全然堂歳時記 夏
【蟻】あり
◎葉書俳句
◎テキスト
白蟻は家に黒蟻は炎天下 ハードエッジ
黙殺の蟻の過ぎ行く蝉の穴 ハードエッジ
参考句:
蝉の穴蟻の穴よりしづかなる 三橋敏雄
蟻の巣のてつぺんにある穴ひとつ ハードエッジ
日の差さぬ蟻の巣に住み黒づくめ ハードエッジ
黒づくめ秀句:
人間を怖れぬ蟻の黒づくめ 右城暮石
風の盆男踊りの黒づくめ 菖蒲あや
旅にゐて装黒づくめ近松忌 森澄雄
付け替へて今朝あたらしき蟻の道 ハードエッジ
蟻の列鞭の如くに飴に伸ぶ ハードエッジ
鞭の秀句:
鞭つて牛動かざる日永かな 夏目漱石
鞭もまた泥まみれなり田掻牛 若井新一
代馬の泥の鞭あと一二本 高野素十
遠くまで死を嗅ぎ当てて蟻の列 ハードエッジ
遠くまでの名句:
遠くまで行く秋風とすこし行く 矢島渚男
たかりをる小匙一杯分の蟻 ハードエッジ
黒山の蟻に歓喜の声もなし ハードエッジ
歓喜の秀句:
田水引くすぐに歓喜の濁りかな 山田真砂年
谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな 金子兜太
蟻たかる白く解けゆくものの上 ハードエッジ
参考句:
黒蟻や溶けし氷菓に流さるる 生駒大祐
あがきつつ邪悪な蟻をこぼしつつ ハードエッジ
こぼしつつ秀句:
鱗粉をこぼしつつ花衣かな 櫂未知子
蟻引けり蛾の銀粉をこぼしつつ 下村梅子
行く人の咳こぼしつつ遠ざかる 高濱虚子
船のやうに年逝く人をこぼしつつ 矢島渚男
初荷着く市に蕾をこぼしつつ ほんだゆき
小分けして死を運び去る蟻の列 ハードエッジ
参考句:
蟻運ぶ蝶の模様のかけらかな 高柳克弘
蟻の列磁石を置けば曲るなり ハードエッジ
松に蟻その行先は知らねども ハードエッジ
行先秀句:
行先ちがふ弁当四つ秋日和 松永典子
行く先もきめず小春を誘ひ合ひ 安沢阿弥
蟻の列にも殿のありぬべし ハードエッジ
蟻一つ浮んでゐたるバケツかな ハードエッジ
水と虫:
一日のはじまる水に浮ぶ蟻 鷹羽狩行
行水のすて所なき虫の声 上島鬼貫
夜濯に小虫来りて水に落つ ハードエッジ
冬の水浮む虫さへなかりけり 高濱虚子
蟻の列静かに夕日沈み行く ハードエッジ
蟻と夕暮:
蟻の列いま粛然と夕焼けぬ 川端茅舎
夕焼や忘れてをれば蟻の列 加藤楸邨
公園に夜のブランコ夜の蟻 ハードエッジ
蟻の巣や王家の谷へ地下通路 ハードエッジ
◎推敲過程
全然堂歳時記 夏 【蟻】
◎蟻の名句
蟻の列しづかに蝶をうかべたる 篠原梵
蟻が引くニケの翼のごときもの 片山由美子
蟻強しこゑもことばも持たぬゆゑ 高柳克弘
働き蟻足跡ひとつ残さざる 小川軽舟
蟻の列ここより地下に入りゆけり 山口波津女
死に切らぬうちより蟻に運ばるる 相生垣瓜人
大蟻の雨をはじきて黒びかり 星野立子
潰されし蟻が黒さを失はず 右城暮石
蟻潰す孫の未来にわれを消す 鈴木鷹夫
蟻の列図鑑で見るよりも速い あさふろ/富山県
※この作者は「聞ける俳句」で初見
※テレビ愛媛での紹介動画もあります/2020.5月放送
以上です