春 【春塵】 春塵を虹でおさへて撒水車 土生重次

春の季語「春塵(しゅんじん)」の俳句です

  塵(ちり)も、埃(ほこり)も、一年中ありますが、
  雪国では、冬の間、
  雪に埋って、土ぼこり等とは疎遠です
  つまり、
  雪解けの季節になって、
  ようやく、
  春の風に舞い上る
  春の証(あかし)の塵、埃、な訳です
  5音に、ほぐす場合は、
  「春の塵(ちり)」となります

 

◎都会では、

春塵や東京はわが死にどころ  鈴木真砂女(まさじょ)

春塵に押され大阪駅を出づ  辻田克巳

春塵を虹でおさへて撒水車  土生重次(はぶ・じゅうじ)  ←撒水車=さんすいしゃ
  水を撒いたら虹が出た、という事実を少し捻ってます
  埃を押える、という言い回しの応用編です
  虹も、撒水車も夏の季語ですが、ここでは春塵が主役です

 

◎仏様は、

春塵や観世音寺の観世音  高野素十(すじゅう)
  仏もまた、春の塵の如し
  取るに足りない塵、ではなく
  塵のように遍くおわします、です
  観世音寺の観世音、、、
  お経を唱えるような快さもあります
  有難いことです

  余談ですが、
  カメラなどのキヤノン株式会社(Canon)の名前は、
  観音(旧仮名では、くわんおん)様に由来しています
  字面が凸凹しないように、
  表記は「キヤノン」
  発音は「キャノン」です

  俳句でも、同様に、
  小さな「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」を大きく書く事があります
  (そういうのは許さん、という人々も当然いますが、、、)

  例えば、
  日曜につづく祭日しやぼんだま  木下夕爾

  ひつぱれる糸まつすぐや甲虫  高野素十

  発音は通常と同じで、
  表記のみフルサイズの平仮名を使用します
  (ぶっちゃけ、これが主流派ですけどね、、、)
  横道にそれました
  先へ進みましょう

千手佛春塵拭ふ指持たず  宮脇白夜  ←拭ふ=ぬぐう

春塵に舌の根かわく閻魔王  葉狩てる子
  舌の根も乾かぬうちに、、、嘘つきの舌を抜く、、、その閻魔様の舌

剥落の続く佛に春の塵  ハードエッジ   ←剥落=はくらく
  無論、
  下記の名句を踏まえています
  女身仏に春剥落のつづきをり  細見綾子

 

◎人々は、

先生やいま春塵に巻かれつつ  岸本尚毅(なおき)
  都会では、校庭は貴重な春塵供給地です
  先生が巻かれて、きりきり舞い!してます
  何だか楽しそうです、、、違うかな?

春塵のすべて光りぬ狡休  中村安伸  ←狡休=ずるやすみ
  明るく無機質な春塵に、俗っぽいズル休みです
  丘に寝転んでいる学生さんに、
  春塵がきらきら、話しかけているような、、、

春塵の衢落第を告げに行く  大野林火(りんか)  ←衢=ちまた=巷
  栄華の巷に、堂々たる敗北宣言
  あまり落胆してません
  旧制一高寮歌を思い出しました

嗚呼(ああ)玉杯に花うけて
緑酒(りょくしゅ)に月の影宿(やど)し
治安の夢に耽(ふけ)りたる
栄華(えいが)の巷(ちまた)低く見て
向ケ岡(むこうがおか)にそそり立つ
五寮の健児(けんじ)意気高し

春塵の鏡はうつす人もなく  山口青邨(せいそん)
  女王様を待つのでしょうか?

病室にふはふは育ち春の塵  今井つる女(つるじょ)
  いきなり病室ですが、
  回復期と思われます

  同じ作者で、こんな埃の句もあります
  美しきほこりの中に雛納  今井つる女

我らみな青き地球の春の塵  ハードエッジ

 

◎ハードウェアは、

飾りある優勝杯の春の塵  丘はるか
  校長室でしょうか?
  グラウンドでは夏季大会に向けて、
  猛練習の土ぼこりが立っている事でしょう

  そうそう、
  優勝がらみで、こんな句はどうでしょう
  梅雨寒や厚ぼつたくて優勝旗  齋藤朝比古

春埃拭ひ馴れつゝ卓の傷  高濱年尾(としお)  ←馴れ=なれ
  写生の踏み込みの見本ですね

あな醜し肉附の面の春埃  山田みづえ  ←醜し=みにくし、肉附=にくづき

春塵や木馬の金の目の卑し  中村和弘  卑し=いやし

春塵や加算にはげむ電算機  ハードエッジ

 

◎まとめの3句です

春塵や観世音寺の観世音  高野素十

春塵を虹でおさへて撒水車  土生重次

飾りある優勝杯の春の塵  丘はるか

以上です。お読み頂きありがとうございました/2017.5.8 立夏過ぎましたがご容赦
わが俳句データベースの「春塵」収録数は150です/2017.5.8