本流になれぬ悲しみ流れ星
寂しさに流星群をなせりけり
針山に刺して流星コレクション
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
自作自選の歳時記です
本流になれぬ悲しみ流れ星
寂しさに流星群をなせりけり
針山に刺して流星コレクション
土色は白桃の非の打ちどころ
泣きながら賽の河原に桃を積む
桃の香の残る机に稿を継ぐ
海山に伍してプールを開くなり
客船がプールを乗せて海を行く
洗ひ終へしプールの底で跳んでみる
涼しさに住んでもみたき土星の輪
一字にて足る一、十、百、千、万涼し
庭を掃くことも修行や僧涼し
鬱蒼と氏神様の蟬時雨
蟬のこゑ届かぬところまで泳ぐ
朝顔もはかなかりしが蟬の声
血の通ふ蝸牛の殻と聞かさるる
ガラス戸にブロック塀にかたつむり
踏み潰された蝸牛の母です「こんばんは」
みほとけのふところふかく寝正月
見えてゐる机の裏や寝正月
「寒いね」の「ね」の優しさのね正月
春の海ウインナワルツお正月
エルビスは正月生れ松さわぐ
正月を遊び尽して目出度けれ
天照大神様初日の出
初日の出ただちに富士を荘厳す
選ばれし勇者のごとく初日浴ぶ
賀状刷るその一日を楽しみに
筆を止め筆を止め書く年賀状
行く年のポストの中の年賀状
遠き町に雪の予報や年の暮
年の瀬の雪の覚悟に霙とは
飴色の大根の痩も年の暮
手袋を知らぬ紫式部の手
手袋で好きな絵本を撫でてをる
手袋はもしや眠れる猫の下
駅を出て徒歩一分のおでんの灯
おでん屋の出戻りの娘に通ふなり
今年あと余すところのおでんの灯
神々も寂しかりしや秋の暮
原つぱも喇叭も消えて秋の暮
町の子に町の寂しさ秋の暮
小春日のそれは小さなエピソード
座布団や小春日和の人を待つ
小春日や枯れ行く草を暖めて
鳴き通す図書館裏の本の虫
童謡が「あれ」と歌ふよ虫の声
この頃の虫の弱音や数も減り
満天の星に送られ流星は
流星に潮吹き上ぐる鯨かな
流星の降り止まぬ夜もいつか来て
のびのびと長き蛙や鵙の贄
鵙の贄鵙の帰りを待つ如く
鵙の贄月の光に冷ゆるかな
ぽたぽたと金魚を注ぐ金魚鉢
土嚢の如く金魚掬ひの子ら蹲踞む
金魚ゆらゆら母船を待つてゐるやうな
蟬の穴地下から掘つて来りけり
蟬の殻ぬるりと抜けて生れけり
羽化の蟬飛んで風化の蟬の穴
また一人行者降りくる雲の峰
空母対空母積乱雲真白
天上へ入道雲ののしあがる
夏休お代りをして褒めらるる
変てこな塔の工作夏休
いつまでも手を振る別れ夏休
ひるねしてみんなぐうぐうねましたと
庭先に水着吹かるる昼寝かな
昼寝覚この世が雨に煙りをる
香水の後を黒衣の揚羽蝶
香水や両肌脱ぎの夜会服
香水の瓶を融かして何作ろ
冠に二つ火のある螢かな
連絡船は磁気嵐とや螢の夜
螢火の歓喜観音様来る
せめてもの打水を打ち重ねたり
打水を固き大地が吸ひ込みぬ
打水の最中一天かき曇り
旅に良し家居また良し薄暑かな
通り雨薄暑疑ひなかりけり
軽暖のオープンカフェに人を待つ
若葉とは日に透きとほる薄みどり
ぶらんこに子らを遊ばす若葉かな
既に花終へし木もある若葉かな
傘の骨ぐいと曲げたる梅雨入かな
梅雨深く書類に印を点じたる
横にして傘をバサバサ梅雨の日々
毛虫にも赤子がありてそも毛虫
咥へられいまはの空を行く毛虫
毛虫とは似ても似つかぬものとなる