ペア93
◎一番星の寒暖
あたたかや一番星に女神の名 山口速
一番星いちばん先に凍ての中 高柳克弘
◎春暁の声
春暁やまだ一言ももの言はず 倉田紘文
春暁のまだ人ごゑをきかずゐる 石田波郷
浮び出し春暁の顔ものを言ふ 綾部仁喜
◎食はれ残り
春雨や喰はれ残りの鴨が鳴く 小林一茶
鈴虫の食はれ残りが髭振れる 加藤楸邨
顔だけの食はれ残りの秋刀魚なり ハードエッジ
◎心もとなき
しやぼん玉こころもとなくふくれけり 日野草城
落葉して心元なき接木かな 村上鬼城
腸の心もとなき南瓜かな ハードエッジ
夕方の心もとなき十二月 ハードエッジ
探梅のこころもとなき人数かな 後藤夜半
尾頭の心もとなき海鼠かな 向井去来
◎雲と草
夏草や兵どもが夢のあと 松尾芭蕉
聖蹟はすなはち廃墟雲の峰 久保田万太郎
◎妻となり
妻となり母となりたる水着かな 山田露結
妻となり母となり木の葉髪となる 西島麦南
◎岬と半島
Tシャツの袖は半島力瘤 塩見恵介
双腕はさびしき岬百合を抱く 正木ゆう子
◎別れの「Ra」
秋空のラの音高きさようなら 塩見恵介
さよならのらが白息となつてしまふ 金子敦
◎火の威力
ウインナや秋の河原に弾け飛ぶ ハードエッジ
バーベキューピーマン破裂させてこそ 小林貴子
◎場末の新聞
山茶花に新聞遲き場末哉 正岡子規
新聞紙すつくと立ちて飛ぶ場末 三橋敏雄
以上です