手袋を知らぬ紫式部の手
手袋で好きな絵本を撫でてをる
手袋はもしや眠れる猫の下
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
手袋を知らぬ紫式部の手
手袋で好きな絵本を撫でてをる
手袋はもしや眠れる猫の下
駅を出て徒歩一分のおでんの灯
おでん屋の出戻りの娘に通ふなり
今年あと余すところのおでんの灯
小春日のそれは小さなエピソード
座布団や小春日和の人を待つ
小春日や枯れ行く草を暖めて
言葉さへ躓くやうに日、みじか
葱細く大根太く日短
短日の終点にゐる電車かな
枯木にも電飾の綺羅クリスマス
待つ人に後光の如く聖樹立つ
紅白に着膨れてゐるサンタこそ
御無念の殿に代りて雪女
雪女郎ながす涙のガラス玉
寛いて一風呂あびよ雪女
やすらかや蜜柑に淡き花の跡
裏打のもやもやもまた蜜柑なり
幼子が母に剥きやる蜜柑かな
根つからの大根畑でありにけり
大根があれば何とか成りさうな
ライオンは食はぬ大根我は食ふ
セーターを嬰がひつぱる涎ふく
何話そセーターを編む母のそば
セーターを開きにすればカーディガン
七五三着飾るに良き寒さなり
胎内の次女も健やか七五三
長きものフランスパンと千歳飴
春を待つものの日あたり風あたり
美しき蝶になる夢春を待つ
春を待つ百獣の王その妻子
もれいづる光と声とおでんの香
おでん屋のテレビに「地球最後の日」
おでん酒ぐびぐび飲んで寝るとせむ
重ね着の雪より白き恋衣
着膨れのままか一肌脱ぐべきか
着膨れの仏の顔も三度とや
鬼のごと追儺太鼓を打ち鳴らす
ぶらんこにもすべり台にも鬼は外
逃れ来て春立つ朝の鬼ヶ島
聖夜劇の天使の羽根を枕辺に
眠りたる子らにホワイトクリスマス
メリークリスマス空飛ぶプレゼント
すらり立つ給水塔も水仙も
荒れ狂ふ水仙のある岬かな
水仙の切られし跡も雪に消ゆ
少しづつ書いてつらつら氷柱の夜
怖い夢見しや氷柱の曲りしは
へし折つて鬼の引きずる大氷柱
欄干は風の通ひ路掛大根
家々に掛大根の月夜かな
紅梅の蕾ほつほつ掛大根
リボンのやうな立体交差クリスマス
ブランコに雪ふり初めしクリスマス
夢の世のコンビナートの聖夜かな