夏 【蟬】 体当りの愚かな蟬と思へども

全然堂歳時記 夏の部
【蟬】せみ

全然堂歳時記=現在、本号を含め104記事=春夏秋冬–年末年始=29-23-21-19–5-7
/2024.7.17

子季語:油蟬、蟬の声、蟬時雨、落蟬

◎葉書俳句

◎テキスト

夏やせみいてますますさかんなり ハードエッジ

老いて:
老いてこそなほなつかしや雛飾る 及川貞
皆老いて雛の客とも思はれず 高木晴子
老いて蟇女人に還りつつあらん 永田耕衣
蝉すでに老いて出でたる蝉の穴 正木ゆう子
腸も老いてぶつぶつ秋に入る 川崎展宏
迎火や老いては尖る膝頭 草間時彦
吾亦紅老いて焦茶を着こなせる 後藤比奈夫
春を待つ老の心を老いて知る 後藤比奈夫
目出度さや老いて互に寝正月 高濱虚子

老いて/自作:
お彼岸や老いて不足のなき暮し ハードエッジ
誰彼の老いてしまひし帰省かな ハードエッジ
メデューサも老いて悲しや木の葉髪 ハードエッジ
友らみな老いて目出度し年賀状 ハードエッジ

鬱蒼うっそう氏神様うじがみさま蟬時雨せみしぐれ ハードエッジ

氏神:
氏神の御屋根普請や冬木立 寺田寅彦

たがひをはげますごとせみの声 ハードエッジ

励ます:
後進を励ます手紙漱石忌 ハードエッジ
われを励ますものに背摺れの一柱 桑原三郎

蟬時雨せみしぐれちがふ流派りゅうはもうち混じり ハードエッジ

うち混/交:
うち交る草も見覚え土筆籠 中村汀女
夏期講座善男善女うち混じり ハードエッジ
夏萩や枯れたる花もうち交り 高野素十
蝙蝠と秋の燕とうちまじり 岸本尚毅
桜紅葉桜黄葉とうち混じり ハードエッジ
灰撒くや焦げし木の実をうち混ぜて 南うみを

一族は茶の装束しょうぞく蟬時雨せみしぐれ ハードエッジ

装束:
装束をつけて端居や風光る 高濱虚子
一竿は死装束や土用干し 森川許六
花王たり白装束の白牡丹 阿波野青畝
装束を雲より白く秋遍路 鷹羽狩行

油蟬あぶらぜみに油のつやはなかりけり ハードエッジ

油蟬:
羽化終へてこの世の色に油蝉 横井理恵
油蝉死せり夕日へ両手つき 岡本眸
みちのくの土の黒さや油蝉 利普苑るな
ひぐらしに今日を譲らず油蝉 百合山羽公

蟬時雨せみしぐれより遁走とんそうせみひとつ ハードエッジ

遁走:
蠅生れ早や遁走の翅使ふ 秋元不死男
麻薬打てば十三夜月遁走す 石田波郷

せみのこゑ届かぬところまで泳ぐ ハードエッジ

届かぬ:
もう声の届かぬ遠さ卒業子 白濱一羊
鉄砲のとゞかぬ空や鳥帰る 正岡子規
道の辺の雪にとどかぬ柳かな 長谷川櫂
座敷まで届かぬ夏の木陰かな 志太野坡
浅く見えて杓の届かぬ清水哉 正岡子規
花火まで届かぬ声をあげにけり 青木ともじ
地に影の届かぬ高さ鵙の贄 ハードエッジ
朝の日の裾にとどかぬ寒さかな 加賀千代女

体当たいあたりのおろかなせみと思へども ハードエッジ

愚かな:
亀鳴くや皆愚かなる村のもの 高濱虚子
着ぶくれのおろかなる影曳くを恥づ 久保田万太郎
愚かなる「無」の扁額や七五三 中村草田男

落蟬おちぜみの鳴かず飛ばずを空にぐ ハードエッジ

飛ばず:
風船は飛ばず暖かき息入れても ハードエッジ
雉の子の飛ばずつぎつぎ走りけり 茨木和生
蓮の実の飛ばず仕舞ひに枯るるあり 金久美智子

水田に落ちておぼるるせみもあらむ ハードエッジ

溺るる:
両手あげて母と溺るる春の川 八田木枯
鶯の声も溺るる霧の海 富安風生
花芯ふかく溺るる蜂を見て飽かず 木下夕爾
点在の山家溺るる桃の花 白澤よし子
旱魃の草に溺るる水位標 中村翠湖
身を投げて溺るる如し籐寝椅子 ハードエッジ
露草の露に溺るる虫もあらむ ハードエッジ
大男溺るるごとく鯨割く 安田千枝子

蟬時雨せみしぐれせまり来る死を忘れよと ハードエッジ

迫り来:
広げたる地図に雲海迫り来る 広渡敬雄
日焼けせし歯科医の顔の迫り来し 柳沢典子
紅葉且つ散る夕暮は迫り来る ハードエッジ

生くるべく死ぬべくひたに蟬時雨せみしぐれ ハードエッジ

ひたに:
鶯や我らはひたに聞き役に ハードエッジ
ひたに入りひたひたに満ち田水たり 小川軽舟
人の落ちめかじかめる手をひたに摩り 久保田万太郎
破魔矢得て飛雪の磴をひたに下る 久米三汀

われ先に死ぬ恍惚こうこつ蟬時雨せみしぐれ ハードエッジ

恍惚:
春暁や死の恍惚も少し知り 能村登四郎
凧糸はいま恍惚の抛物線 松山足羽
耳掻をつかふ恍惚猫やなぎ 稲垣きくの
白となることの恍惚樹氷林 松野苑子
恍惚と火事みる祖母の素足なり 皆吉司
枯れ枯れて幹恍惚と立つ日向 村越化石
恍惚のチャフや空飛ぶ宝船 ハードエッジ

さきがけの虫も混りて夜のせみ ハードエッジ

魁:
魁けて紅葉したるは既に濃き 清崎敏郎

なつかしき地中の暗さ夜のせみ ハードエッジ

地中:
種蒔いて地中いささか騒がしき ハードエッジ
地中また晴朗ならむ地虫出て 百合山羽公
水中に目高地中に蚯蚓かな ハードエッジ
冷まじや地中へ続く磨崖仏 川崎慶子
草枯れて地中の草の根の細り ハードエッジ
大根が地中でぬくぬくしていやがる 斉田仁
人参の村は地中も夕焼けし 大串章

科学者の長き白衣はくいや夜のせみ ハードエッジ

科学:
花の中科学博物館を置く 遠藤梧逸
長き夜の知に棹さすは科学の子 ハードエッジ
かつてラララ科学の子たり青写真 小川軽舟
哲学も科学も寒き嚔哉 寺田寅彦
松過ぎの竹橋科学技術館 ハードエッジ

このせみは雨に寿命じゅみょうちぢめしや ハードエッジ

寿命:
淡白な味で寿命がまた伸びる OY

せみ腹八分目はらはちぶんめほどむしばまれ ハードエッジ

朝顔もはかなかりしがせみの声 ハードエッジ

本歌取り:
頼家もはかなかりしが実朝忌 水原秋櫻子

 

◎初案18句

初案から最終稿が2句出来た場合があり

鳴きながら体当りして蟬落る ハードエッジ
科学者は白衣をまとふ夜の蟬 ハードエッジ
われ先に死ぬ陶酔や蟬の声 ハードエッジ
蟬の腹八分目ほど蝕まれ ハードエッジ
この蟬は雨に寿命を縮めしや ハードエッジ

蟬飛ぶや老いてますます盛んなり ハードエッジ
蟬の声届かぬところまで泳ぐ ハードエッジ
落蟬の鳴かず飛ばずを投げてみる ハードエッジ
魁の虫の中なる夜の蟬 ハードエッジ
朝顔もはかなかりしが蟬の穴 ハードエッジ

遠くまで逃げゆく蟬や蟬時雨 ハードエッジ
蟬時雨違ふ流派もうち混じり ハードエッジ
自らを励ます如く蟬時雨 ハードエッジ
蟬のよく鳴いて人なき神社なり ハードエッジ
蟬時雨激しもう死を寄せ付けず ハードエッジ

懐しき地中の暗さ夜の蟬 ハードエッジ
水田に溺るる蟬もあるならむ ハードエッジ
胡麻油匂へり油蟬は鳴き ハードエッジ

 

◎推敲一覧/pdf

全76句/1枚

全然堂歳時記 夏 【蟬】 推敲一覧

 

◎A4推敲 原稿/pdf

全2枚

全然堂歳時記 夏 【蟬】 A4推敲 原稿

 

◎A4推敲 加筆/pdf

全2枚

全然堂歳時記 夏 【蝉】 A4推敲 加筆

 

◎葉書推敲 原稿/pdf

全3枚

全然堂歳時記 夏 【蟬】_葉書推敲 原稿

 

◎葉書推敲 加筆/pdf

全3枚

全然堂歳時記 夏 【蝉】_葉書推敲 加筆

 

◎葉書俳句表側

 

◎データベース画面/桐v10

 

◎蟬秀句

閑さや岩にしみ入る蟬の声 松尾芭蕉
蟬鳴や物喰ふ馬の頬べたに 小林一茶
蝉の木に登らんとして見上げをり 高濱虚子
花も月も見しらぬ蟬のかしましき 正岡子規
蝉鳴ける貨車やそのまま動き出す 加藤楸邨

おいて来し子ほどに遠き蟬のあり 中村汀女
蟻の居て寝釈迦の如く蟬死して 京極杞陽
蝉しぐれ子の誕生日なりしかな 安住敦
死蟬をときをり落し蟬しぐれ 藤田湘子
蝉鳴かぬ寂けさと鳴く寂けさと 相生垣瓜人

蝉落ちて遠くの蝉の鳴きにけり 今井杏太郎
沸き減ってお湯が濃くなる蝉しぐれ 池田澄子
蟬を喰ひ蜻蛉を喰うて寺の猫 岸本尚毅
自我ありて泣くこゑ蟬に敗けてゐず 鷹羽狩行
身に貯へん全山の蝉の声 西東三鬼

校庭に映画はじまるまでの蝉 大牧広
頼朝と虚子の鎌倉蝉時雨 星野高士
宿坊に百の子の靴蝉しぐれ 田中恵子
落蝉の蟻乗せしまま歩き出す 篠田重好

 

◎未練句/補遺/在庫処理

鳴き通す蟬に昼寝はなかるべし ハードエッジ
指先に抓んで蟬に共鳴す ハードエッジ
絶命は絶対の蟬時雨なり ハードエッジ
ぶつかつて割れたる蟬はなかりけり ハードエッジ
切れかけし螢光灯のごとく蟬 ハードエッジ
公園の白ハイヒール夜の蟬 ハードエッジ
落蟬の仰向けに聞く蟬時雨 ハードエッジ
蟬時雨電池切れたるものは落つ ハードエッジ

以上です