全然堂歳時記 夏の部
【蝸牛】かぎゅう、かたつむり
全然堂歳時記=現在、本号を含め103記事=春夏秋冬–年末年始=29-22-21-19–5-7
/2024.7.2
子季語:でんでん虫、でで虫、かたつぶり、まいまい
人気成分:角、殻、渦、雨、水、濡れ、冷え
目次
◎葉書俳句
◎テキスト
暁闇の雨に目覚めし蝸牛 ハードエッジ
「朝方の」にすればシンプルで頭韻
でも「朝」には時間幅があるので、
まだ暗いうちに、の意味で「暁闇」を採用
「明け方」でも暗い意味はあるし頭韻にもなるが、
やはり、「明」よりも「闇」の暗さが良い
「蝸牛」に対抗する「暁闇」の画の多さも良いのでは?
改案:シンプルバージョン
あけ方の雨に目ざめしかたつむり ハードエッジ
暁闇:割りと好きな単語 ←昔は読めなかった
暁闇の蟹がバケツを引掻く音 今井聖
暁闇や洗ひしごとき髪の冷え 野澤節子
暁闇は真夜より暗し天の川 福田蓼汀
暁闇の衛士のつらうつ霰かな 筑紫磐井
三日はや暁闇洩るる杜氏の唄 小坂灯村
暁闇に褌(たふさぎ)代えて初日待つ 金子兜太
初鶏に暁闇うごき初めにけり 園多佳女
暁闇/自作:
暁闇の遅々たる刻を囀れり ハードエッジ
暁闇や決死の蟬が穴を出づ ハードエッジ
暁闇を配達の子にお年玉 ハードエッジ
点々とでんでん虫のゐたりけり ハードエッジ
駄洒落
点々:
点々とつながつてゐる蝌蚪の紐 ハードエッジ
城山は桜点々辛夷点々 京極杞陽
ものの芽へ朱を点々と入れる風 斎藤良子
さんずゐは点点点の涼しさよ 林翔
点の人点々の人砂丘夏 石本登也
点々と田を濁らせて植ゑ進む ハードエッジ
点々と男をりけり夏期講座 鈴木鷹夫
点々と描く目高や水を画かず 野村喜舟
草むらに紅点々と苺かな 赤木格堂
点々と見えてゐるのが渡り鳥 ハードエッジ
わらづかの点々たりや大晦日 久保田万太郎
頭を上げて裳裾ゆたかに蝸牛 ハードエッジ
「裳裾」なんて、読めない漢字を使ってみました
Q:裾を引きずるような習俗はいつ頃からあるのでしょうか?
ギリシャ ローマ、アラビア、日本、西欧、、、
今、調べる気は無いので書き留めるのみ
裳裾:
春の滝白き裳裾を岩に伸ベ 高濱年尾
虹の輪に角を伸ばして蝸牛 ハードエッジ
虹の輪:
虹の輪の下にきらめく春の不二 水原秋櫻子
春眠の虹の輪に入り初めにけり 上野泰
虹の輪をくぐる白雲童子かな 野澤節子
虹の輪の中に人立つ堤かな 西山泊雲
渦巻の裏の単純かたつむり ハードエッジ
単純:
単純と明解は別曼珠沙華 小檜山繁子
葱甘し生きる理由は単純で 櫂未知子
単純な男のやうな餅一個 矢口晃
木綿縞着たる単純初日受く 細見綾子
ガラス戸にブロック塀にかたつむり ハードエッジ
ブロック塀/自作:
蒲公英はブロック塀の裾模様 ハードエッジ
白粉花やブロック塀の鼠色 ハードエッジ
ブロック塀の透かし模様や冬立つ日 ハードエッジ
硝子戸の絶壁を行く蝸牛 ハードエッジ
絶壁:
絶壁のほろほろ落つる汐干かな 前田普羅
絶壁の草動きけり秋の風 正岡子規
雲秋意遊園地の裏絶壁に 宮坂静生
絶壁に木枯あたるひびきかな 夏目漱石
羽子板市わなわな絶壁なす似顔 山口青邨
硝子戸のでんでん虫を裏見かな ハードエッジ
裏見:
裏見せて涼しき滝の心かな 松尾芭蕉
ほととぎす裏見の滝の裏表 松尾芭蕉
初虹や裏見が滝に照る朝日 井上井月
かたつむり蛞蝓よりも子に好かる ハードエッジ
好かる:
ひたむきで人に好かるる撒水車 ハードエッジ
福耳と言はれ霜焼にも好かる 相澤礼子
心臓は今も渦中に蝸牛 ハードエッジ
「蝸」と「渦」の類似から発想
心臓:
心臓面白うて止まらぬ山上の痩蛙 永田耕衣
身籠りて心臓二つ熱帯夜 西山ゆりこ
心臓は一人にひとつづつ夕立 櫂未知子
暑気中もともとずれている心臓 綱長井ハツオ
化石にも心臓ありぬ夜の薔薇 神野紗希
心臓は何の実ならん鷹渡る 丸田洋渡
心臓がひとりひとりに紅葉山 川崎展宏
獅子舞の心臓ふたつもて怒る 大石雄鬼
心臓/自作:
握り拳ほどの心臓青き踏む ハードエッジ
心臓の鼓動激しく囀れり ハードエッジ
心臓をあまた蔵して雲の峰 ハードエッジ
裸子が心臓ひとつ持て逃ぐる ハードエッジ
青虫のその心臓も青ならむ ハードエッジ
闇汁に心臓一つ四つ割りに ハードエッジ
血の通ふ蝸牛の殻と聞かさるる ハードエッジ
カタツムリを殻から引っこ抜くとナメクジに、、、なりません
死んでしまいます ←良い子は真似しないように
ヤドカリとは違うようです
血の通:
凍鶴の血の通ふとも見えぬ脚 山口速
傘を干す日向かたつむりの日陰 ハードエッジ
笠を干:
鵙啼いて熊野権現傘を干す 細川加賀
干傘を開く蝸牛は渦巻きぬ ハードエッジ
蝸牛の渦:
一筆に神書きし渦蝸牛 上野泰
殻の渦しだいにはやき蝸牛 山口誓子
蝸牛渦の終りに點をうつ 山口誓子
蝸牛渦の中心掠れけり 小野あらた
渦解かんばかりにのびて蝸牛 赤松蕙子
渦巻いて並ぶ蝸牛の親子かな ハードエッジ
地に蝸牛天に銀漢渦巻ける ハードエッジ
冬眠も夏眠もすなる蝸牛 ハードエッジ
すなる:
行春や狸もすなる夜の宴 高井几董
山焼けば狐のすなる飛火かな 河東碧梧桐
涅槃図を掛けんとすなる僧五人 高濱虚子
夏山にならむとすなる駒ヶ岳 後藤比奈夫
蜩や旅籠もすなる一軒家 正岡子規
石蹴のをとめもすなるふところ手 橋本多佳子
晩学や男もすなる膝毛布 川名将義
宿なしにあらず旅ゆく蝸牛 ハードエッジ
旅行く/行け:
旅ゆけば薄暑の町のベーカリー ハードエッジ
旅ゆけば秋田青森りんご晴れ ハードエッジ
旅行けば駿河の海に金目鯛 ハードエッジ
旅行けば駿河の国に蜜柑の香 ハードエッジ
かたつむりホルンの中は如何ならむ ハードエッジ
ホルン:
春なれやホルンの中の息の路 佐怒賀正美
楽隊のホルンに映り桃の花 矢島渚男
柔かに割れてしまひし蝸牛 ハードエッジ
割れて:
皿割れて絵の花割れて春のくれ 池田澄子
馬の尻の綺麗に割れて菫咲く 中村和弘
怪獣の背中が割れて汗の人 加藤静夫
秋草の中や見事に甕割れて 波多野爽波
大石や二つに割れて冬ざるる 村上鬼城
鏡餅暗きところに割れて坐す 西東三鬼
割れて/自作:
うすら氷の割れても水に沈まざる ハードエッジ
風船の割れてしまひし赤い皮 ハードエッジ
花びらの割れて哀れや桜貝 ハードエッジ
ひび割れて雲雀の卵雛の声 ハードエッジ
蟷螂の三角定規割れて雨 ハードエッジ
椿の実硬し割れても種硬し ハードエッジ
割れし殻つなぐ蝸牛や少しずれ ハードエッジ
つなぐ:
春の海のかなたにつなぐ電話かな 中村汀女
包帯でつなぐ命の接木かな ハードエッジ
入学児手つなぎはなしまたつなぐ 右城暮石
つなぐ手をくぐりてゆきし蝶々かな 西村和子
手をつなぐことなく進む踊かな ハードエッジ
つなぐ手の反対側の猫じやらし ハードエッジ
七曜をつなぐ三寒四温もて 鈴木榮子
電線がつなぐ電柱枯るる中 西東三鬼
かたつむり死して残りし渦ひとつ ハードエッジ
死して:
初蝶の死してそれより蝶の春 鈴木鷹夫
野蒜噛む死して士官となりし墓 南うみを
肉体は死してびつしり書庫に夏 寺山修司
涼風のとほるに死してよこたはる 谷野予志
老犬の死してのこりし蚤取粉 後藤比奈夫
蜘蛛の膝死してするどく立ちにけり 望月周
蟻の居て寝釈迦の如く蝉死して 京極杞陽
鶇死して翅拡ぐるに任せたり 山口誓子
酷寒に死して吹雪に葬らる 相馬遷子
南国に死して御恩のみなみかぜ 攝津幸彦
踏み潰された蝸牛の母です「こんばんは」 ハードエッジ
踏み潰:
土筆摘む摘まざる土筆踏み潰し 椎名果歩
我むかし踏みつぶしたる蝸牛かな 上島鬼貫
殻ともに踏みつぶされて蝸牛 正岡子規
兜虫ふみつぶされてうごきけり 飯田蛇笏
ねつとりと踏み潰されし毛虫かな ハードエッジ
長居してふみつぶされな蟇 正岡子規
一足に踏みつぶされぬ蟇 正岡子規
雄を食ひ終へしかまきり踏みつぶす 西東三鬼
◎初案19句
制作時間順、同じ初案から2つの最終案が1件あり、故に19句
早起きの角を伸ばしてかたつむり ハードエッジ
角出して虹を見てゐるかたつむり ハードエッジ
頭を上げて裳裾を引いて蝸牛 ハードエッジ
柔かに割れてしまひし蝸牛 ハードエッジ
干傘の滴り光る蝸牛 ハードエッジ
蝸牛死して残りし渦一つ ハードエッジ
点々とでんでん虫のゐたりけり ハードエッジ
でで虫の心臓一つ渦の中 ハードエッジ
裏側の色褪せて居る蝸牛 ハードエッジ
蝸牛なめくぢよりも人気あり ハードエッジ
踏み潰された蝸牛の母です「こんばんは」 ハードエッジ
宿無しにあらず旅行く蝸牛 ハードエッジ
ガラス戸にブロック塀にかたつむり ハードエッジ
冷血の通ふ蝸牛の殻と聞く ハードエッジ
垂直をじつと楽しむ蝸牛かな ハードエッジ
かたつむりホルンの中は如何ならむ ハードエッジ
硝子戸にゐるでで虫を裏見かな ハードエッジ
冬眠も夏眠もありて蝸牛 ハードエッジ
割れても繋ぐ蝸牛の殻や少しずれ ハードエッジ
◎推敲一覧/pdf
全127句/2枚
制作順、赤紫が最終案
最終案から原案を抽出してその推敲過程を表示
途中で不採用になった分は記録されていない
つまり、
A4推敲や葉書推敲の pdf に収録された句でも、
この推敲一覧に載っていない句がいくつかある
<心臓は敢えて渦中に蝸牛>の「敢えて」は「敢へて」でした (^_^;;;
全然堂歳時記 夏 【蝸牛】 推敲一覧
◎A4推敲 原稿/pdf
全1枚
通常はA4推敲を絞ってから、葉書推敲に移るが、
今回は葉書推敲からスタート
その3枚目に20句を越えたので、そこだけA4推敲
直ぐに、葉書推敲に戻る
◎A4推敲 加筆/pdf
全1枚
全然堂歳時記 夏 【蝸牛】_A4推敲 加筆
◎葉書推敲 原稿/pdf
全9枚
全然堂歳時記 夏 【蝸牛】_葉書推敲 原稿
◎葉書推敲 加筆/pdf
全9枚
全然堂歳時記 夏 【蝸牛】_葉書推敲 加筆
◎葉書俳句表側
◎データベース画面/桐v10
◎蝸牛秀句
かたつむり日月遠くねむりたる 木下夕爾
蝸牛やうやく晴れて日暮なり 髙柳克弘
冷たからむ月浴びてゐるかたつむり 広渡敬雄
冷えといふまつはるものをかたつむり 宇佐美魚目
かたつむり焼けば水焼く音すなり 岡田一実
水やれば咲くかもしれずかたつむり 櫂未知子
でゞむしにをりをり松の雫かな 久保田万太郎
かたつむり甲斐も信濃も雨のなか 飯田龍太
かたつむり十日の雨をなほ倦まず 山口青邨
子は雨にとびだしたがりかたつむり 加藤知世子
蝸牛雨の手すりのうらがはに 上田信治
蝸牛雨の郵便局が混み 宮津昭彦
蝸牛渦の終りに點をうつ 山口誓子
蝸牛渦の中心掠れけり 小野あらた
殻の渦しだいにはやき蝸牛 山口誓子
かたつむりほどの引越し母と子と 中嶋秀子
子に贈らるるででむしの詰合せ 鈴白菜実
でで虫の腸さむき月夜かな 原石鼎
行先を食べはじめたる蝸牛 堀切克洋
かたつぶり酒の肴に這せけり 宝井其角
かたつむりつるめば肉の食ひ入るや 永田耕衣
かたつぶり角ふりわけよ須磨明石 松尾芭蕉
やはらかきところは濡れてかたつむり 齋藤朝比古
かたつむりゐなくなるまでゐてやれず 野口る理
蝸牛をつまむ微かに抗ふを 山田みづえ
かたつむり踏まれしのちは天の如し 阿部青鞋
蝸牛ピシと音して踏まれたる 松野苑子
でで虫のごくりともどる殻の中 大石雄鬼
かたつむりよりもゆつくりあゆむ木々 小池康生
夕刊を薄しとおもふかたつむり 上田信治
◎未練句/補遺/在庫処理
かたつむり冷たき夏を歩むかな ハードエッジ
数へゆく一滴二滴蝸牛 ハードエッジ
雨の日はポイント5倍蝸牛 ハードエッジ
雨を聞く葉裏籠りの蝸牛 ハードエッジ
渦巻いて並ぶ蝸牛の親子かな ハードエッジ
地に蝸牛天に銀漢渦巻ける ハードエッジ
まいまいをくるり一物仕立なり ハードエッジ
早起きの角を伸ばしてかたつむり ハードエッジ
裏側の押し潰されて蝸牛 ハードエッジ
西洋の蝸牛を食べて牛も食ふ ハードエッジ
鳴く牛と泣かざる蝸牛雨の中 ハードエッジ
かたつむり二つが葉うら葉おもてに ハードエッジ
以上です