【非情】 見てゐたり黴を殺してゐる泡を 高柳克弘

追記:鰻/2019.10.10、百姓/2019.8.16、真空管/2019.8.14、鬼灯・新緑/2019.8.13、猫の子2句/2019.4.16、秋袷/2019.3.29、絵踏/2019.2.22、鮭の秋/2018.9.16、卒業/2018.9.9

俳句類題 テーマ

【非情】ひじょう=ハードボイルド

非情、薄情、冷淡な俳句です
本音というか、現場というか、写生というか、
身も蓋もない内容です

でも、
季語込みの17音ですから、
書き尽くし、暴き立てるほどの分量でもなく、
淡々とした断片です

人生を深く考えるなら、
小説や哲学に行けばいいのです
俳句は俳句の守備範囲で、
俳句にしか出来ない感慨を述べればいいのです

同じ季語の豊かな遺産があるので、
単なる悪意ある詩からは自由になっています
小説や哲学にはない、
澄んだ余韻を含んでいます

 

◎春

落第の一人の異議いぎもなく決まる  中本真人   まさと

一を知つて二を知らぬなり卒業す  高濱虚子たかはま きょし

しこうして以下同文いかどうぶんと卒業す  福神規子ふくじん のりこ

絵踏えふみして生きのこりたる女かな  高濱虚子

ふところに仔猫鳴かせて捨てにゆく  市堀玉宗いちぼり ぎょくしゅう

猫の子に玩具おもちゃにされて食はれけり  ハードエッジ

泣ける子を泣けるがまゝによもぎむ  上村占魚    せんぎょ

何を着ても田舎臭いなかくさくて桃の花  櫂未知子かい     

 

 

◎夏

百姓ひゃくしょうの生きてはたらく暑さかな  与謝蕪村よさ ぶそん

帰省子きせいしに父の医学の古びたり  五十嵐播水 いがらし ばんすい

眉目みめよしといふにあらねど紺浴衣こんゆかた  高濱虚子

見てゐたりかびを殺してゐる泡を  高柳克弘    かつひろ

新緑しんりょくやうつくしかりしひとの老  日野草城    そうじょう

 

 

◎秋

真空管つてなあに八月十五日  内平あとり

秋袷あきあわせ育ちがものをいひにけり  久保田万太郎

踊子おどりこの見分けのつかぬ厚化粧あつげしょう  中本真人

ひんにしてこうなる相撲すもう負けにけり  高濱虚子

生涯にまはり燈籠とうろうの句一つ  高野素十    すじゅう

かごの目にうなぎ詰まりて夜の長き  岸本尚毅   なおき

生み終へて死ぬこそよけれさけの秋  松倉ゆずる

鬼灯ほおずきや人の死に村若がへる  鈴木牛後    ぎゅうご

 

 

◎冬 正月

枯るる貧しさかわやに妻の尿しときこゆ  森澄雄

泣く人の連れ去られゐし火事明り  中村汀女    ていじょ

聖菓せいか切るためにサンタをつまみ出す  松浦敬親

うつくしき羽子板市はごいたいちや買はで過ぐ  高濱虚子

手毬てまりつく誰とも仲直りせずに  望月周もちづき しゅう

大寒だいかんほこりごとく人死ぬる  高濱虚子

探梅たんばいさそふつもりのなき一人  鶴岡加苗

 

 

◎無季

号泣ごうきゅうやたくさん息を吸ってから  池田澄子

 

以上です