【水輪】 とんぼうや水輪の中に置く水輪 軽部烏頭子

追加:都踊/2018.9.7

俳句類題 名詞

【水輪】みずわ

 

◎雨の水輪です

春雨の降り居る小さき水輪かな  小杉余子(よし)  ←小さき=ちさき
  静かに降る細かな雨、
  という春雨の解説に水輪を加えただけです
  細かな雨ゆえ、小さな水輪
  当り前で、発見というほどでもありません
  それでどうした、という人は行ってしまいます
  でも、私は、しばらくそこに立ち止っていたいです

  その春雨の終了直前です
春雨の上り際なる水輪かな  鈴木花蓑(はなみの)  際=きわ

枯蓮雨の水輪をちりばめし  行方克巳(なめかた・かつみ)  ←枯蓮=かれはちす
  散りばめられた別れの言葉です

  水輪の代りに、さざ波が立つと、
  枯蓮に東風の漣かぎりなく  篠田悌二郎(ていじろう)  ←東風=こち、漣=さざなみ

薮鴬水輪で測るほどの雨  貞弘衛(さだひろまもる)  ←藪鶯=やぶうぐいす=冬の鶯
  水輪から雨を逆算しています

ふる雨や浮寝の鳥を水輪攻め  ハードエッジ  ←浮寝=うきね
  浮寝鳥=水鳥が首を翼の間に入れて丸くなり、眠っているように見える様

 

 

◎水の生む水輪です

滴りに集つてゐる水輪かな  高野素十(すじゅう)  ←滴り=したたり
  写生の素十さんの技巧です

音の中水輪の中に滴れる  倉田紘文(こうぶん)

 

 

◎花の水輪です

ひとひらの落花のおける水輪ほと  長谷川素逝(そせい)

桜ちるうたかたほどの水輪置き  西村和子  ←うたかた=あわ

輪となりし水のおどろき落椿  鷹羽狩行(たかは・しゅぎょう)

 

 

◎鳥の水輪です

白鳥の水輪さへぎるもののなし  片山由美子

水鳥の葦に隠れて生む水輪  日野草城(そうじょう)

浮くときも生れる水輪鳰  京極杞陽(きよう)  ←鳰=かいつむり/かいつぶり

鳰の子が親の水輪の中にゐる  水原秋櫻子  ←鳰=にお
  水のバリヤーです
  鳰(冬季)の読みは、定型化のために、
  にお・におどり・かいつむり/かいつぶり、と自在に変化します
  同様に、燕(春季)は、
  つばめ・つばくら/つばくろ・つばくらめ、と読みます

 

 

◎虫の水輪です

とんぼうや水輪の中に置く水輪  軽部烏頭子(かるべ・うとうし)
  「置く」が絶妙です
  遊んでいるような、徒労であるような、、、

  なお、例の定型のための音数調整で、
  とんぼ、ほたる、ぼたん、等を夫々、
  とんぼう、ほうたる、ぼうたん、と読んだりします

  水輪を離れたトンボは、、、
  蜻蛉の夢や幾度杭の先  夏目漱石  ←幾度=いくたび

淋しくてあめんぼう水輪ひろげをり  原田青児

水馬流され水輪流されし  倉田紘文

 

 

◎人や物の水輪です

都をどり水輪の如きすそさばき 西村和子

代掻女おのが水輪を置き去りに  加倉井秋を  ←代掻女=しろかきめ

貸しボート水輪の芯にいて楽し  田川飛旅子(ひりょし)

早苗とるいつも水輪の中の娘よ  皆吉爽雨(みなよし・そうう)

早苗とるおのが水輪の中の雲  亀井糸游(しゆう)

  水輪とは違う、水の輪、もあります
  夏定かコップの跡の水の輪も  友岡子郷(しきょう)

 

 

◎原因不明です (^_^;;;

  水輪がアルダケの俳句です
拡ごれる春曙の水輪かな  高濱虚子  ←春曙=はるあけぼの

秋晴の又も大きな水輪かな  大峯あきら

 

 

◎水輪の色です

鯉の色水輪ににじむ花の雨  長谷川櫂
  緋鯉(ひごい)でしょうか
  派手な緋色を、花の雨の冷たさで、抑え込んでます
  いや、むしろ、華やかでしょうか

 

 

◎形容です

  水輪の形容だったり、水輪で形容だったり
歳月や微笑のごとき春水輪  山田みづえ

牡丹を大きな水輪かと思ふ  田中裕明  ←牡丹=この場合は、ぼうたん

朝顔は水輪のごとし次ぎ次ぎに  渡辺水巴(すいは)

 

 

◎対比です

水底に水輪ひろごる涅槃かな  対中いずみ  ←涅槃=ねはん
  涅槃はお釈迦さんの命日
  その教えが水輪のように、、、ではベタです
  水底をどう捉えるか?水輪の影でしょうか?
  私は読み切れませんでした

 

 

◎最後に、
特に心に残った句を、もう一度

鯉の色水輪ににじむ花の雨  長谷川櫂

牡丹を大きな水輪かと思ふ  田中裕明

とんぼうや水輪の中に置く水輪  軽部烏頭子

※手元の俳句データベースには「水輪」の句が200程ありました
ちなみに、「水脈」は70余

以上です。お読み頂きありがとうございました