ペア 84
◎絞られ、切られ
如月や身を切る風に身を切らせ 鈴木真砂女
北風の身を切るといふ言葉かな 中村苑子
寒風に吹き絞られて歩きをり 上野泰
寒風に吹きしぼらるる思ひかな 星野立子
◎小さな花
菫束ぬ寄りあひ易き花にして 中村草田男
やはらかに萎えたる花やげんげ束 星野立子
◎空港と植物
空港につヾく曠野の麦の秋 久保田万太郎
飛行場周辺の草刈つてをる ハードエッジ
空港の管理用地の薄かな 杉原祐之
空港の明かりのとどく枯野かな 涼野海音
◎花の分解
山茶花散る偏と旁とばらばらに 田川飛旅子
福寿草二輪ひらきぬ福と寿と 林翔
◎金と銀と死
白金に黄金に柩寒からず 夏目漱石
大寒や死へ金銀の花ざかり 中尾寿美子
◎年末の箱
短日や箱を運ぶに積み重ね 牛田修嗣
空箱の中に空箱十二月 八染藍子
あの菓子の空箱を待つ十二月 鈴木鷹夫
◎開腹
冬の雨高速バスの腹を開け 小野あらた
ポストの腹あいて降誕祭の街 大石雄鬼
◎東山
蒲団着て寝たる姿や東山 服部嵐雪
初夢の覚めぬ姿に東山 鷹羽狩行
◎硝子上と硝子越し
ガラス戸の遠き夜火事に触れにけり 村上鞆彦
思い出せぬ初夢窓ガラスに指紋 池田澄子
◎てんでん
聖夜てんでんに『第九』の音合せ 鷹羽狩行
てんでんばらばらに四股踏み初稽古 鷹羽狩行
以上です