冬 【水仙2】 抱くほどの水仙買はむ誕生日

全然堂歳時記 冬の部
【水仙2】すいせん

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全然堂歳時記=現在、本号を含め109記事=春夏秋冬–年末年始=29-25-23-20–5-7
/2025.1.18

子季語:水仙花

◎葉書俳句

◎テキスト

「水」で始まる花の名いくつ水仙花すいせんか ハードエッジ

花の名:
花の名を魚に与へてあたたかし 日原傳
麗かや花の名前の貝の殻 ハードエッジ
苗札の同じ花の名違ふ文字 ハードエッジ
花の名が海に目出度し桜鯛 ハードエッジ

花の名のさだかならねど水中花 関戸靖子

花の名を聞いて忘れて花野行く 町春草
渡来して白粉花の名を貰ふ ハードエッジ

花の名に疎き人にも花の春 ハードエッジ

水仙や希臘ギリシャの神の石柱いしばしら ハードエッジ

希臘:
喇叭水仙希臘の壷に挿し剰り 草間時彦

炎帝へギリシャより来し火を捧ぐ 南十二国
みつまめをギリシャの神は知らざりき 橋本夢道

西瓜食うて白衣汚すな希臘人 ハードエッジ

冬麗や両腕のなきギリシア像 石嶌岳
希臘にも神々多し水仙花 ハードエッジ
水仙は希臘の神の愛せしもの 筑紫磐井

冥途いん長火鉢のそれ者でギリシャる 加藤郁乎

荷をいて一息ひといきつかす水仙花すいせんか ハードエッジ

荷を解:
木瓜の荷を解く紅白や植木市 水原秋櫻子
葉桜や荷を解き縄の粉がとぶ 波多野爽波
草市の荷を解けばすぐ蝶きたる 皆川盤水

一息:
一息にたんぽぽの絮飛びつくさず 山本歩禅

夕焼やあとひと息の逆あがり 高木杏子
深海を一息で消し走馬燈 檜紀代

大花火一息ついて枝垂れけり ハードエッジ

春へもう一息の田を登校児 草間時彦
寄す波の一息つきて春隣 岸田稚魚
凍蝶に致死の一息吹きにけり 大石悦子
荷を解いて一息つかす水仙花 ハードエッジ

駅見えてひと息つくや年のくれ 成田蒼虬

一息にシャッター開ける初御空 鈴木牛後

水仙の玉の莟の透けて見ゆ ハードエッジ

透けて見:
枝々が枯葉の中に透けて見ゆ ハードエッジ

きつぱりと「私、咲きます」水仙花すいせんか ハードエッジ

きつぱり:
ところてん雨きつぱりと上りけり 大石悦子
きつぱりと夜と別れ朝顔の紺 鷹羽狩行
きつぱりと冬暗闇にして眠る 矢島渚男

切りたての水仙生けて宿の朝 ハードエッジ

切りたて:
切り立ての切株に降る春の雨 ハードエッジ
切りたての髪の先まで春の風 上田日差子
藤棚に風きりたてのうなゐ髪 大石悦子
切りたての切株に積む柿の山 ハードエッジ

富士が見え水仙が咲き駿河湾 ハードエッジ

富士が見:
富士が見え川が流れて桜かな ハードエッジ
雲を脱ぐ富士が見えそめ避暑散歩 森田峠
冬すみれ富士が見えたり隠れたり 川崎展宏

駿河:
富士あれば駿河湾あり桜貝 ハードエッジ

雷鳴や駿河を攻むる甲斐の雲 いのうえかつこ
甲斐の雲駿河の雲や不二詣 正岡子規
駿河路や花橘も茶の匂ひ 松尾芭蕉

旅行けば駿河の海に金目鯛 ハードエッジ

日当りの良き水仙の風当り ハードエッジ

日当り:
日当りてさびしかりけり捨雛 山口青邨

朝寒の膝に日当る電車かな 柴田宵曲
日当りて向ふへ長し鳴子縄 高野素十
桐一葉日当りながら落ちにけり 高濱虚子
日あたりや熟柿の如き心地あり 夏目漱石

なまじよき日當りえたる寒さかな 久保田万太郎
珈琲の湯気に日当る十二月 南うみを
春を待つものの日あたり風あたり ハードエッジ
枯草に日あたるといふよき事あり 細見綾子
日当りの良いところには良い枯葉 若杉朋哉

水仙の首の座らぬ花をかし ハードエッジ

水仙の首:
海荒れて水仙の首飛びさうな ハードエッジ

海が荒れ水仙畑荒れに荒れ ハードエッジ

海荒:
海荒れて淋しきかなや針供養 細見綾子
雁風呂や海荒るる日は焚かぬなり 高濱虚子
雁供養星見えぬ夜は海荒れて 成瀬櫻桃子

百足虫出づ海荒るる夜に堪へがたく 山口誓子
向日葵のやや俯向きに海荒ぶ 山口誓子

今日の月生むたかぶりに海荒るる 高橋悦男
鶏頭や家のうしろの海荒し 奥坂まや

海荒れてこそのふるさと節分会 櫂未知子
懸大根黄ばむより海荒れにけり 岡本眸
海荒れて水仙の首飛びさうな ハードエッジ
水仙や来る日来る日も海荒れて 鈴木真砂女

抱くほどの水仙買はむ誕生日 ハードエッジ

抱くほど:
曼珠沙華抱くほどとれど母恋し 中村汀女

水仙を取り囲みたる書斎の書 ハードエッジ

取り囲:
遠足にとり囲まれて象孤独 野中亮介

日焼子に取り囲まれて赤ん坊 ハードエッジ

月光の巌とりかこみ女浪ばかり 岸田稚魚
赤い羽根取り囲まれて付けらるる 中本真人

風音に取り囲まれて藁仕事 奥名春江
雪嶺にとり囲まれて雪卸し 若井新一

雪山に取り囲まれて弓始 ハードエッジ

水仙や書庫と化したる書斎なれど ハードエッジ

書庫:
下萌のはなやぎにけり書庫の裏 山口青邨
花日々にふくらみやまず書庫の窓 竹下しづの女

肉体は死してびつしり書庫に夏 寺山修司
書庫にかへす詩書の天金麦の秋 木下夕爾
書庫守の書物散らかし幾夕立 山口青邨
緑蔭の続きのやうな書庫に入る 岩淵喜代子

秋深し書庫は故人を増やしつつ ハードエッジ
書庫の裏小さき畑秋茄子 山口青邨

書庫の塵冬日親しくなりにけり 飯田蛇笏
夜の書庫に『ユトリロ』返す雪明り 安住敦
書庫守に声なきラグビー玻璃戸走す 中村草田男
書庫を守る鍵鳴り落葉乾き反る 木下夕爾

水仙の垂直に雪ふりそむる ハードエッジ

垂直:
エレベーターつちふる街を垂直に 玉城一香
垂直のビルに触れつつ春の雪 ハードエッジ
卒業すプールの梯子垂直に 宮坂静生
立ち止まるとき垂直の遍路杖 柴田佐知子
垂直に崖下る猫恋果し 橋本多佳子
鮎若し垂直に串呑まさるる 長谷川秋子
堰に来て水の垂直ねこやなぎ 鷹羽狩行
垂直のエレベーターと紫木蓮 ハードエッジ

雲間なる垂直の虹おそろしき 山口青邨
夏の潮青く船首は垂直に 山口誓子
直角に交じる垂直冷奴 ハードエッジ
垂直の楽しさうなる蝸牛かな ハードエッジ
垂直に登りて脱ぎし蛇の衣 鷹羽狩行

墓はみな地に垂直に鰯雲 澤木欣一
蓑虫の世は垂直に風の中 住谷不未夫

水仙に冷たくされてゐたりけり ハードエッジ

自己模倣:
春風に冷たくされてゐたりけり ハードエッジ

四時五時の風の淋しき水仙花すいせんか ハードエッジ

四時:
遅き日の四時打ちきりし時計哉 正岡子規
春雨の三時も過ぎぬ四時近き 中村汀女

四時に烏五時に雀夏の夜は明けぬ 正岡子規
一時二時三時四時五時熱帯夜 重富國宏
四時五時はまだ日盛りや田草取 村地卉木
夏祭五時からといふ四時の森 山根真矢

短日の三時四時五時六時かな 杉田菜穂
数へ日の三時は日向四時の影 永井龍男

一年の計を練るなる水仙花すいせんか ハードエッジ

一年の計:
一年の計にピーナツの皮がちらばる 池田澄子
一年の計まだ立たず初詣 桂信子

洋裁も和裁も廃れ水仙花すいせんか ハードエッジ

廃れ:
山寺は廃れぶらんこ朽ち果てて ハードエッジ
廃れたるものにステッキ西東忌 池田秀水
囀りや鐘楼すたれ鼓楼また 鷹羽狩行
蝶うまれ廃園さらに廃れけり 水原秋櫻子
コピー残りファックス廃れ鳥雲に ハードエッジ
芹摘むや水車廃れし跡と知り 石川桂郎
くるわ廃れて松のみどりのもゆる也 室生犀星

大磯はすたれし避暑地土用浪 松本たかし
昼顔が咲いてドックの廃れたる 行方克巳

銭湯の廃れし町の盆踊 ハードエッジ
国文科廃れゆく世の西鶴忌 三村純也
鮭のぼる町うつとりと廃れつつ 櫂未知子
山中に廃れ宿あり鳥渡る 大野林火

世話物は今もすたれず近松忌 稲畑汀子

歳晩や市電廃れて軌を除けず 鷹羽狩行

韮に似る水仙の葉は毒なるぞ ハードエッジ

後進国にヤード・ポンドや水仙花すいせんか ハードエッジ

 

◎初案20句

春風に冷たくされてゐたりけり ハードエッジ
開きても首の座らぬ水仙花 ハードエッジ
荷解きて水仙に息つかせたる ハードエッジ
海荒れて水仙畑荒れに荒れ ハードエッジ
希臘には石の神殿水仙花 ハードエッジ
水仙の玉の透けたる莟かな ハードエッジ
水仙の切り残されし緑色 ハードエッジ
北風は富士からの風水仙花 ハードエッジ
日当りの良き水仙の風当り ハードエッジ
四時五時のすでに寂しき水仙花 ハードエッジ
水仙にエアコンの風あてぬやう ハードエッジ
洋裁も和裁も廃れ水仙花 ハードエッジ
後進国にヤード・ポンドや水仙花 ハードエッジ
「咲きます」と告げて咲きたる水仙花 ハードエッジ
水とつく花の名いくつ水仙花 ハードエッジ
水仙を切つて宿屋の朝餉かな ハードエッジ
水仙を束で買ひたる誕生日 ハードエッジ
書斎既に書庫と化したる水仙花 ハードエッジ
韮に似てをれど毒草水仙花 ハードエッジ
水仙の垂直に降りそめし雪 ハードエッジ

 

◎推敲句一覧/pdf

全131句/3枚

全然堂歳時記 冬 【水仙2】 テキスト推敲一覧

 

◎A4&葉書推敲 原稿/pdf

全6枚
※1枚目は【水仙1】の句を含む

全然堂歳時記 冬 【水仙2】A4&葉書推敲 原稿

 

◎A4&葉書推敲 加筆/pdf

全7枚
※1枚目は【水仙1】の句を含む

全然堂歳時記 冬 【水仙2】A4&葉書推敲 加筆

 

◎葉書俳句表側

 

◎データベース画面/桐v10

 

◎水仙秀句

文字コード順

お湿りや水仙に香を有り難う 池田澄子
よく切れる鋏おそろし水仙花 高橋淡路女
よぢれゐて水仙の葉の美しく 上村占魚
海に出でて国道細る水仙花 古川朋子
玄関は家族にひとつ水仙花 辻内京子

古書幾巻水仙もなし床の上 正岡子規
枯蓮は阿羅漢水仙は文珠かな 飯田蛇笏
次の間といふうすやみの水仙花 鷲谷七菜子
水仙が水仙をうつあらしかな 矢島渚男
水仙と矢の翔ぶやうな青空と 奥坂まや

水仙にすぐ日の昃る一ト間かな 木下夕爾
水仙にたまる師走の埃かな 高井几董
水仙に雨まつすぐに降りにけり 布施まさ子
水仙に日のあたるこそさむげなれ 大江丸
水仙のしづけさをいまおのれとす 森澄雄

水仙の一輪といふ美学かな 鈴木鷹夫
水仙の一點白し古書斎 幸田露伴
水仙の花のうしろの蕾かな 星野立子
水仙の枯れゆく花にしたがふ葉 安住敦
水仙の香やこぼれても雪の上 加賀千代女

水仙の初花一本目の香気 高澤良一
水仙の水替へ海綿の水も替ふ 安住敦
水仙の束とくや花ふるへつつ 渡辺水巴
水仙の八重の重みにうつむける 寺前たね
水仙は名さへつめたう覚えけり 加賀千代女

水仙や寒き都のここかしこ 与謝蕪村
水仙や古鏡の如く花をかかぐ 松本たかし
水仙や口ごたへして頼もしく 石田郷子
水仙や荒れゐて沖の暗からず 片山由美子
水仙や捨てて嵩なす蟹の甲 大島民郎

水仙や囚徒の一人一人に母 岩岡中正
水仙や畳の上に横たふし 炭太祇
水仙や寝酒そのまま深酒に 草間時彦
水仙や束ねし花のそむきあひ 中村汀女
水仙や日のあたりたる寒暖計 島村元

水仙や筆を待たせて墨を磨り 片山由美子
水仙や表紙とれたる古言海 高濱虚子
水仙や胞衣を出たる花の数 炭太祇
水仙や来る日来る日も海荒れて 鈴木真砂女
水仙や藪の付きたる売屋敷 浪化

水仙をよくよく見たる机かな 桂信子
水仙を活けて湯宿の木の厠 辻田克巳
水仙を剣のごとくに活けし庵 山口青邨
水仙を生けしや葉先枯るるまで 炭太祇
水仙剪る錆びし鋏を花に詫び 桂信子

切通からの青空水仙花 中田剛
雪間なる雪の中なる野水仙 八木林之介
尼が買ふ蛸と水仙由比ケ浜 大木あまり
母の居間父の墓前に水仙花 星野立子
抱かねば水仙の揺れやまざるよ 岡本眸

野水仙破船を母と見し日あり 大木あまり
臨終の間に水仙の匂ひけり 石島雉子郎
瞽女かなし水仙ほども顔あげず 西本一都

 

以上です