持つて出る昨日の傘や梅雨暗し
梅雨出水畦道消えて恐ろしや
草引けば土美しや梅雨晴間
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
持つて出る昨日の傘や梅雨暗し
梅雨出水畦道消えて恐ろしや
草引けば土美しや梅雨晴間
降り方の緩急自在梅雨の日々
梅雨なれや傘の袋が落ちてをる
長梅雨の変な処に変な虫
卵焼黄色豆飯緑色
目に見えぬ塩の恩寵豆御飯
母の日の母なき月日豆ごはん
木枯に売るや箒を逆立てて
赤や黄の面影のある落葉かな
水鳥は冷たき水に素足なり
青い目は魔法使の子猫とも
猫の子に何かいいことありさうな
猫の子と雨音を聞く日曜日
言葉さへ躓くやうに日短
食へといふ根・人・柑や冬至の夜
毛並よきものを誂へクリスマス
花ふぶき給水塔をたてまつる
後に続けと遠近の花吹雪
夢の世のホワイトノイズ花吹雪
リボンして伴奏の子や卒業歌
去るものは追はず卒業式終る
忘れ得ぬことぞ悲しき卒業歌
苗札に大きくなれと書いてある
苗札の予告通りに芽吹きたる
苗札の影くつきりと良い天気
燃えて立つ鋼の足の花篝
また一つ消えて最後の花篝
花篝消えて夜明の石畳
花びらは箱根の山を越すつもり
行く年やいくたび鍋を囲みても
火の鳥の大いなるかな吉書揚
優しさは蜜柑の皮を剥くやうに
楽しくて体にも良き炬燵かな
少年の一人住む星クリスマス
紅白の梅の匂へる神の里
塩辛に烏賊や鰹や夏始
ギター背に枯木の中を帰りけり
濾過さるる珈琲豆や去年今年
新年や革のソファーに深々と
見開きの新年号の色香かな
昼寒し夜なほ寒し日々寒し
魂も冬青空も透き通る
雪に咲く白き椿の金の蕊
みちのくのここ千年の雪景色
身を細う落葉溜りの小草かな
ゆらゆらと磁石の針や春隣
今日こそは晴れて桜の出番なれ
僧の名を沢庵と云ふ花の宴
花冷の銀の落花となりにけり
伏せて置くバケツの上に雪丸う
自転車の籠にも雪の降り積る
雪の夜の地下に静かに閉架図書
差し足の鶴や氷をぴしぴしと
砕けては雪より白し玉霰
葱さげて家路の人となりにけり
金屏を立てたきほどの雪達磨
ここ掘れば雪にまみれし紅椿
派手好きの様見ておけと枯蓮
ラグビーのボール方向音痴なる
はるかぜを東の風と書くことも
春色を引く唇のまだ冷た
ビーナスに天使の降らす石鹸玉
光にも微かな重み石鹸玉
蕎麦にするか饂飩にするか梅見茶屋
美しやこの囀も鳥籠も
囀の色とりどりの故郷かな
古寺の朽ち行くままに囀れり
暖かや前歯の欠けし女の子
海の見えるデパートで買ふ桜餅
俯せに本の眠れる蝶の昼
淡々と流るる色も石鹸玉
しやぼん玉わつて天使の楽しけれ
多作なる虚子の一生石鹸玉
すらり立つ給水塔も水仙も
荒れ狂ふ水仙のある岬かな
水仙の切られし跡も雪に消ゆ
対岸の花に届けと花吹雪
花浴びて青草萌ゆる川原かな
火を焚くは戦の如し花篝
山々を押し開き行く春の川
細き枝の先の先まで芽吹きけり
恋猫でありし昔や猫ねむる
全山は今沸騰の桜かな
花びらは花を離れて空の旅
花びらは桜の花の涙かも
春暁の海滴るや桜海老
古き良きものの一つに春の風
蒲公英や波打際の波殺し