ペア86
◎すぐそこの春
すぐそこに春の海見ゆオムライス 金子敦
春がすぐそこに来てゐる滑り台 金子敦
すぐそこに春の来てゐる遺影かな 若杉朋哉
すぐそこに来てゐる春や春を待つ 上村占魚
◎自愛
春めくとすこし自愛のこころざし 松澤昭
自愛てふ怠けごころの霞かな 岡本眸
炎天下息子に自愛を申しつける 池田澄子
夏掛けのみづいろといふ自愛かな 能村登四郎
雪催ひ自愛といふは籠もること 鎌田保子
自愛これなるべし而立の懐手 鷹羽狩行
◎自己発光
みづからの光のなかに寝釈迦あり 岡崎陽市
蝸牛おのが微光の中をゆく 千代田葛彦
玉虫はおのが光の中に死にき 加藤楸邨
凍滝のおのがひかりのなかに凍つ 斎藤梅子
◎黄なりけり
壺焼の潮の煮えて黄なりけり 小杉余子
菜の花の雪のさ中の黄なりけり 前北かおる
菜の花にあらざる花も黄なりけり ハードエッジ
向日葵の百人力の黄なりけり 加藤静夫
黄菊とは蕊に籠れる黄なりけり 久米三汀
◎黄なるかな
菜の花の中に夕日の黄なるかな 正岡子規
秋蝶のいよいよ小さく黄なるかな 京極杞陽
蜜柑山上へ上へと黄なるかな 後藤比奈夫
◎帳尻
降りて来ぬ一羽あらずや夕雲雀 片山由美子
潜る鳰浮く鳰数は合ってますか 池田澄子
◎選択
水着選ぶいつしか彼の眼となつて 黛まどか
扇子選ぶ風送りたき人のゐて 鎌田保子
◎母と子
白玉や子等の喜ぶことをせむ 西村和子
白玉や優しき母でゐるために 鎌田保子
◎老相撲取り
相撲取おとがひ長く老いにけり 村上鬼城
相撲取小鳥を飼うて老いにけり 野村喜舟
◎日毎
冬至までひと日ひと日の日暮かな 草間時彦
或日あり或日ありつつ春を待つ 後藤夜半
以上です