ペア 85
◎初恋
初恋のあとの永生き春満月 池田澄子
茫々と初恋遠し春を待つ 稲畑汀子
◎春の燈、夏の闇
店先にママの名前の春燈 ハードエッジ
バー純子扉開けると夏の闇 坊城俊樹
◎貧しさ
貧しさに清らかはなし啄木忌 澤田和弥
汗のハンカチ友等貧しさ相似たり 石田波郷
貧しさと違ふ寂しさおでん酒 ハードエッジ
おでん食ふ貧しさもまた異れり 榎本冬一郎
枯るる貧しさ厠に妻の尿きこゆ 森澄雄
花八ツ手貧しさおなじなれば安し 大野林火
◎半袖、ショーパン
初恋と書く半袖の老教師 石原ユキオ
残暑とはショートパンツの老人よ 星野立子
◎珈琲、紅茶
秋の夜の濁る珈琲澄む紅茶 ハードエッジ
雪の声珈琲は重厚紅茶は軽快 日野草城
◎手段
五六本ころがりこれが鮭の棒 細川加賀
ずつしりとこれが熊撃つ鉄砲ぞ ハードエッジ
◎視界良好
おくれ来し一人が見ゆる枯野かな 高濱年尾
登りゆく人が丸見え冬の山 抜井諒一
◎残る油脂
おでん汁冷めて浮かべる油かな 杉原祐之
鍋底に猪のあぶらの薄茶色 島田牙城
◎その後
降誕祭終りし綺羅を掃きあつめ 福永耕二
惜しみなく豆を撒きたる後始末 黒川悦子
◎過去現在
飲めるだけのめたるころのおでんかな 久保田万太郎
老残のおでんの酒にかく溺れ 久保田万太郎
これしきのおでんの酒に酔ひつぶれ ハードエッジ
以上です