追加:鶏頭の影/2019.10.18
ペアリング55
◎鉛筆春秋
鉛筆を落せば立ちぬ春の土 高濱虚子
鉛筆の落ちて音せず草紅葉 星野立子
◎水銀
水銀の行方も知れぬ春の宵 五島高資
水銀の玉散らばりし夜の秋 佐藤郁良
◎金銀の虫
花御堂金銀の蛾の歩きゐる 岸本尚毅
金銀の卑しき蠅の集りをる ハードエッジ
◎折れ影
竜舌蘭に遍路の影の折れ折れて 橋本多佳子
石段に折れ炎天のわが影は 押野裕
階段に折れし人影秋の暮 広渡敬雄
癌育つ身の影折れて月の階 岡本眸
蜩やわが影崖に折れ曲り 加藤楸邨
鶏頭の影地に倒れ壁に立つ 林徹
寒林を行く影法師切られ折られ 福田蓼汀
◎まな板すべる
俎にすべりとどまる桜烏賊 高濱虚子
秋風や俎すべる鯉の肝 鈴木鷹夫
◎食物連鎖
蛇食ふと聞けば恐ろし雉子の声 松尾芭蕉
蛇の来る鳰の浮巣ときけば憂し 高濱虚子
◎故郷遠き
土筆呆け行かねば故郷遠きかな 奈良文夫
名月や故郷遠き影法師 夏目漱石
菊の香や故郷遠き国ながら 夏目漱石
風呂吹きやふるさと遠き男たち 中村苑子
年酒酌むふるさと遠き二人かな 高野素十
◎子の尿
男の子らの尿ゆたかなる五月来ぬ 有働亨
裸子の尿るに弓をなす背かな 波多野爽波
女の子尿るとかがむ曼珠沙華 遠藤梧逸
尿さす子の尻の丸さもやがて春 菖蒲あや
子の尿の燦燦として山眠る 押野裕
子の尿が金色に透き落葉降る 澤木欣一
初ゑびす尻まろき子の尿はずむ 石橋秀野
※尿=にょう・しと・いばり・ゆまり・ゆばり
◎思わず知らず
次の世のことは思はず夕端居 片山由美子
後の世のことは知らざり霜を踏む 赤尾兜子
◎年越す命
大年の昼湯にいのちありにけり 日野草城
除夜の畳拭くやいのちのしみばかり 渡辺水巴
ゆく年の湯舟に眠くいのちって何 池田澄子
去年今年いのちつながりますやうに 小池康生
命より生まるるいのち初御空 鶴岡加苗
屠蘇くめや短くなりしいのちの緒 森澄雄
初日記いのちかなしとしるしけり 久保田万太郎
以上です