角川俳句賞2022 落選作 プランA 地の涯に天を支ふる花氷

角川俳句賞 2022 落選作
プランA「花氷」50句

落選作

◎葉書俳句

 

◎テキスト

東風こち吹かば鶏冠けいかん高く風見鶏かざみどり ハードエッジ

鶏冠:
春深しひよこに鶏冠きざしつつ 三村純也みむら じゅんや
戦争は鶏冠を秋風にく 片山桃史かたやま とうし
霜晴しもばれの鶏冠のきつと塩辛き ふけとしこ

雛様ひなさま珈琲コーヒーにがわれが飲む ハードエッジ

雛様:
お雛さま永久とわはさびしと微笑ほほえみぬ 中塚健太
お雛さまに見せてくるりとランドセル ハードエッジ

畑打はたうち仕上しあげらいたくしけり ハードエッジ

託し:
蒲公英たんぽぽわたすべてを託しけり ハードエッジ
湯上りの子を初夢に託しけり ハードエッジ

おおいなる自重じちょうの末の大雪崩おおなだれ ハードエッジ

自重:
太りつつしばし自重の桜の芽 ハードエッジ

うすらひのうすらわらひの水たまり ハードエッジ

薄笑:
虚子きょしの写真の虚子の薄笑ひ 大野朱香    しゅか
くぐるはじめの一人薄笑ひ 鈴木鷹夫   たかお
凍箒いてぼうきよく見れば薄笑ひゐし 河原枇杷男かわはら びわお

美しき夜道を帰る彼岸ひがんかな ハードエッジ

夜道:
夜道たのし子を持ち金魚玉きんぎょだまを買ひ 中山純子
くちなはも涼しき夜道好むらし 相生垣瓜人あいおいがき かじん
けふの月馬も夜道を好みけり 村上鬼城    きじょう

みるならばぼうつとみたき桜かな ハードエッジ

見るなら:
老猫ろうびょうは子猫の夢を見るならむ ハードエッジ
鬼の子も父母の夢見るならむ ハードエッジ

四十・五十・六十余年よねん昭和の日 ハードエッジ

連番:
春一番二番三番涅槃西風ねはんにし 清水基吉しみず もとよし
一羽二羽三羽をかぎり通しがも 加舎白雄かや しらお
落鮎おちあゆのあはれや一二三のやな 加舎白雄
一之町二之町三之町しぐれ 石原八束いしはら やつか
一句二句三句四句五句枯野の句 久保田万太郎 く ぼ た  まんたろう
黒一点二点三点寒鴉かんがらす ハードエッジ
年立つや一二三四五六七 加藤郁乎かとう いくや

ひよろひよろと白ひげ伸びて躑躅つつじる ハードエッジ

ひよろひよろ:
ひよろひよろとまことに高き土筆かな 山口青邨    せいそん
崩れ簗ならめひよろひよろひよろと 阿波野青畝あわの せいほ

一粒で二度美味おいしいぞ花は葉に ハードエッジ

一粒:
欠伸あくびして涙ひと粒桃の花 利普苑りーふぇんるな
一粒ものこさず去りし夕立ゆだちかな 西宮舞にしみや まい
羽閉ぢて天道虫てんとうむしのひと粒に 齋藤朝比古さいとう あさひこ
さくらんぼ一粒づつが灯をうつす 高濱年尾たかはま としお
茎のなき一粒残るさくらんぼ 市川蘆舟
ひとつぶのひかりは月や星の中 辻桃子
金剛の露ひとつぶや石の上 川端茅舎かわばた ぼうしゃ
一粒の青き地球のつゆけしや ハードエッジ
新米しんまいその一粒の光かな 高濱虚子たかはま きょし
石榴ざくろの実の一粒だにもしみ食ふ 山口誓子   せいし
石榴ざくろ一粒ほどの増血剤ぞうけつざいむ 正木ゆう子
葡萄ぶどううるはしまだ一粒もそこなはず 高濱虚子たかはま きょし
一粒を食べて欠きたる葡萄ぶどうふさ 橋本多佳子
草いろの虫ひと粒に氷りたる 今井杏太郎    きょうたろう

花蜜柑はなみかんその他だいだい金柑きんかんも ハードエッジ

その他:
すみとぼしそのほか乏し寒明かんあくる 及川貞
象頭山ぞうずさんその他春山皆似たり 松本たかし
太郎次郎三郎そのほかもみんな蝌蚪かと 上田五千石   ごせんごく
いそぎんちやくその他生きとし生けるもの 京極杞陽きょうごく きよう
蠅帳はえちょう古漬ふるづけその他母の昼 草間時彦くさま ときひこ
見る限り早乙女さおとめ其他牛も行く 高濱虚子たかはま きょし
捕虫網ほちゅうもうその他何でもある教会 波多野爽波はたの そうは
茄子なす牛蒡ごぼうその他一畝ひとうねづつ背戸せどに 西本一都
ひとつ買ひその他の虫は聞き捨てに ハードエッジ
しぐれ来と松の中なる松その他 岸田稚魚きしだ ちぎょ
埋火うずみびに夕刊その他つねのごと 篠田悌二郎しのだ ていじろう
ラグビーの飛車角ひしゃかくその他みなける ハードエッジ
初鴉はつがらすその他雀も飛行機も ハードエッジ

幼子おさなごさじ器用きように豆ごはん ハードエッジ

器用/不器用:
板前いたまえの水を打つにも器用な手 波多野爽波はたの そうは
バナナむく器用不器用なかりけり 稲畑汀子いなはた ていこ
不器用に出來て案山子かかしのあはれなり 正岡子規  しき
不器用な笑ひのやうなたうがらし 髙田祥聖    しょうせい
三味線しゃみせんも器用にきて芙蓉ふようかな 久保田万太郎 く ぼ た  まんたろう

赤に黄にかさ合羽かっぱ梅雨つゆ楽し ハードエッジ

赤&黄:
春色しゅんしょくは春をなす色赤に黄に ハードエッジ
雛壇ひなだんは赤くプリンは黄色なり ハードエッジ
赤にあらず黄色にあらず桜貝 ハードエッジ
ぽかり真っ黄ぽかりと真っ赤チューリップ 松本たかし
赤に黄に高さをきそき氷 ハードエッジ
草むらむら薔薇ばら黄なるあり赤きあり 正岡子規  しき
花カンナ赤と黄とありくらべ 中矢温 なかや のどか
赤菊のつぼみ黄菊のつぼみかな 正岡子規  しき
毒茸どくたけや赤きは真赤黄は真黄 正岡子規  しき
黄長靴きながぐつ赤長靴あかながぐつぶりる ハードエッジ
赤や黄の面影おもかげのある落葉おちばかな ハードエッジ

荒梅雨あらつゆの袋ぶらぶらランドセル ハードエッジ

ぶらぶら:
ぶらぶらとして居れば日のながかな 正岡子規  しき
子雲雀こひばりのぶらぶら歩き虫くわへ 正木ゆう子
スリッパの足をぶらぶら此処ここすずし 岸本尚毅   なおき
軍手ぐんてぶらぶら短日たんじつ荒物屋あらものや 内田美紗  みさ
七五三座るや足をぶらぶらと 大塚次郎

枇杷びわの種ほどの俳句も良からずや ハードエッジ

枇杷の種:

枇杷の種投げたる音の草にあり 阿部みどり女
枇杷の種コップの中にコトンと落す 細見綾子ほそみ あやこ
新婚のしじまこつんと枇杷の種 鷹羽狩行たかは しゅぎょう
捨つるにはしきつやなり枇杷の種 片山由美子
てのひらに出して大きな枇杷の種 山本一歩
枇杷の種ぬめらぬめらととがりけり 山口優夢   ゆうむ
枇杷の種ほどの存在感そんざいかんほしき 佐藤郁良   いくら
遺言ゆいごんとは枇杷の種くやうなもの ふけとしこ

枇杷の種ほどの大きさ枇杷の種 ハードエッジ
大きくて長くて黒し枇杷の種 ハードエッジ
枇杷の種ことりと枇杷の皿の上 ハードエッジ
枇杷の種もののあわれは知らざりき ハードエッジ

青空にあこがれてかび青むなり ハードエッジ

憧れ:
全円ぜんえんに憧れてゐる半仙戯はんせんぎ ハードエッジ
花びらに憧れてゐる桜貝 ハードエッジ
梅真白うめましろ労咳ろうがいの子に憧れて 齋藤愼爾さいとう しんじ
夏山も憧れがたくなりにけり 相生垣瓜人あいおいがき かじん
紫陽花あじさいの遠き憧れにじの橋 ハードエッジ
蚊帳吊草かやつりぐさ繃帯ほうたいの子に憧れて 正木ゆう子
水銀すいぎんに憧れてゐるあまの川 ハードエッジ
干柿ほしがきに憧れてゐる熟柿じゅくしかな ハードエッジ
大釜おおがまに憧れてゐる今年米ことしまい ハードエッジ
西行さいぎょうに憧れてゐる焚火たきびかな 岸本尚毅   なおき
憧れし波郷はきょう眼鏡めがね懐手ふところで 鎌田保子

もぎくすまでは我家わがや茄子畑なすばたけ ハードエッジ

もぎ:
もぎもぎて梅なき枝や夕嵐 会津八一あいづ やいち
駈け出して雨中うちゅうの茄子をもぎてくる 和田耕三郎わだ こうざぶろう
もぎたての茄子なすびこんてり 星野立子ほしの たつこ
渋柿しぶがきくらふともなくもぎにけり 会津八一あいづ やいち
果物くだものはもぎて木の実は落とすなり 野原武
柚子ゆずの香を近づいて柚子ゆずもぎにけり ハードエッジ
もぎ取りしつららの中の不純物ふじゅんぶつ 櫂未知子かい みちこ
湯あがりのにもぎくれし庭蜜柑にわみかん 山口満希子

庭干にわぼしのあじの開きを今朝けささち ハードエッジ

鯵の開き:
春風しゅんぷうに身を開きたる鯵を干す ハードエッジ
たたきても開きても良し鯵のしゅん ハードエッジ
花は葉に鯵の開きにはえたかる ハードエッジ
ま二つに鯵のひらきや秋の風 ハードエッジ

道端みちばたの草もずぶ撒水車さんすいしゃ ハードエッジ

撒水車:
春塵しゅんじんにじでおさへて撒水車 土生重次はぶ じゅうじ
ついてゆく揚羽蝶あげはちょうあり撒水車 高野素十    すじゅう
世直よなおしのごとく撒水車が行くよ 加藤静夫
撒水車道広ければ又通る 稲畑汀子いなはた ていこ
撒水車おのがらせし道かへる 富田木荘とみた もくそう
撒水車の後ゆくよきことあるごとし 立木青葉郎たちき あおばろう

おつとりと牛の歩みの撒水車 ハードエッジ
濃き影を引きずるやうに撒水車 ハードエッジ
一寸ちょっと手を振つてやりたや撒水車 ハードエッジ
働いて楽しさうなる撒水車 ハードエッジ
道半みちなかば重荷も半ば撒水車 ハードエッジ
追ひ抜けば人喜びぬ撒水車 ハードエッジ
後ろから押してやりたや撒水車 ハードエッジ

東京で見かけし電車夏の山 ハードエッジ

見かけ:
美しき人を見かけぬ春浅き 日野草城    そうじょう
面接で見かけし顔も新社員 ハードエッジ
公園に見かけし春の日傘ひがさかな 鈴木花蓑    はなみの
見るたびに見かけぬが居り涅槃図絵ねはんずえ 大住日呂姿
二三日見かけぬ秋の蝶々かな ハードエッジ
大仏を見かけて遠き冬野かな 高井几董   きとう
見かけよりぬくきものなり頬被ほおかむり 右城暮石うしろ ぼせき
しも囲ひしたる二三も見かけたる 清崎敏郎きよさき としお
あをからんからすの夢を見かけけり 攝津幸彦せっつ ゆきひこ

夏雲の白くまぶしく美しく ハードエッジ
空母くうぼとも呼ぶべき雲が夏の空 ハードエッジ

空母:
空母対空母入道雲にゅうどうぐも真白 ハードエッジ
海底に空母が四つ夏の月 ハードエッジ
空母「みどり」秋天にみいる血友病けつゆうびょう 攝津幸彦せっつ ゆきひこ
高原を空母とおもふ良夜りょうやかな 仲寒蟬なか かんせん
白鳥や空母浮んでなにもせず 和田悟朗   ごろう
初凪はつなぎや航空母艦平かに 五十嵐播水いがらし ばんすい
カツ揚る沸騰ふっとう空母沈むさまに 大原テルカズ
まぼろしの空母に種をきゐたり 攝津幸彦せっつ ゆきひこ

かぜ死してピクリともせぬ暑さかな ハードエッジ

ピクリ:
さばピクリ板濡色ぬれいろ木目きめく 香西照雄こうざい てるお

炎天えんてん足下そっかげて影さし ハードエッジ

足下:
春日傘はるひがさたたむ足下の潮迅しおはやし 岸本尚毅   なおき
大悪人虚子きょしの足下の落椿おちつばき ハードエッジ
籐椅子とういすの風は足下の樹海じゅかいより 井沢正江
足下にて外燈点けり冬のがけ 岡本眸    ひとみ
煤箒すすぼうき仁王におう足下の銭集む 河村むつ子

地のはてに天をささふる花氷はなごおり ハードエッジ

地の涯:
青白き地の涯見せていなびかり 檜紀代ひのき きよ

地の果:
春眠しゅんみんや両の手足は地の果に 橋閒石はし かんせき
地の果のごとき空港茅花つばな照る 横山白虹    はっこう
地の果に地の塩ありて螢草ほたるぐさ 山本健吉
地の果は海のはじまり鳥渡る 猪俣千代子いのまた ちよこ
爪先つまさきは地の果てに似て湯ざめかな 佐藤郁良さとう いくら

らいの字は雨と田んぼや微笑ほほえまし ハードエッジ

微笑まし:
ひなを買ふ人見てあればほほゑまし 森川暁水    ぎょうすい
都踊みやこおどりはヨーイヤサほほゑまし 京極杞陽きょうごく きよう
夏の月ひとのはだかはほほゑまし 上田信治うえだ しんじ
たんぽぽもほほゑましくも返り花 成瀬正俊なるせ まさとし

雷鳴らいめいわた廊下ろうかを給食が ハードエッジ

渡り廊下:
料峭りょうしょうの渡り廊下の踏めば鳴る 西村和子
病棟びょうとうの渡り廊下や夜のかに 広渡敬雄ひろわたり たかお
外湯そとゆまで渡り廊下や火蛾ひがの宿 吉田ひろし
学校の渡り廊下の干菜ほしなかな 上原富子
七草ななくさの雪降る渡り廊下かな 長谷川櫂はせがわ かい

にじが出て橋の下よりひろはるる ハードエッジ

橋の下:
満汐みちしおや橋の下まで春の海 正岡子規
春水や四条五条の橋の下 与謝蕪村
鉄橋の下の暗さや鳥交とりさかる 寺澤一雄
母のなき子猫なりけり橋の下 ハードエッジ
夕立の足音聞くや橋の下 正岡子規
夕立や橋の下なる笑ひ声 正岡子規
橋の下行くもあるべし飛ぶほたる 立花北枝
鉄橋の下には違ふ秋の風 仲寒蟬
桟橋の下の氷も揺れはじむ 松野苑子
滿汐みちしお千鳥ちどり鳴くなる橋の下 正岡子規

にじの根をせんじて飲めと言はれけり ハードエッジ

虹の根:
虹の根のありしところかすみれし 齋藤愼爾さいとう しんじ
あぜたがへて虹の根に行けざりし 鷹羽狩行たかは しゅぎょう
虹の根に紫陽花あじさいはまだつぼみなり ハードエッジ
虹の根に夢と希望と涙壺なみだつぼ ハードエッジ
虹の根をたいらつついてゐるならむ 今瀬剛一いませ ごういち
虹の根をこれから掘りにゆくところ 金子敦かねこ あつし
虹の根を探しにゆきし子供かな 仙田洋子
虹の根に白壁光る青田かな 正岡子規  しき

扇風機せんぷうき除湿機じょしつき空気清浄機せいじょうき ハードエッジ

清浄:
寺清浄僧等清浄夏めきぬ 高野素十たかの すじゅう
百本の筆の清浄夏山家なつやまが 高野素十たかの すじゅう

どうどうとたきの重みの夕立ゆだちかな ハードエッジ

どうどう:
どうどうと夏の朝雨有難ありがたや 星野立子
重き雨どうどう降れり夏柳なつやなぎ 星野立子
ぼんの島月にどうどう太鼓たいこ打つ 橋本美代子

夕立ゆうだちにとても大きな駐車場ちゅうしゃじょう ハードエッジ

駐車:
雲雀ひばりすつ飛ぶ白根山頂駐車場 山田みづえ
不法駐車あたりはいつも恋の猫 鈴木六林男   むりお
油照あぶらでり黄泉比良坂よもつひらさか駐車場 青島玄武あおしま はるたつ
滝音の届かぬ滝見たきみ駐車場 右城暮石うしろ ぼせき
夏草の中の白線駐車場 ハードエッジ
駐車場くづれの空地あきちいわし雲 押野裕おしの ひろし
屋上に駐車場あり今日の月 ハードエッジ
校庭を駐車場とし村祭 中本真人なかもと まさと
狗尾草えのころ四季しきのうつろひ駐車場 ハードエッジ
底冷そこびえを積んで立体駐車場 佐藤郁良さとう いくら
駐車場のすみにマフラー落ちてをり 山口優夢   ゆうむ
地下駐車場にもクリスマスキャロル 山田弘子

あじフライ文明開化ぶんめいかいかの味がする ハードエッジ

鯵フライ:
アジフライにじゃぶとソースや麦の秋 辻桃子
麦秋のソースじやぶりとアジフライ 辻桃子

肉を焼く煙にせて夏の月 ハードエッジ

肉を焼く:
肉を焼く煙あがりぬ秋の山 長谷川櫂はせがわ かい

軽トラに夜店よみせ一式積み込んで ハードエッジ

軽トラ:
軽トラに珈琲コーヒーや春の雪 ハードエッジ
大方は白の軽トラ植木市 ハードエッジ
軽トラックから踊り子の飛び降りし 柴田恵子
秋祭軽トラックに太鼓たいこす 押野裕おしの ひろし
あぜをゆく白き軽トラかり渡る ハードエッジ
柿たわわ軽トラックが道の幅 佐藤郁良さとう いくら
軽トラや馬の如くに大根だいこ積む ハードエッジ

ティアラして夜店を帰る女の子 ハードエッジ

冬バージョン:
ティアラして雪のディズニーランドかな ハードエッジ

帰り道暗し夜店を振り返る ハードエッジ

帰り道:
母と子の帰り道らし草んで ハードエッジ
草をみ草の匂ひの帰り道 北川あい
まつかさ拾ひ春の祭の帰り道 阿部みどり女
巣構すがまへの見え帰り道明るしや 下田稔しもだ みのる
風呂が先か秋刀魚さんまが先か帰り道 ハードエッジ
探梅たんばい地卵じたまごを買ふ帰り道 ハードエッジ
帰り道木の葉はとうに眠りおり 二村典子にむら のりこ

火蛾ひがと言ふ美しき名の太りじし ハードエッジ

太り肉:
太り肉の女将おかみ涼しくできたる 桂信子
うすものこんにほやかや太り肉 野村喜舟   きしゅう
柿照るや母系にけて肥り肉 岡本眸    ひとみ

かよの雨をいとはず火取虫ひとりむし ハードエッジ

通ひ路:
細道は狐狸こりの通ひ路あたたかし 渡邊千枝子
土竜もぐらはや通ひ路つくる雪間ゆきまかな 阿波野青畝
東西は月の通ひ路春の夢 ハードエッジ
淡雪あわゆきや通ひ路細き猫の恋 寺田寅彦
椿つばき落ち海女あまの通ひ路らしくなる 後藤比奈夫
夏草に通ひ路つけし釣師つりしかな 野村喜舟
向日葵ひまわりびてつ潮風の通ひ路に 上田五千石
欄干らんかんは風の通ひ路掛大根かけだいこ ハードエッジ
通ひ路の一礼し行く神も留守るす 松本たかし

ががんぼのやうな人生かも知れぬ ハードエッジ

人生:
人生は長からねども潮干狩しおひがり 岸本尚毅   なおき
絵茣蓙えござり人生もほぼりにけり 後藤夜半ごとう やはん
人生の途中に梅を干しておく 菊地京子
小瑠璃こるり飛ぶ選ばなかつた人生に 野口る
浮巣うきす見しのみの人生かも知れず 今瀬剛一いませ ごういち
人生や秋うたた寝もその一つ 鈴木鷹夫   たかお
人生は秋晴もあり野菊も咲き 京極杞陽きょうごく きよう
菊日和きくびより人生百か二十五か 攝津幸彦せっつ ゆきひこ
人生を発明し得ずししぶ 永田耕衣ながた こうい
やや永く人生はあり冬花火 矢島渚男やじま なぎさお
人生の午後は日脚ひあしも伸びにけり 谷川水車
人生よりも言葉永けれ玉霰たまあられ 池田澄子
みかん黄にふと人生はあたゝかし 高田風人子たかだ ふうじんし
人生のいまが盛りか日記買ふ 山田弘子
人生の午後の思ひを初日記 森田公司
人生の第何章の初暦はつごよみ 塙告冬はなわ こくとう

人生/自作:
ながき日の人生楽しからざるや ハードエッジ
人生の朝寝の日数ひかず増やしけり ハードエッジ
人生は楽しきがよしソーダ水 ハードエッジ
人生に階段いくつ七五三 ハードエッジ

子燕こつばめのどに押し込む蜻蛉とんぼかな ハードエッジ

押し込:
塵取に押し込む桐の廣葉かな 正岡子規  しき
冬の朝日看護婦は帽に髪押し込む 田川飛旅子たがわ ひりょし
斜交ひに聖樹押し込むエレベーター 柘植史子つげ ふみこ

恋ゆゑに海月くらげとなりし天道虫てんとむし ハードエッジ

恋ゆゑ:
恋故にしうねき猫となりにけり 京極杞陽きょうごく きよう
みちのくに恋ゆゑ細る滝もがな 筑紫磐井つくし ばんせい

やや小さきひきの来てゐる今年かな ハードエッジ

来てゐる:
郊外こうがいに春の来てゐるアドバルーン 若杉朋哉わかすぎ ともや
卒業の兄と来てゐるつつみかな 芝不器男しば ふきお
卒業の子らが来てゐる保健室ほけんしつ ハードエッジ
別荘べっそうに来てゐる人もをどりけり 茨木和生いばらき かずお
すぐそこに来てゐる春や春を待つ 上村占魚うえむら せんぎょ
初恋の人が来てゐる初詣はつもうで 西村麒麟   きりん

はえを取る道具色々郷土館きょうどかん ハードエッジ

道具:
尺八しゃくはちもけんくわ道具の彌生やよいかな 久保田万太郎
くちびるは嫁入り道具春逝けり 櫂未知子かい みちこ
買ひありく世帯道具や花曇 久保田万太郎 く ぼ た  まんたろう
雛道具時の流れの忘れもの ハードエッジ
新緑に鑿の重みの道具箱 長谷川櫂はせがわ かい
弁慶の道具しらべる夜長哉 正岡子規  しき
小道具のパンはほんもの聖夜劇 仮屋賢一かりや けんいち

松葉牡丹まつばぼたんざらりと種をこぼしつつ ハードエッジ

ざらり:
遠雪崩とおなだれ卵ざらりとつかみけり 相子智恵あいこ ちえ

みずうみやみの深さよ遠花火とおはなび ハードエッジ

闇の深:
金亀子こがねむしなげうつ闇の深さかな 高濱虚子たかはま きょし
流燈りゅうとうてなる闇の深さかな 今泉貞鳳いまいずみ ていほう
狐火きつねびの消えたる闇の深さかな 岡田夏生

木枯こがらしを切り分けてゐる風見鶏かざみどり ハードエッジ

風見:
どちらから吹くも春風風見鶏 後藤比奈夫  ひなお
木枯こがらしに身を細うして風見鶏 ハードエッジ
高きに咲いて風見の寒椿かんつばき ハードエッジ

ことことと弱火のちから冬籠ふゆごもり ハードエッジ

ことこと:
敬老日けいろうびとは煮小豆にあずきをことことと 及川貞
ことことと小豆あずきつむる細雪ささめゆき 加藤耕子
小夜更さよふけて煮豆こ《にまめ》とこと賀状がじょう書く ハードエッジ

新年

怪獣かいじゅうのよく出ることよお正月 ハードエッジ

怪獣:
怪獣の背中が割れて汗の人 加藤静夫
怪獣のなかから夏風邪の男 大石雄鬼おおいし ゆうき

山の湯に朝な朝なの寒卵かんたまご ハードエッジ

朝な朝な:
雪間ゆきままだ朝な朝なを氷りゐし 佐藤宣子
朝な朝な心にかゝる接木つぎきかな 正岡子規  しき
行秋ゆくあきの朝な朝なの日田のきり 高野素十    すじゅう
朝な朝な朝がほながきちぎかな 正岡子規  しき

◎初案50句

美しき彼岸の夜道たどりけり ハードエッジ
春風に身を細うして風見鶏 ハードエッジ
うすらひのうすらわらひの水たまり ハードエッジ
悲しさは自重の末の大雪崩 ハードエッジ
畑打の仕上げを雷に託しけり ハードエッジ
雛様に珈琲苦し我が飲む ハードエッジ
四十五十六十余年昭和の日 ハードエッジ
みるならばぼうつとみたき桜かな ハードエッジ
ひよろひよろと白髭伸びて躑躅枯る ハードエッジ
湯の町に遺恨のあるや雷激し ハードエッジ
雷は雨と田んぼや微笑まし ハードエッジ
夏雲の眩しさの桁違ひかな ハードエッジ
空母とも言ふべき雲や夏の空 ハードエッジ
肉を焼く青き煙や夏の海 ハードエッジ
虹が出て橋の下より拾はるる ハードエッジ
虹の根を煎じて不老不死薬 ハードエッジ
夕立にとても大きな駐車場 ハードエッジ
さす傘が水の重みの夕立かな ハードエッジ
黄の合羽ピンクの合羽梅雨楽し ハードエッジ
梅雨寒や袋吊りたるランドセル ハードエッジ
炎天の足下の影の濃く小さし ハードエッジ
風死してピクリともせぬ暑さかな ハードエッジ
都会からの中古電車や山開き ハードエッジ
雑草も濡らして行きぬ撒水車 ハードエッジ
扇風機除湿機空気清浄機 ハードエッジ
帰り道暗し夜店を振り返る ハードエッジ
夜店から帰るティアラのお姫様 ハードエッジ
一式の夜店を乗せて来りけり ハードエッジ
幼子も匙を器用に豆ごはん ハードエッジ
地の涯に天を支へる花氷 ハードエッジ
庭に干す鯵の開きを飽きもせず ハードエッジ
鯵フライ食へば文明開化せり ハードエッジ
火蛾といふ名に恥じらひて太り肉 ハードエッジ
ががんぼのやうな人生かも知れず ハードエッジ
子燕の喉に押し込む蜻蛉かな ハードエッジ
天道虫水母に化すと教へられ ハードエッジ
蠅を取る道具工夫や郷土館 ハードエッジ
小ぶりなる蟇の来てゐる今年かな ハードエッジ
通ひ路の雨を厭はず火取虫 ハードエッジ
一粒で二度美味しいぞ花は葉に ハードエッジ
橙も金柑も咲き花蜜柑 ハードエッジ
青空の青とも違ふ黴の青 ハードエッジ
枇杷の種ほどの俳句を志す ハードエッジ
平凡に朝は茄子と胡瓜もぎ ハードエッジ
松葉牡丹咲き継ぐ種を零しつつ ハードエッジ
湖の深き暗がり遠花火 ハードエッジ
木枯を切り分けてゐる風見鶏 ハードエッジ
弱火にて今日もことこと冬籠 ハードエッジ
山の湯に近所で取れし寒卵 ハードエッジ
怪獣の特に出易きお正月 ハードエッジ

 

◎推敲過程 テキスト

角川俳句賞 2022 プランA 推敲 テキスト

全224句

◎推敲過程 プリントに手書き

角川俳句賞 2022 プランA 推敲 手書き_compressed

全31枚

◎葉書俳句表側

 

◎データベース画面/桐v10

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以上です