角川俳句賞2022 落選作 プランA 地の涯に天を支ふる花氷

角川俳句賞 2022 落選作
プランA「花氷」50句

落選作

◎葉書俳句

 

◎テキスト

春

東風(こち)吹かば鶏冠(けいかん)高く風見鶏(かざみどり) ハードエッジ

鶏冠:
春深しひよこに鶏冠兆(きざ)しつつ 三村純也(みむら じゅんや)
戦争は鶏冠を秋風に裂(さ)く 片山桃史(かたやま とうし)
霜晴(しもばれ)の鶏冠のきつと塩辛き ふけとしこ

雛様(ひなさま)に珈琲(コーヒー)苦(にが)し我(われ)が飲む ハードエッジ

雛様:
お雛さま永久(とわ)はさびしと微笑(ほほえ)みぬ 中塚健太
お雛さまに見せてくるりとランドセル ハードエッジ

畑打(はたうち)の仕上(しあげ)は雷(らい)に託(たく)しけり ハードエッジ

託し:
蒲公英(たんぽぽ)の絮(わた)に全(すべ)てを託しけり ハードエッジ
湯上りの子を初夢に託しけり ハードエッジ

大(おお)いなる自重(じちょう)の末の大雪崩(おおなだれ) ハードエッジ

自重:
太りつつ暫(しば)し自重の桜の芽 ハードエッジ

うすらひのうすらわらひの水たまり ハードエッジ

薄笑:
虚子(きょし)の忌(き)の写真の虚子の薄笑ひ 大野朱香(    しゅか)
茅(ち)の輪(わ)くぐるはじめの一人薄笑ひ 鈴木鷹夫(   たかお)
凍箒(いてぼうき)よく見れば薄笑ひゐし 河原枇杷男(かわはら びわお)

美しき夜道を帰る彼岸(ひがん)かな ハードエッジ

夜道:
夜道たのし子を持ち金魚玉(きんぎょだま)を買ひ 中山純子
くちなはも涼しき夜道好むらし 相生垣瓜人(あいおいがき かじん)
けふの月馬も夜道を好みけり 村上鬼城(    きじょう)

みるならばぼうつとみたき桜かな ハードエッジ

見るなら:
老猫(ろうびょう)は子猫の夢を見るならむ ハードエッジ
鬼の子も父母の夢見るならむ ハードエッジ

四十・五十・六十余年(よねん)昭和の日 ハードエッジ

連番:
春一番二番三番涅槃西風(ねはんにし) 清水基吉(しみず もとよし)
一羽二羽三羽をかぎり通し鴨(がも) 加舎白雄(かや しらお)
落鮎(おちあゆ)のあはれや一二三の簗(やな) 加舎白雄
一之町二之町三之町しぐれ 石原八束(いしはら やつか)
一句二句三句四句五句枯野の句 久保田万太郎( く ぼ た  まんたろう)
黒一点二点三点寒鴉(かんがらす) ハードエッジ
年立つや一二三四五六七 加藤郁乎(かとう いくや)

ひよろひよろと白ひげ伸びて躑躅(つつじ)枯(か)る ハードエッジ

ひよろひよろ:
ひよろひよろとまことに高き土筆かな 山口青邨(    せいそん)
崩れ簗ならめひよろひよろひよろと 阿波野青畝(あわの せいほ)

夏

一粒で二度美味(おい)しいぞ花は葉に ハードエッジ

一粒:
欠伸(あくび)して涙ひと粒桃の花 利普苑(りーふぇん)るな
一粒ものこさず去りし夕立(ゆだち)かな 西宮舞(にしみや まい)
羽閉ぢて天道虫(てんとうむし)のひと粒に 齋藤朝比古(さいとう あさひこ)
さくらんぼ一粒づつが灯を映(うつ)す 高濱年尾(たかはま としお)
茎のなき一粒残るさくらんぼ 市川蘆舟
ひとつぶのひかりは月や星の中 辻桃子
金剛の露ひとつぶや石の上 川端茅舎(かわばた ぼうしゃ)
一粒の青き地球の露(つゆ)けしや ハードエッジ
新米(しんまい)の其(その)一粒の光かな 高濱虚子(たかはま きょし)
石榴(ざくろ)の実の一粒だにも惜(お)しみ食ふ 山口誓子(   せいし)
石榴(ざくろ)一粒ほどの増血剤(ぞうけつざい)を嚥(の)む 正木ゆう子
葡萄(ぶどう)うるはしまだ一粒も損(そこな)はず 高濱虚子(たかはま きょし)
一粒を食べて欠きたる葡萄(ぶどう)の房(ふさ) 橋本多佳子
草いろの虫ひと粒に氷りたる 今井杏太郎(    きょうたろう)

花蜜柑(はなみかん)その他橙(だいだい)・金柑(きんかん)も ハードエッジ

その他:
炭(すみ)乏(とぼ)しそのほか乏し寒明(かんあ)くる 及川貞
象頭山(ぞうずさん)その他春山皆似たり 松本たかし
太郎次郎三郎そのほかもみんな蝌蚪(かと) 上田五千石(   ごせんごく)
いそぎんちやくその他生きとし生けるもの 京極杞陽(きょうごく きよう)
蠅帳(はえちょう)に古漬(ふるづけ)その他母の昼 草間時彦(くさま ときひこ)
見る限り早乙女(さおとめ)其他牛も行く 高濱虚子(たかはま きょし)
捕虫網(ほちゅうもう)その他何でもある教会 波多野爽波(はたの そうは)
茄子(なす)牛蒡(ごぼう)その他一畝(ひとうね)づつ背戸(せど)に 西本一都
ひとつ買ひその他の虫は聞き捨てに ハードエッジ
しぐれ来と松の中なる松その他 岸田稚魚(きしだ ちぎょ)
埋火(うずみび)に夕刊その他つねのごと 篠田悌二郎(しのだ ていじろう)
ラグビーの飛車角(ひしゃかく)その他みな駆(か)ける ハードエッジ
初鴉(はつがらす)その他雀も飛行機も ハードエッジ

幼子(おさなご)も匙(さじ)を器用(きよう)に豆ごはん ハードエッジ

器用/不器用:
板前(いたまえ)の水を打つにも器用な手 波多野爽波(はたの そうは)
バナナむく器用不器用なかりけり 稲畑汀子(いなはた ていこ)
不器用に出來て案山子(かかし)のあはれ也(なり) 正岡子規(  しき)
不器用な笑ひのやうなたうがらし 髙田祥聖(    しょうせい)
三味線(しゃみせん)も器用に弾(ひ)きて芙蓉(ふよう)かな 久保田万太郎( く ぼ た  まんたろう)

赤に黄に傘(かさ)や合羽(かっぱ)や梅雨(つゆ)楽し ハードエッジ

赤&黄:
春色(しゅんしょく)は春をなす色赤に黄に ハードエッジ
雛壇(ひなだん)は赤くプリンは黄色なり ハードエッジ
赤にあらず黄色にあらず桜貝 ハードエッジ
ぽかり真っ黄ぽかりと真っ赤チューリップ 松本たかし
赤に黄に高さを競(きそ)ふ掻(か)き氷 ハードエッジ
草むらむら薔薇(ばら)黄なるあり赤きあり 正岡子規(  しき)
花カンナ赤と黄とあり嗅(か)ぎ比(くら)べ 中矢温( なかや のどか)
赤菊の蕾(つぼみ)黄菊の蕾(つぼみ)哉(かな) 正岡子規(  しき)
毒茸(どくたけ)や赤きは真赤黄は真黄 正岡子規(  しき)
黄長靴(きながぐつ)赤長靴(あかながぐつ)や鰤(ぶり)を糶(せ)る ハードエッジ
赤や黄の面影(おもかげ)のある落葉(おちば)かな ハードエッジ

荒梅雨(あらつゆ)の袋ぶらぶらランドセル ハードエッジ

ぶらぶら:
ぶらぶらとして居れば日の永(なが)さ哉(かな) 正岡子規(  しき)
子雲雀(こひばり)のぶらぶら歩き虫咥(くわ)へ 正木ゆう子
スリッパの足をぶらぶら此処(ここ)涼(すず)し 岸本尚毅(   なおき)
軍手(ぐんて)ぶらぶら短日(たんじつ)の荒物屋(あらものや) 内田美紗(  みさ)
七五三座るや足をぶらぶらと 大塚次郎

枇杷(びわ)の種ほどの俳句も良からずや ハードエッジ

枇杷の種:

枇杷の種投げたる音の草にあり 阿部みどり女
枇杷の種コップの中にコトンと落す 細見綾子(ほそみ あやこ)
新婚のしじまこつんと枇杷の種 鷹羽狩行(たかは しゅぎょう)
捨つるには惜(お)しき艶(つや)なり枇杷の種 片山由美子
てのひらに出して大きな枇杷の種 山本一歩
枇杷の種ぬめらぬめらと尖(とが)りけり 山口優夢(   ゆうむ)
枇杷の種ほどの存在感(そんざいかん)ほしき 佐藤郁良(   いくら)
遺言(ゆいごん)とは枇杷の種吐(は)くやうなもの ふけとしこ

枇杷の種ほどの大きさ枇杷の種 ハードエッジ
大きくて長くて黒し枇杷の種 ハードエッジ
枇杷の種ことりと枇杷の皿の上 ハードエッジ
枇杷の種ものの哀(あわ)れは知らざりき ハードエッジ

青空に憧(あこが)れて黴(かび)青むなり ハードエッジ

憧れ:
全円(ぜんえん)に憧れてゐる半仙戯(はんせんぎ) ハードエッジ
花びらに憧れてゐる桜貝 ハードエッジ
梅真白(うめましろ)労咳(ろうがい)の子に憧れて 齋藤愼爾(さいとう しんじ)
夏山も憧れ難(がた)くなりにけり 相生垣瓜人(あいおいがき かじん)
紫陽花(あじさい)の遠き憧れ虹(にじ)の橋 ハードエッジ
蚊帳吊草(かやつりぐさ)繃帯(ほうたい)の子に憧れて 正木ゆう子
水銀(すいぎん)に憧れてゐる天(あま)の川 ハードエッジ
干柿(ほしがき)に憧れてゐる熟柿(じゅくし)かな ハードエッジ
大釜(おおがま)に憧れてゐる今年米(ことしまい) ハードエッジ
西行(さいぎょう)に憧れてゐる焚火(たきび)かな 岸本尚毅(   なおき)
憧れし波郷(はきょう)の眼鏡(めがね)懐手(ふところで) 鎌田保子

もぎ尽(つ)くすまでは我家(わがや)の茄子畑(なすばたけ) ハードエッジ

もぎ:
もぎもぎて梅なき枝や夕嵐 会津八一(あいづ やいち)
駈け出して雨中(うちゅう)の茄子をもぎてくる 和田耕三郎(わだ こうざぶろう)
もぎたての茄子(なすび)の紺(こん)や籠(こ)に満(み)てり 星野立子(ほしの たつこ)
渋柿(しぶがき)を喰(くら)ふともなくもぎにけり 会津八一(あいづ やいち)
果物(くだもの)はもぎて木の実は落とすなり 野原武
柚子(ゆず)の香を近づいて柚子(ゆず)もぎにけり ハードエッジ
もぎ取りしつららの中の不純物(ふじゅんぶつ) 櫂未知子(かい みちこ)
湯あがりの掌(て)にもぎくれし庭蜜柑(にわみかん) 山口満希子

庭干(にわぼ)しの鯵(あじ)の開きを今朝(けさ)の幸(さち) ハードエッジ

鯵の開き:
春風(しゅんぷう)に身を開きたる鯵を干す ハードエッジ
叩(たた)きても開きても良し鯵の旬(しゅん) ハードエッジ
花は葉に鯵の開きに蠅(はえ)たかる ハードエッジ
ま二つに鯵のひらきや秋の風 ハードエッジ

道端(みちばた)の草もずぶ濡(ぬ)れ撒水車(さんすいしゃ) ハードエッジ

撒水車:
春塵(しゅんじん)を虹(にじ)でおさへて撒水車 土生重次(はぶ じゅうじ)
ついてゆく揚羽蝶(あげはちょう)あり撒水車 高野素十(    すじゅう)
世直(よなお)しの如(ごと)く撒水車が行くよ 加藤静夫
撒水車道広ければ又通る 稲畑汀子(いなはた ていこ)
撒水車おのが濡(ぬ)らせし道かへる 富田木荘(とみた もくそう)
撒水車の後ゆくよきことある如(ごと)し 立木青葉郎(たちき あおばろう)

おつとりと牛の歩みの撒水車 ハードエッジ
濃き影を引きずるやうに撒水車 ハードエッジ
一寸(ちょっと)手を振つてやりたや撒水車 ハードエッジ
働いて楽しさうなる撒水車 ハードエッジ
道半(みちなか)ば重荷も半ば撒水車 ハードエッジ
追ひ抜けば人喜びぬ撒水車 ハードエッジ
後ろから押してやりたや撒水車 ハードエッジ

東京で見かけし電車夏の山 ハードエッジ

見かけ:
美しき人を見かけぬ春浅き 日野草城(    そうじょう)
面接で見かけし顔も新社員 ハードエッジ
公園に見かけし春の日傘(ひがさ)かな 鈴木花蓑(    はなみの)
見るたびに見かけぬが居り涅槃図絵(ねはんずえ) 大住日呂姿
二三日見かけぬ秋の蝶々かな ハードエッジ
大仏を見かけて遠き冬野かな 高井几董(   きとう)
見かけよりぬくきものなり頬被(ほおかむり) 右城暮石(うしろ ぼせき)
霜(しも)囲ひしたる二三も見かけたる 清崎敏郎(きよさき としお)
あをからん鴉(からす)の夢を見かけけり 攝津幸彦(せっつ ゆきひこ)

夏雲の白く眩(まぶ)しく美しく ハードエッジ
空母(くうぼ)とも呼ぶべき雲が夏の空 ハードエッジ

空母:
空母対空母入道雲(にゅうどうぐも)真白 ハードエッジ
海底に空母が四つ夏の月 ハードエッジ
空母「みどり」秋天に泌(し)みいる血友病(けつゆうびょう) 攝津幸彦(せっつ ゆきひこ)
高原を空母とおもふ良夜(りょうや)かな 仲寒蟬(なか かんせん)
白鳥や空母浮んでなにもせず 和田悟朗(   ごろう)
初凪(はつなぎ)や航空母艦平かに 五十嵐播水(いがらし ばんすい)
カツ揚る沸騰(ふっとう)空母沈むさまに 大原テルカズ
まぼろしの空母に種を蒔(ま)きゐたり 攝津幸彦(せっつ ゆきひこ)

風(かぜ)死してピクリともせぬ暑さかな ハードエッジ

ピクリ:
鯖(さば)ピクリ板濡色(ぬれいろ)に木目(きめ)も生(い)く 香西照雄(こうざい てるお)

炎天(えんてん)の足下(そっか)に焦(こ)げて影小(ち)さし ハードエッジ

足下:
春日傘(はるひがさ)たたむ足下の潮迅(しおはや)し 岸本尚毅(   なおき)
大悪人虚子(きょし)の足下の落椿(おちつばき) ハードエッジ
籐椅子(とういす)の風は足下の樹海(じゅかい)より 井沢正江
足下にて外燈点けり冬の崖(がけ) 岡本眸(    ひとみ)
煤箒(すすぼうき)仁王(におう)足下の銭集む 河村むつ子

地の涯(はて)に天を支(ささ)ふる花氷(はなごおり) ハードエッジ

地の涯:
青白き地の涯見せていなびかり 檜紀代(ひのき きよ)

地の果:
春眠(しゅんみん)や両の手足は地の果に 橋閒石(はし かんせき)
地の果のごとき空港茅花(つばな)照る 横山白虹(    はっこう)
地の果に地の塩ありて螢草(ほたるぐさ) 山本健吉
地の果は海のはじまり鳥渡る 猪俣千代子(いのまた ちよこ)
爪先(つまさき)は地の果てに似て湯ざめかな 佐藤郁良(さとう いくら)

雷(らい)の字は雨と田んぼや微笑(ほほえ)まし ハードエッジ

微笑まし:
雛(ひな)を買ふ人見てあればほほゑまし 森川暁水(    ぎょうすい)
都踊(みやこおどり)はヨーイヤサほほゑまし 京極杞陽(きょうごく きよう)
夏の月ひとの裸(はだか)はほほゑまし 上田信治(うえだ しんじ)
たんぽぽもほほゑましくも返り花 成瀬正俊(なるせ まさとし)

雷鳴(らいめい)の渡(わた)り廊下(ろうか)を給食が ハードエッジ

渡り廊下:
料峭(りょうしょう)の渡り廊下の踏めば鳴る 西村和子
病棟(びょうとう)の渡り廊下や夜の蟹(かに) 広渡敬雄(ひろわたり たかお)
外湯(そとゆ)まで渡り廊下や火蛾(ひが)の宿 吉田ひろし
学校の渡り廊下の干菜(ほしな)かな 上原富子
七草(ななくさ)の雪降る渡り廊下かな 長谷川櫂(はせがわ かい)

虹(にじ)が出て橋の下より拾(ひろ)はるる ハードエッジ

橋の下:
満汐(みちしお)や橋の下まで春の海 正岡子規
春水や四条五条の橋の下 与謝蕪村
鉄橋の下の暗さや鳥交(とりさか)る 寺澤一雄
母のなき子猫なりけり橋の下 ハードエッジ
夕立の足音聞くや橋の下 正岡子規
夕立や橋の下なる笑ひ声 正岡子規
橋の下行くもあるべし飛ぶ螢(ほたる) 立花北枝
鉄橋の下には違ふ秋の風 仲寒蟬
桟橋の下の氷も揺れはじむ 松野苑子
滿汐(みちしお)や千鳥(ちどり)鳴くなる橋の下 正岡子規

虹(にじ)の根を煎(せん)じて飲めと言はれけり ハードエッジ

虹の根:
虹の根のありしところか菫(すみれ)濃(こ)し 齋藤愼爾(さいとう しんじ)
畦(あぜ)を違(たが)へて虹の根に行けざりし 鷹羽狩行(たかは しゅぎょう)
虹の根に紫陽花(あじさい)はまだ蕾(つぼみ)なり ハードエッジ
虹の根に夢と希望と涙壺(なみだつぼ) ハードエッジ
虹の根を鯛(たい)らつついてゐるならむ 今瀬剛一(いませ ごういち)
虹の根をこれから掘りにゆくところ 金子敦(かねこ あつし)
虹の根を探しにゆきし子供かな 仙田洋子
虹の根に白壁光る青田哉(かな) 正岡子規(  しき)

扇風機(せんぷうき)除湿機(じょしつき)空気清浄機(せいじょうき) ハードエッジ

清浄:
寺清浄僧等清浄夏めきぬ 高野素十(たかの すじゅう)
百本の筆の清浄夏山家(なつやまが) 高野素十(たかの すじゅう)

どうどうと滝(たき)の重みの夕立(ゆだち)かな ハードエッジ

どうどう:
どうどうと夏の朝雨有難(ありがた)や 星野立子
重き雨どうどう降れり夏柳(なつやなぎ) 星野立子
盆(ぼん)の島月にどうどう太鼓(たいこ)打つ 橋本美代子

夕立(ゆうだち)にとても大きな駐車場(ちゅうしゃじょう) ハードエッジ

駐車:
雲雀(ひばり)すつ飛ぶ白根山頂駐車場 山田みづえ
不法駐車あたりはいつも恋の猫 鈴木六林男(   むりお)
油照(あぶらでり)黄泉比良坂(よもつひらさか)駐車場 青島玄武(あおしま はるたつ)
滝音の届かぬ滝見(たきみ)駐車場 右城暮石(うしろ ぼせき)
夏草の中の白線駐車場 ハードエッジ
駐車場くづれの空地(あきち)いわし雲 押野裕(おしの ひろし)
屋上に駐車場あり今日の月 ハードエッジ
校庭を駐車場とし村祭 中本真人(なかもと まさと)
狗尾草(えのころ)も四季(しき)のうつろひ駐車場 ハードエッジ
底冷(そこびえ)を積んで立体駐車場 佐藤郁良(さとう いくら)
駐車場の隅(すみ)にマフラー落ちてをり 山口優夢(   ゆうむ)
地下駐車場にもクリスマスキャロル 山田弘子

鯵(あじ)フライ文明開化(ぶんめいかいか)の味がする ハードエッジ

鯵フライ:
アジフライにじゃぶとソースや麦の秋 辻桃子
麦秋のソースじやぶりとアジフライ 辻桃子

肉を焼く煙に噎(む)せて夏の月 ハードエッジ

肉を焼く:
肉を焼く煙あがりぬ秋の山 長谷川櫂(はせがわ かい)

軽トラに夜店(よみせ)一式積み込んで ハードエッジ

軽トラ:
軽トラに珈琲(コーヒー)の香(か)や春の雪 ハードエッジ
大方は白の軽トラ植木市 ハードエッジ
軽トラックから踊り子の飛び降りし 柴田恵子
秋祭軽トラックに太鼓(たいこ)載(の)す 押野裕(おしの ひろし)
畦(あぜ)をゆく白き軽トラ雁(かり)渡る ハードエッジ
柿たわわ軽トラックが道の幅 佐藤郁良(さとう いくら)
軽トラや馬の如くに大根(だいこ)積む ハードエッジ

ティアラして夜店を帰る女の子 ハードエッジ

冬バージョン:
ティアラして雪のディズニーランドかな ハードエッジ

帰り道暗し夜店を振り返る ハードエッジ

帰り道:
母と子の帰り道らし草摘(つ)んで ハードエッジ
草を摘(つ)み草の匂ひの帰り道 北川あい沙(さ)
まつかさ拾ひ春の祭の帰り道 阿部みどり女
巣構(すがま)への見え帰り道明るしや 下田稔(しもだ みのる)
風呂が先か秋刀魚(さんま)が先か帰り道 ハードエッジ
探梅(たんばい)の地卵(じたまご)を買ふ帰り道 ハードエッジ
帰り道木の葉はとうに眠りおり 二村典子(にむら のりこ)

火蛾(ひが)と言ふ美しき名の太り肉(じし) ハードエッジ

太り肉:
太り肉の女将(おかみ)涼しく出(い)できたる 桂信子
羅(うすもの)の紺(こん)にほやかや太り肉 野村喜舟(   きしゅう)
柿照るや母系に享(う)けて肥り肉 岡本眸(    ひとみ)

通(かよ)ひ路(じ)の雨を厭(いと)はず火取虫(ひとりむし) ハードエッジ

通ひ路:
細道は狐狸(こり)の通ひ路あたたかし 渡邊千枝子
土竜(もぐら)はや通ひ路つくる雪間(ゆきま)かな 阿波野青畝
東西は月の通ひ路春の夢 ハードエッジ
淡雪(あわゆき)や通ひ路細き猫の恋 寺田寅彦
椿(つばき)落ち海女(あま)の通ひ路らしくなる 後藤比奈夫
夏草に通ひ路つけし釣師(つりし)かな 野村喜舟
向日葵(ひまわり)銹(さ)びて彳(た)つ潮風の通ひ路に 上田五千石
欄干(らんかん)は風の通ひ路掛大根(かけだいこ) ハードエッジ
通ひ路の一礼し行く神も留守(るす) 松本たかし

ががんぼのやうな人生かも知れぬ ハードエッジ

人生:
人生は長からねども潮干狩(しおひがり) 岸本尚毅(   なおき)
絵茣蓙(えござ)古(ふ)り人生もほぼ古(ふ)りにけり 後藤夜半(ごとう やはん)
人生の途中に梅を干しておく 菊地京子
小瑠璃(こるり)飛ぶ選ばなかつた人生に 野口る理(り)
浮巣(うきす)見しのみの人生かも知れず 今瀬剛一(いませ ごういち)
人生や秋うたた寝もその一つ 鈴木鷹夫(   たかお)
人生は秋晴もあり野菊も咲き 京極杞陽(きょうごく きよう)
菊日和(きくびより)人生百か二十五か 攝津幸彦(せっつ ゆきひこ)
人生を発明し得ず猪(しし)を食(た)ぶ 永田耕衣(ながた こうい)
やや永く人生はあり冬花火 矢島渚男(やじま なぎさお)
人生の午後は日脚(ひあし)も伸びにけり 谷川水車
人生よりも言葉永けれ玉霰(たまあられ) 池田澄子
みかん黄にふと人生はあたゝかし 高田風人子(たかだ ふうじんし)
人生のいまが盛りか日記買ふ 山田弘子
人生の午後の思ひを初日記 森田公司
人生の第何章の初暦(はつごよみ) 塙告冬(はなわ こくとう)

人生/自作:
永(なが)き日の人生楽しからざるや ハードエッジ
人生の朝寝の日数(ひかず)増やしけり ハードエッジ
人生は楽しきがよしソーダ水 ハードエッジ
人生に階段いくつ七五三 ハードエッジ

子燕(こつばめ)の喉(のど)に押し込む蜻蛉(とんぼ)かな ハードエッジ

押し込:
塵取に押し込む桐の廣葉かな 正岡子規(  しき)
冬の朝日看護婦は帽に髪押し込む 田川飛旅子(たがわ ひりょし)
斜交ひに聖樹押し込むエレベーター 柘植史子(つげ ふみこ)

恋ゆゑに海月(くらげ)となりし天道虫(てんとむし) ハードエッジ

恋ゆゑ:
恋故にしうねき猫となりにけり 京極杞陽(きょうごく きよう)
みちのくに恋ゆゑ細る滝もがな 筑紫磐井(つくし ばんせい)

やや小さき蟇(ひき)の来てゐる今年かな ハードエッジ

来てゐる:
郊外(こうがい)に春の来てゐるアドバルーン 若杉朋哉(わかすぎ ともや)
卒業の兄と来てゐる堤(つつみ)かな 芝不器男(しば ふきお)
卒業の子らが来てゐる保健室(ほけんしつ) ハードエッジ
別荘(べっそう)に来てゐる人もをどりけり 茨木和生(いばらき かずお)
すぐそこに来てゐる春や春を待つ 上村占魚(うえむら せんぎょ)
初恋の人が来てゐる初詣(はつもうで) 西村麒麟(   きりん)

蠅(はえ)を取る道具色々郷土館(きょうどかん) ハードエッジ

道具:
尺八(しゃくはち)もけんくわ道具の彌生(やよい)かな 久保田万太郎
くちびるは嫁入り道具春逝けり 櫂未知子(かい みちこ)
買ひありく世帯道具や花曇 久保田万太郎( く ぼ た  まんたろう)
雛道具時の流れの忘れもの ハードエッジ
新緑に鑿の重みの道具箱 長谷川櫂(はせがわ かい)
弁慶の道具しらべる夜長哉 正岡子規(  しき)
小道具のパンはほんもの聖夜劇 仮屋賢一(かりや けんいち)

松葉牡丹(まつばぼたん)ざらりと種を零(こぼ)しつつ ハードエッジ

ざらり:
遠雪崩(とおなだれ)卵ざらりと掴(つか)みけり 相子智恵(あいこ ちえ)

秋

湖(みずうみ)の闇(やみ)の深さよ遠花火(とおはなび) ハードエッジ

闇の深:
金亀子(こがねむし)擲(なげう)つ闇の深さかな 高濱虚子(たかはま きょし)
流燈(りゅうとう)の果(は)てなる闇の深さかな 今泉貞鳳(いまいずみ ていほう)
狐火(きつねび)の消えたる闇の深さかな 岡田夏生

冬

木枯(こがらし)を切り分けてゐる風見鶏(かざみどり) ハードエッジ

風見:
どちらから吹くも春風風見鶏 後藤比奈夫(  ひなお)
木枯(こがらし)に身を細うして風見鶏 ハードエッジ
高き枝(え)に咲いて風見の寒椿(かんつばき) ハードエッジ

ことことと弱火のちから冬籠(ふゆごもり) ハードエッジ

ことこと:
敬老日(けいろうび)とは煮小豆(にあずき)をことことと 及川貞
ことことと小豆(あずき)煮(に)つむる細雪(ささめゆき) 加藤耕子
小夜更(さよふ)けて煮豆こ《にまめ》とこと賀状(がじょう)書く ハードエッジ

新年

怪獣(かいじゅう)のよく出ることよお正月 ハードエッジ

怪獣:
怪獣の背中が割れて汗の人 加藤静夫
怪獣のなかから夏風邪の男 大石雄鬼(おおいし ゆうき)

冬

山の湯に朝な朝なの寒卵(かんたまご) ハードエッジ

朝な朝な:
雪間(ゆきま)まだ朝な朝なを氷りゐし 佐藤宣子
朝な朝な心にかゝる接木(つぎき)哉(かな) 正岡子規(  しき)
行秋(ゆくあき)の朝な朝なの日田の霧(きり) 高野素十(    すじゅう)
朝な朝な朝がほながき契(ちぎ)り哉(かな) 正岡子規(  しき)

◎初案50句

美しき彼岸の夜道たどりけり ハードエッジ
春風に身を細うして風見鶏 ハードエッジ
うすらひのうすらわらひの水たまり ハードエッジ
悲しさは自重の末の大雪崩 ハードエッジ
畑打の仕上げを雷に託しけり ハードエッジ
雛様に珈琲苦し我が飲む ハードエッジ
四十五十六十余年昭和の日 ハードエッジ
みるならばぼうつとみたき桜かな ハードエッジ
ひよろひよろと白髭伸びて躑躅枯る ハードエッジ
湯の町に遺恨のあるや雷激し ハードエッジ
雷は雨と田んぼや微笑まし ハードエッジ
夏雲の眩しさの桁違ひかな ハードエッジ
空母とも言ふべき雲や夏の空 ハードエッジ
肉を焼く青き煙や夏の海 ハードエッジ
虹が出て橋の下より拾はるる ハードエッジ
虹の根を煎じて不老不死薬 ハードエッジ
夕立にとても大きな駐車場 ハードエッジ
さす傘が水の重みの夕立かな ハードエッジ
黄の合羽ピンクの合羽梅雨楽し ハードエッジ
梅雨寒や袋吊りたるランドセル ハードエッジ
炎天の足下の影の濃く小さし ハードエッジ
風死してピクリともせぬ暑さかな ハードエッジ
都会からの中古電車や山開き ハードエッジ
雑草も濡らして行きぬ撒水車 ハードエッジ
扇風機除湿機空気清浄機 ハードエッジ
帰り道暗し夜店を振り返る ハードエッジ
夜店から帰るティアラのお姫様 ハードエッジ
一式の夜店を乗せて来りけり ハードエッジ
幼子も匙を器用に豆ごはん ハードエッジ
地の涯に天を支へる花氷 ハードエッジ
庭に干す鯵の開きを飽きもせず ハードエッジ
鯵フライ食へば文明開化せり ハードエッジ
火蛾といふ名に恥じらひて太り肉 ハードエッジ
ががんぼのやうな人生かも知れず ハードエッジ
子燕の喉に押し込む蜻蛉かな ハードエッジ
天道虫水母に化すと教へられ ハードエッジ
蠅を取る道具工夫や郷土館 ハードエッジ
小ぶりなる蟇の来てゐる今年かな ハードエッジ
通ひ路の雨を厭はず火取虫 ハードエッジ
一粒で二度美味しいぞ花は葉に ハードエッジ
橙も金柑も咲き花蜜柑 ハードエッジ
青空の青とも違ふ黴の青 ハードエッジ
枇杷の種ほどの俳句を志す ハードエッジ
平凡に朝は茄子と胡瓜もぎ ハードエッジ
松葉牡丹咲き継ぐ種を零しつつ ハードエッジ
湖の深き暗がり遠花火 ハードエッジ
木枯を切り分けてゐる風見鶏 ハードエッジ
弱火にて今日もことこと冬籠 ハードエッジ
山の湯に近所で取れし寒卵 ハードエッジ
怪獣の特に出易きお正月 ハードエッジ

 

◎推敲過程 テキスト

全224句

◎推敲過程 プリントに手書き

全31枚

◎葉書俳句表側

 

◎データベース画面/桐v10

※付録:落選葉書一覧リンク

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以上です