せめてもの打水を打ち重ねたり
打水を固き大地が吸ひ込みぬ
打水の最中一天かき曇り
俳人、葉書俳句「開発素句報」「全然堂歳時記」発行人。
せめてもの打水を打ち重ねたり
打水を固き大地が吸ひ込みぬ
打水の最中一天かき曇り
旅に良し家居また良し薄暑かな
通り雨薄暑疑ひなかりけり
軽暖のオープンカフェに人を待つ
若葉とは日に透きとほる薄みどり
ぶらんこに子らを遊ばす若葉かな
既に花終へし木もある若葉かな
傘の骨ぐいと曲げたる梅雨入かな
梅雨深く書類に印を点じたる
横にして傘をバサバサ梅雨の日々
木に白と書いて柏や柏餅
骨あまたぐいと曲げたる梅雨の傘
金銀は龍宮城の海月なり
毛虫にも赤子がありてそも毛虫
咥へられいまはの空を行く毛虫
毛虫とは似ても似つかぬものとなる
ぬるみたる水にぬるりと蝌蚪の紐
水遁の術でどろんと蝌蚪に化け
月夜の晩ばかりじやないぞ蝌蚪に足
あたたかや歳時記「春」が平積に
曇天の生みし華やぎ春の雪
日本を少し広げて潮干狩
猫の子の噂たちまち組中に
あくびなら子猫も負けてをらざりし
座布団の子猫お行儀よくして「ね」
モノリスを埋めて蒲公英咲かせある
蒲公英の旅装は丸く白づくめ
蒲公英の絮大空へ青空へ
二人しておむすび持つて凧揚に
凧揚げて歌ふ雲雀を驚かす
ゆふぐれのさびしさに凧つれかへる
就中雛の部屋の春燈
長靴で泥濘を来し雛の客
街も家も雛も一夜の焼夷弾
巫女赤く神主白く梅みごろ
今年はや娘十八むめの花
白梅の末は梅酒か梅干か
蒲公英を少しちやほやしてやりぬ
蒲公英や鯵が干されてその日陰
蒲公英の絮に全てを託しけり
ふる雪にお涅槃の寺ま白なり
涅槃図に贔屓の菩薩ありにけり
涅槃図の涙ながらに褪せゆくも
街も家も雛も一夜の焼夷弾
朝顔の朝の力の濃紫
子狸のこれは小さな腹鼓
子規の忌のへちま束子の軽きかな
関東や葱を真白に醤油濃し
胎の子に初湯加減を聞く夜かな
明るくて雲も浮んでみたき春
涼しさに住んでもみたき土星の輪
氷柱にはなれず平らに氷る水
左義長の火の粉ぱちぱち新しき
火もまた涼しとどんどの中の達磨さん
どんど火の崩れむばかり崩れたり
めでたさの観音びらき初御空
高く飛ぶものはゆつくり初御空
青空は塵の恩寵初御空
神々は陸海空に初日の出
藍すがし茜めでたし初日の出
宿の湯の永久にあふるる初日かな
行く年の袋小路の三輪車
ゆく年や湯に湯加減を問はれをる
行く年の窓開けてみる直ぐ閉める
数へ日にドプラー効果あるやうな
数へ日に宅急便を待たす罪
数へ日の街が暮れ行くカフェオーレ
言葉さへ躓くやうに日、みじか
葱細く大根太く日短
短日の終点にゐる電車かな
枯木にも電飾の綺羅クリスマス
待つ人に後光の如く聖樹立つ
紅白に着膨れてゐるサンタこそ
ゴジラいま地球の味方花吹雪
爽やかに引きし補助線仮説成る
ティアラして雪のディズニーランドかな
御無念の殿に代りて雪女
雪女郎ながす涙のガラス玉
寛いて一風呂あびよ雪女
虹の根を煎じて飲めと言はれけり
東京で見かけし電車夏の山
ことことと弱火のちから冬籠
やすらかや蜜柑に淡き花の跡
裏打のもやもやもまた蜜柑なり
幼子が母に剥きやる蜜柑かな
根つからの大根畑でありにけり
大根があれば何とか成りさうな
ライオンは食はぬ大根我は食ふ