ペア95
◎刃物の曇り
花冷の包丁獣脂もて曇る 木下夕爾
短夜の脂に曇るナイフかな 相子智恵
◎丼の蓋
蓋あけて天丼匂ふ花の雨 ハードエッジ
花時やカツ丼の蓋閉じきらず 相子智恵
◎高速の山
時速百キロつぎつぎと山笑ふ 太田うさぎ
初富士をものの五分で通過して ハードエッジ
◎地方紙
岩手日報膝にひらいて草の餅 遠藤梧逸
朝刊は秋田新報鰯雲 中岡毅雄
信濃には「信濃毎日」豊の秋 広渡敬雄
黒葡萄包む「山梨日日」に 中村与謝男
◎文字の果
お涅槃や黒板拭に文字の屑 ハードエッジ
地虫出づ吸ひ取り紙に字のかけら 西原天気
燃えし屑まだ字が読める焚火あと 能村研三
◎飯粒大事
飯粒は蟻の宝物涅槃像 ハードエッジ
飯粒を神輿に蟻や木の芽山 矢島渚男
◎帽子振る
夏帽子振つて大きなさやうなら 太田うさぎ
八月に「帽振れ」といふ別れかな ハードエッジ
◎鳴くか、鳴かぬか
鵙のごと鳴けざることの悔しかり 藤井あかり
さみしさのいま声出さば鴨のこゑ 岡本眸
鶴啼くやわが身のこゑと思ふまで 鍵和田秞子
◎皿の絵
大皿に青き山脈雪催 ハードエッジ
皿の絵の波また波や蕪村の忌 鈴木鷹夫
◎自販機
販売機ごとりと落葉はじまりぬ 岡本眸
缶コーヒー取出口の落葉かな 金子敦
以上です