全然堂歳時記 冬の部
【春待つ】はるまつ
◎葉書俳句
◎テキスト
千枚の冬田積み上げ春を待つ ハードエッジ
積み上げ:
積み上げし積木涼しく崩れたり ハードエッジ
つみ上げし白き髑ろか雲の峯 会津八一
残塁のゼロを積み上げ雲の峰 ハードエッジ
コンビニ弁当積み上げ祭本部なる 野崎海芋
積み上げし書の崩るるも獺祭忌 ハードエッジ
積み上げて夢の高さの桃の山 ハードエッジ
寒星や古き車を積み上げて ハードエッジ
蜜柑箱みかんを入れて積み上げて ハードエッジ
千枚田:
水張つて海と釣り合ふ千枚田 大石悦子
千枚に継子のごとき植田かな 橋本榮治
千枚田千枚すべて青田なり 塩川雄三
日本海青田千枚の裾あらふ 能村登四郎
夕立や千枚の田を駆け上る ハードエッジ
夏草を掴みて上る千枚田 若井新一
荒海へ千枚の田の水落とす 下村非文
春よ来い雪の帽子を打ち捨てて ハードエッジ
春よ来い:
万華鏡くるくる廻し春よ来い 吉野トシ子
消ゴムの屑吹きとばし春よ来い 辻田克巳
打ち捨て:
打ち捨てて次の町へと行く夕立 ハードエッジ
町一つ打ち捨ててある枯野かな 長谷川櫂
大年のうち捨ててある花さまざま 岸本尚毅
双六を打ち捨て雪合戦に出づ ハードエッジ
春を待つことにも慣れし齢かな ハードエッジ
齢かな:
朧なるもののひとつに齢かな 大石悦子
古稀といふ春風にをる齢かな 富安風生
形代を流して残る齢かな 綾部仁喜
古来稀なる人の古来稀なる齢かな 長谷川櫂
何よりも春待つ心大切に ハードエッジ
大切:
虹懸りゐて大切の時々刻々 津田清子
夕焼や麦酒は泡を大切に ハードエッジ
現し世を日々大切に更衣 星野立子
虫干や母の折り目を大切に 西村弘子
かたつむり老いて睡りを大切に 長谷川双魚
色欲もいまは大切柚子の花 草間時彦
大切に秋を守れと去りにけり 夏目漱石
半日の陽を大切に吊し柿 甲斐遊糸
水仙の黄を大切に冬至かな ハードエッジ
虎落笛母大切に籠りけり 野村喜舟
わが家築三十余年春を待つ ハードエッジ
余年:
鴨啼くや弓矢を捨てて十余年 向井去来
うそまこと七十余年初寝覚 富安風生
春を待つ待合室に名を呼ばれ ハードエッジ
待合:
弔ひにゆく朧夜の待合せ 細川加賀
ぽつかりと待合室に金魚玉 矢野玲奈
美しき蝶になる夢春を待つ ハードエッジ
蝶と夢:
鳥と遊び蝶と狂ひぬ春の夢 五蓬
初蝶を夢の如くに見失ふ 高濱虚子
蝶しばし舞ふや翁の夢の上 正岡子規
花を見し其の夜の夢は胡蝶哉 正岡子規
たんぽぽや折々さます蝶の夢 加賀千代女
凍蝶の夢の絶え間か翅うごく 山田弘子
春待つや猫より小さき箱に猫 ハードエッジ
猫と箱/自作:
猫入れて箱の幸せ春燈 ハードエッジ
たんぽぽや子猫の箱の置かれある ハードエッジ
また一人子猫の箱に下校の子 ハードエッジ
春を待つ百獣の王その妻子 ハードエッジ
百獣/自作:
百獣の動物園に桜咲く ハードエッジ
百獣の王の欠伸も日永ゆゑ ハードエッジ
百獣の王の咆哮花吹雪 ハードエッジ
百獣の王の瞑目小六月 ハードエッジ
春待つや種を預る茶封筒 ハードエッジ
封筒/自作:
花種もその封筒も枯葉色 ハードエッジ
夏痩や封筒の舌折り返す ハードエッジ
春を待つものの日あたり風あたり ハードエッジ
日当り:
日当りてさびしかりけり捨雛 山口青邨
朝寒の膝に日当る電車かな 柴田宵曲
日当りて向ふへ長し鳴子縄 高野素十
桐一葉日当りながら落ちにけり 高濱虚子
振り返るわが家日当り末枯れぬ 岡本眸
日当たりの良いところには良い枯葉 若杉朋哉
春を待つ暗渠の上のプランター ハードエッジ
暗渠:
春の暮暗渠に水のひかり入る 加藤楸邨
おほかたは暗渠の街や柳の芽 嶋田麻紀
開きゐる暗渠の口へ花吹雪 杉原祐之
ぽこぽこと暗渠出で来し茄子の馬 加藤楸邨
暗渠より開渠へ落葉浮き届く 岡田一実
細き枝を長く伸ばして春を待つ ハードエッジ
長枝:
老梅の青枝長けたる蕾かな 楠目橙黄子
松が枝は長く桜は枝垂れたる ハードエッジ
長き枝の長きを枝垂れ桜かな ハードエッジ
夜桜の一枝長き水の上 高野素十
枝長く柳活けたる花屋哉 正岡子規
水引のくれなゐ小さし枝長し ハードエッジ
雪折の連翹すいと長き枝 高野素十
春を待つものの静けさ百花園 ハードエッジ
百花園:
根分せるもの何々ぞ百花園 高濱虚子
見に行くや野分のあとの百花園 正岡子規
見るところみな枯草や百花園 星野立子
枯草の園となりたる百花園 ハードエッジ
待春の名札ばかりに百花園 中戸川朝人
百花:
蝶飛んで百花の春となりにけり ハードエッジ
雪を来て百花の春や初芝居 ハードエッジ
御仏に春待つ花を奉る ハードエッジ
奉る:
細やかに刻んで雛に奉る ハードエッジ
一神事五月の風を奉る 高木石子
温泉の神に燈をたてまつる裸かな 飯田蛇笏
御沙汰あり大筍を奉る 高野素十
悪神に黴の五彩を奉る 林翔
新涼や仏にともし奉る 高濱虚子
糸瓜忌に糸瓜の水を奉る ハードエッジ
柿の木のたわわを月に奉る ハードエッジ
仏にも寒九の水をたてまつる 森澄雄
山の神にうたたてまつれ手毬の子 木村蕪城
生きてゐる人の白息春を待つ ハードエッジ
生きてゐる:
死ぬる馬鹿生きてゐる馬鹿四月馬鹿 斎藤空華
生きてゐるしるしに新茶おくるとか 高濱虚子
なつかしき人生きてゐる帰省かな 齋藤朝比古
蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな 阿波野青畝
生きてゐる者を残して門火消ゆ 保坂伸秋
生きてゐるうちは老人雁わたし 八田木枯
火のかけら皆生きてゐる榾火かな 岸本尚毅
生きてゐるうちもつめたき海鼠かな 大西朋
寒紅も春待つ色に潤みをる ハードエッジ
潤み:
水よりも氷の月はうるみけり 上島鬼貫
咳の子のうるみし瞳我を見る 星野立子
吹いて目のうるみしおもひ七草粥 鷹羽狩行
布巾掛け三方に伸び春を待つ ハードエッジ
布巾:
あたたかや布巾にふの字ふつくらと 片山由美子
長き夜の白き布巾の布巾掛 ハードエッジ
はしためにふきんかなしく凍て反りて 富安風生
人に情お湯で洗った布巾に湯気 池田澄子
寒卵割つて明るい春を待つ ハードエッジ
割って:
翅わつててんたう虫の飛びいづる 高野素十
蝉やいま上る朝日に背を割つて ハードエッジ
掌に白粉花の種割つて練る ハードエッジ
石榴割つて蟻のこぼるる机上かな 山田みづえ
割箸の白木を割つて神の留守 ハードエッジ
取り敢へず氷は割つてみたきかな ハードエッジ
寒卵ごつんと割つて旅の宿 ハードエッジ
塗椀に割つて重しよ寒卵 石川桂郎
大言海割つて字を出す稿始め 鷹羽狩行
表面はかりりと焼けて春を待つ ハードエッジ
◎推敲過程
全然堂歳時記 冬 【春待つ】
以上です