ペア92
◎かちかち
シャーペンの芯かちかちと日永かな 金子敦
かちかちと目刺の骨を噛みにけり 高濱虚子
カチカチと火屋にはじくや灯取虫 寺田寅彦
数へ日のカチカチポッと火の点る 岡田由季
かちかちと火点す音の淑気かな 齋藤朝比古
獅子舞の口かちかちと喜べる 中本真人
◎家と春の泥
久々に家を出づれば春の泥 高濱虚子
光あり家を出てまず春の泥 池田澄子
◎判定
かんばせは春眠とこそ見まつれど 高橋淡路女
なきがらや大朝寝しておはすかに 長谷川櫂
◎手入れ
手を入れて底籾ぬくし法然忌 榎本冬一郎
深々と手を入るゝ籾のほてりかな 久米三汀
ざつくりと手を入れてこれ今年米 岸田稚魚
◎死に方
妻を捨て子を捨て花に死にし人 下村梅子
向日葵が好きで狂ひて死にし画家 高濱虚子
◎彼我
彼一語我一語新茶淹れながら 高濱虚子
蠅叩とり彼一打我一打 高濱虚子
彼一語我一語秋深みかも 高濱虚子
我一語彼一語虫きいてをり 星野立子
◎泳ぎ来
泳ぎ来し髪を掴んで滴らす 西村和子
泳ぎ来し人の熱気とすれ違ふ 能村登四郎
泳ぎ来し髪をしぼりて妻若し 福永耕二
泳ぎくる彼を一途な水と思ふ 辻美奈子
◎重力
泳ぎより歩行に移るその境 山口誓子
洗ひ終へしプールの底で跳んでみる ハードエッジ
◎富士見
東京に富士見ゆる日や菊を焚く 森澄雄
東京に富士みゆる日や初茜 清水凡亭
◎酒粕炙る
大寒やあぶりて食ふ酒の粕 村上鬼城
しぐるゝや炙つては替へ酒の粕 飴山實
冱つる夜を炙りて召せと酒の粕 長谷川櫂
以上です