ペア89 狐火が火元か羽子板市炎上 鳥居美智子

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ペア 89

◎神仏剥落

奈良の春十二神将しんしょうげ尽せり 夏目漱石なつめ そうせき

女身仏に春剥落はくらくのつづきをり 細見綾子   あやこ

剥落を夢にいやさむ春菩薩ぼさつ 林翔はやし しょう

 

 

◎余しけり

龍太りゅうたの死二月を三日余しけり 岸本尚毅   なおき

波郷忌はきょうきの二合の酒をあましけり 清水基吉    もとよし

大安の日を余しけり古暦ふるごよみ 高濱虚子たかはま きょし

縫初ぬいぞめの糸ながながと余しけり 片山由美子

 

 

◎ゆるやかに

花見舟さおよこたへてゆるやかに 橋本鶏二   けいじ

うすものをゆるやかに着てくずれざる 松本たかし

祇園囃子ぎおんばやしゆるやかにまた初めより 辻田克巳   かつみ

ゆるやかに着てひととほたる 桂信子

ぼんの波ゆるやかにして響きけり 岸本尚毅   なおき

ゆるやかに階段状の雪として ハードエッジ

ゆるやかに上り坂なる初詣はつもうで 村田篠    しの

 

 

◎炎上の四季

炎上をまぬがれたまひ出開帳でかいちょう 清原枴童    かいどう

炎上の弥陀みだうきくさを照らしけん 橋閒石  かんせき

流燈りゅうとうの炎上もまたよしとせむ 加藤三七子

狐火きつねびが火元か羽子板市はごいたいち炎上 鳥居美智子

炎上を見かへりながら逃ぐるかな 高濱虚子たかはま きょし

 

 

◎昔の色

古き世の火の色うごく野焼のやきかな 飯田蛇笏   だこつ

草餅くさもちを焼く天平てんぴょうの色に焼く 有馬朗人ありま あきと

 

 

◎かけあがる猫

仔猫こねこかけ上りて下りること知らず 右城暮石うしろ ぼせき

梅雨明つゆあけぬ猫がまづ木にけ上る 相生垣瓜人あいおいがき かじん

猫の来てかけあがりけり返り花 村上鬼城    きじょう

 

 

◎舌打ち

花びらに舌打したる蛙かな 小林一茶   いっさ

起きよ起きよと舌打ちすずめさえずれる 森澄雄  すみお

 

 

◎木の芽にぎやか

木々おのおの名乗り出でたる木の芽かな 小林一茶   いっさ

大寺を包みてわめく木の芽かな 高濱虚子たかはま きょし

 

 

◎第二

葉桜はざくらとなりて第二の桜の園 鷹羽狩行たかは しゅぎょう

石段を上り第二の薔薇ばらの園 橋本美代子

 

 

◎心臓の数

身籠みごもりて心臓二つ熱帯夜ねったいや 西山ゆりこ

南吹くもうひとつ心臓が欲しい 近恵こん けい

心臓は一人にひとつづつ夕立ゆだち 櫂未知子かい みちこ

裸子はだかごが心臓ひとつ持て逃ぐる ハードエッジ

心臓がひとりひとりに紅葉山もみじやま 川崎展宏    てんこう

闇汁やみじるに心臓一つ四つ割りに ハードエッジ

獅子舞ししまいの心臓ふたつもて怒る 大石雄鬼   ゆうき

 

 

以上です