうし

 

 

◎表情

薄氷はくひょうのところどころの微笑びしょうかな  正木ゆう子

きいでし入道雲にゅうどうぐもの笑顔なる 瀧澤伊代次たきざわ いよじ

鬼をこぜ笑ひ顔にて揚げらるる  松尾和代

日本にこの生まじめな蟻の顔 加藤楸邨    しゅうそん

こほろぎのこの一徹いってつかおを見よ  山口青邨やまぐち せいそん

凍箒よく見れば薄笑ひゐし 河原枇杷男かわはら び わ お

鮟鱇あんこうのこのほほゑみの顔を見よ  今井杏太郎いまい きょうたろう

鮟鱇のきもつぶしたやうな顔  ハードエッジ

 

 

◎好き嫌い

すき嫌ひなくて豆飯まめめし豆腐汁とうふじる  高濱虚子

鮟鱇あんこう河豚ふぐも喰ふなり年の暮  寺田寅彦てらだ   とらひこ

すつぽんもふぐもきらひで年の暮  久保田万太郎

酒もすき餅もすきなり今朝の春  高濱虚子たかはま きょし

 

以上です