俳句類題 名詞
【石油】せきゆ
◎石油関連の俳句です
無論、「石油」は季語じゃありません
うすうすとあやめの水に油かな 岸本尚毅(なおき)
あやめを見に来たのだから、あやめの美しさを堪能します
と、同時に、
主役の廻りのあれこれにも、目を向けて面白がる
そのための手軽な記録手段としての俳句です
→GGL画像、あやめの池
あやめの水には、時に、油以外が浮くことも、
返り咲くあやめの水の埃かな 田中王城(おうじょう) ※埃=ほこり
天地一杯まで、ズームアウト、
稲妻や石油浮ぶ池の面 会津八一(やいち) ※稲妻=いなづま
石油の名句と言えば、これ
テキサスは石油を掘つて長閑なり 岸本尚毅 ※長閑=のどか
なんたって、テキサスです
狭い日本の日常身辺の句ではない、
アメリカ工業社会の大景を写した名句です
テキサコ本社前に、この句碑が建ったら、さぞや愉快、 ※テキサコ(Texaco、The Texas Company)
と思ったのですが、昨今、テキサコの名を聞かず →ウィキ、テキサコ
そればかりか、セブン シスターズも今や昔 →ウィキ、セブン シスターズ
(なぜ、ブラザーズでなく、シスターズなのかは、置くとして)
OPECの台頭までは、
※石油輸出国機構=OPEC(Organization of the Petroleum Exporting Countries)
※設立は1960年、実力発揮は1970年代
全世界の石油を支配していました
そのセブン シスターズ絡みで、こんな曲はいかがでしょう
→よつべ、ビッグ ブラザー & ザ ホールディング カンパニー 『チープ スリル』1968
いかにも60年代のバンド名
この1968年は、1970年代の石油危機など、まだ想像もできない、
原油がバレル2ドルで買えた、まことに長閑な時代です
(1973年にはバレル10ドルに迫る)
なお、
原油価格は、2017年現在、50ドル前後で推移(最高値147.27ドル/2008年)
さらに余談ですが、
持株会社(ホールディング カンパニー)は、戦後の財閥解体で禁止され、(解禁は1997年)
1968年当時の青少年には、馴染みがない言葉でした →ウィキ、持株会社
そうそう、野球の「テキサス ヒット」も最近、聞きませんね
以上、脱線ばかりでゴメン
脱線ついでに、
うららかやおもちやの汽車は事故ばかり 横井理恵
さてさて、石油俳句に戻りましょう
ガソリンの真赤き天馬春の雨 富安風生(ふうせい)
※天馬=てんま=ペガサス=モービル石油のマーク
退屈なガソリンガール柳の芽 富安風生
戦前、1937年(昭和12年)作
ガソリンガールで反伝統の先頭に立ったかの風生さんは、、、むにゃむにゃ
タンカーに豊葦原の菜種梅雨 岡あきら
※豊葦原=とよあしはら=日本 菜種梅雨=なたねづゆ=菜の花の頃の長雨
かつては、菜種油が部屋の照明だった時代も
水性の朧油性の朧かな 仮屋賢一 ※朧=おぼろ
朧はジェルな感じがします
※ジェル(英)=ゲル(独)=豆腐、こんにゃく、ゼリー、ナパーム!とか
給油所の流し水吸ふ黒揚羽 村川節子 ※黒揚羽=くろあげは
火気厳禁
寸酌を「給油」と呼びし不死男の忌 鷹羽狩行(たかは・しゅぎょう)
※秋元不死男=あきもと・ふじお
酒飲みは照れ屋です
夾竹桃戦車は青き油こぼす 中村草田男(くさたお) ※夾竹桃=きょうちくとう
真っ赤な夾竹桃に青き油
向日葵も油ぎりけり午後一時 芥川龍之介 ※向日葵=ひまわり
給油所をひとつ置きたる枯野かな 山田露結(ろけつ)
これも真っ赤なペガサスでしょうか
着陸機待ちて給油車日向ぼこ 大島民郎
機械の日向ぼこはレアです
どしや降りの寂しさ海中油田の火 伊藤淳子
無季俳句の寂しさ
◎まとめの3句です
テキサスは石油を掘つて長閑なり 岸本尚毅
寸酌を「給油」と呼びし不死男の忌 鷹羽狩行
どしや降りの寂しさ海中油田の火 伊藤淳子
以上です。お読み頂きありがとうございました/2017.7.1
◎おまけ
稲妻と石油の会津八一さんは短歌の人ですが、
俳句もおもしろいのがあります
蝶高く飛ぶや隣へ隣より 会津八一
誤りて人に生れし暑さかな 会津八一
金網の中に涼しき佛かな 会津八一
片なびくビールの泡や秋の風 会津八一
稲刈ぢや菊も糸瓜もあるものか 会津八一
本箱に手の届かざる炬燵かな 会津八一
喰ふて寝て牛にならばや御代の春 会津八一
追記:
油の付く季語には、油照り、油蝉、油虫、油団(いずれも夏季)、油点草(秋季)などがあります
季語以外では、醤油、油揚、油絵、油断など、
いつか取り上げてみたいです/2017.7.2