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2017-11-05

2017角川俳句賞「落選展」第2室 

2017角川俳句賞「落選展」第2室

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6. 片岡義順 舞うて舞うて舞うて町まで枯一葉(その1)
















7. 片岡義順 舞うて舞うて舞うて町まで枯一葉(その2)















8. 杉原祐之 上堂は難し  













 

9. 鈴木総史 こゑを探して 















 10. 高梨章 そのあかるさを雨といふ

2017角川俳句賞「落選展」第2室 テキスト

2017角川俳句賞「落選展」第2室

テキスト

6. 片岡義順 舞うて舞うて舞うて町まで枯一葉(その1)

よき事のあふれ出でよと初湯浴び
春昼の送電線のたるみかな
パスワードの解けぬ妻とはおぼろおぼろ
紐もつれ喉に曲者春の風邪
明日もまた地球転がせ四月馬鹿
さえずりやコンビニ前の女高生
蒟蒻にも憂鬱はある花の雨
札幌の人を惑わすリラの冷え
花の宿夏目雅子とすれちがう
お茶漬けを食って別れた二月尽
悪僧も膝つく菫地獄谷
カフェテラスナプキンの色夏立ちぬ
動いてみよどこがうまいか大鰻
理髪師のまじる鼻歌にらの花
夏風邪に皮膚一枚の微熱かな
一点の翳りがすべてサングラス
紛糾する会議にメロン丸机
すべり落ちた大事はどこへ心太
地下鉄や肩抱き合って熱帯魚
熱弁に法も汗かく裁判所
六月の思案深まる樹海かな
美女冗舌オーデコロンはときめいて
夏を知るモデルの脚はスカイツリー
また来たわよ美女は無遠慮青簾
首を這う蛇のぬめりや白い指
お元気でね背中が言うた夏帽子
わちゃわちゃ言う禿げのおっちゃん玉の汗
蛸焼けばグリコが走る戎橋
越してきて竹四五本の野分かな
胎内にあらぬ送り火内視鏡
三日月や駱駝の夢は無神論
嫁くらべ老婆三人鉦叩
ホッチキス散歩に出よう天高し
コンビニでコピー三枚秋夕日
三代目もわが畑好む稲雀
ゆく禿の人それぞれの秋思かな
タクシー待つ黒装束の残暑かな
打つそばや延べて均して待つ平和
放物線に夢あるものか秋刀魚焼く
猫町だったテロは大うそ曼珠沙華
健脚を競うふたりの春隣
テレビキャスターニュース入らず餅を焼く
ポケットの破れどこまで寒の入り
四、五人のはしゃぐ風花六本木
白菜はしろがお似合いニヒリスト
暗闇の影寄りあって焚火かな
地下街のくらがり好むサンタさま
猪肉や仁王の腕の毛深さよ
大泥棒海鼠息する桶の底




7. 片岡義順 舞うて舞うて舞うて町まで枯一葉(その2)

怒る火の冷静が舞う薪能
持ち帰る吉野の名残り花筵
春の闇に絶えた狼吉野山
花明かり母がもどった木戸の音
もの言わぬ牛はキリスト花吹雪
謎深まるモナリザの笑み薪能
鎌倉や鍔に彫り込む花菖蒲
霾やかの長安の遣唐使
春昼の牛の涎れの落ちどころ
花盗っ人よもしやあなたは夏目雅子
椿落ちて地底の民の大音声
淀の堤菜の花売るは蕪村とも
かなしみは前衛が抱くアマリリス
花の名を問うて近づく夏野かな
海の日やマストをあげよ勝海舟
門前に使者の気配や蛍の火
ぞんぶんに水を呑んだか夏の蝶
手術前夜合歓の花咲く癌病棟
尽きた命未練を残す岐阜提灯
たましいや蛍を追うて正倉院
虫の闇に仏の思念東大寺
月光に濡れた欲情東京駅
前世も現世もなお曼珠沙華
目が合って僧は澄むなり秋禅寺
月の夜に起つ事あるか盧遮那仏
列島の朝のざわめき野分来る
生ごみに罪の匂いや鰯雲
取り落とし弾むスプーン秋の風
洋梨のころぶ世紀にいたピカソ
ポケモンゴーの解せぬ次第や赤とんぼ
落書きに才のはしくれ秋蛍
宗論の渇きの果ての仏手柑
けだものも歩幅のゆるむ花野道
金沢に人待つ予感冬木立
北へ行く牛は咎めぬ鶴になれ
みちのくの雪は漫漫春隣
尽きぬテロは神の相克枇杷の花
テロ無残北斗星とも自爆せん
雪の朝に妻語りだす金閣寺
まつる祖師石うたがわず冬禅寺
焚火から退かぬ男の胸のうち
楕円形は堕落とも言う褞袍着る
気もそぞろスマホの街は着ぶくれて
名園や菰のあるじは冬牡丹
突っ走る地下鉄道や虎落笛
地下街はわが都なり冬の蝶
短日や人みないそぐ駅の道
東京駅ひとはそれぞれ寒鴉
つつましく咲く柊の棘のわけ
つまずいて日の暮れ易し法円坂




8. 杉原祐之 上堂は難し 

どぼどぼと溢れてゐたる若井かな
結納の席に獅子舞踊り込む
挨拶のマイクくぐもる事務始
ラーメン屋の湯気もうもうと寒に入る
雪掻きの大小置かれ山の宿
子が放る思ひの外の雪礫
竹藪を揺さぶる風や午祭
ぶらんこもジャングルジムも余寒かな
麦の芽の朝日を返しをりにけり
隧道に雪解水の染み出せる
弓放ちお水送りの始まれる
雛段を支ふるビールケースかな
卒業の戯れあひながら泣きながら
春昼の喇叭検定試験かな
雉鳴くや足湯に村を見晴らして
春の夜や喃語のシャワー浴びせられ
マフラーを巻きては外し花の宴
地に着けるまで輝ける落花かな
桃色の小さなリュック花筵
花筏浚渫船が分け進む
新築の庭にはびこる諸葛菜
炊飯器より豆飯の湯気と音
仮設集落跡地薇干されたる
放生の池を暗めて若楓
半休を取りて田植を済ましたる
ナイターの風の湿りを帯びにけり
指図出るまではだらだら神輿舁
踏切を待ちゐる山車の囃子急
予備の竿短く握り鮎を釣る
表彰を終へてダービー騎手小柄
神主の屋敷の土間の梅筵
まちまちに梅干色を深めつつ
夕凪や赤子のシーツ干し足せる
朝曇あと一日で休暇来る
ただ浮かむだけのプールに来てをりぬ
プールより上り海鮮丼喰らふ
警備服着せられてゐる案山子かな
鳥居のみ塗り直されて里祭
台風の夜に買ひ足せるカップ麺
鶺鴒の芝の起伏をなぞり飛ぶ
公園に居眠る人と綿虫と
落し穴ありさうで無き落葉径
半袖に短パンで刈る砂糖黍
畳みたる店舗に年木積まれあり
悴める手を双臀の下に差す
おでん屋の液晶テレビ曇りたる
縄を張ることに始まる年用意
餅搗を終へ豚汁の鍋囲む
電球を一つ取り換へ年の夜
水色を残し暮れゆく初御空




8. 鈴木総史 こゑを探して 

草萌や時間を空けて飲む薬
針の数だけ影があり針供養
恋猫のきのふとはまた違ふかほ
ふらここや人間はみな空へ帰す
下向けば道はレンガで入試かな
薇のまはりの土のやはらかき
置かれては少しずらされ雛飾る
蒲公英にまみれてゐたる消火栓
春愁やこゑを探してみづを汲む
がりがりとなにかを喰らふ花見かな
先生はチューリップ抱き離任せり
米兵の躯に似合ふ春コート
たちまちに船現るる海市かな
古本を重ねて匂ふ樫の花
街に出てそのにぎはひの遅桜 
時鳥まぶしき雨を葉は抱へ 
かざす手の昏く端午の陽を統べる
はつなつの傷いきいきと脚にあり 
鳥声を薄暑の川へ展げたる
薔薇の咲く部屋に連れられたる恐さ
坂に猫裏がへりたる夏の暮
花は葉にブロンズ像のやや痩せて
島風を銀色と言ひ花蜜柑
なかぞらを鳥は制して麦の秋
薫風や車掌の腕のよく伸びて
夕立の街原色の風生るる
その島は鳥がおほきく花樗
あをぞらや河鹿のこゑの乾ききり
真珠抱くためのかたちに帆立貝
夕涼やみづにはみづの流れ方
対局に終はりの見えて旱星
日盛の硝子は色をもてあます
握りかへすための手であり青田風
炎昼のベルトのやはく置かれたる
銀漢や島に少しく詩がありぬ
こゑはもう出なくて新涼の転居
鵙日和ピンクの傘が晴れをゆく
骨董に硬き文字あり秋の蝶
金網のなかの小鳥のうるはしき
調味料あまねく集め九月尽
症例の少なき病蔦紅葉
古雑誌二三部買ひて秋思かな
明滅はひかりのはじめ寒牡丹
凍星やチェロより音の滴りぬ
初めてといへば毛糸を編むことも
寒暮なりすべて出払ふ消防署
寒林へ向かふ列車の黒さかな
木を喰らふ木があるらしや義仲忌
蜜柑畑ひかりのごとき人とゐて
待春の少し大きめなる切符




9. 高梨章 そのあかるさを雨といふ 

早春の窓の夜あけやパンの耳
早春の床にミルクの白さかな
早春のもうぬれてゐる光かな
早春の吸取紙もぬれてゐる
早春の水の底まで水の空
春寒しハンマー投げのピアノ線   
ひんやりと立たされてゐる桃の花
オブラートかすかに甘し桃の花
一本の花えらばれて虻とまる
表札のなき家となり桃の花
ぽつかりと口をひらいた春の駅
空をおりるやうにひとびと春の駅
なんとなくしやがんでしまふ春の土
ゐないので停まらないバス春一番
たんぽぽを気にもとめずに来てしまふ
たんぽぽのところで止まるうしろ足
たんぽぽに気がつくまでを歩きけり
春の野に自転車も寝て雲量三
たんぽぽやクーペに乗つてとほるひと
たんぽぽのところで靴をぬぐ予定
雲雀鳴く目をつむらずにひばりなく 
たんぽぽはちひさな歩幅かもしれぬ
その声が目に見えるほどヒバリ鳴く
雲雀鳴く蛇口のなかの細き闇
眼鏡をはづしそれぞれねむる沈丁花
母と子とねむるヒバリのゐない空
テーブルは水面のやうに花明かり
ふいに墜つ雲雀のやうにさびしさは
パン屑のこぼれしままや春炬燵
春の画のなかの金管楽器かな
クレヨンの折れてありけりチューリップ
風にさはる雨にもさはる子猫かな
濡らしてはまた乾かして春の土
水仙かなんの波音なんだらう
ひつそりとあのこは病気風ぐるま
石鹸玉空のうしろへ消えにけり
よわくよわく指はひらかれ牡丹雪
いま何も抱いてゐなくて春の雨
春は水うす桃いろの洗面器
春の夜のそのあかるさを雨といふ  
梨咲いて空にあらはる雲の位置
春の雨ちひさな卵抱かせて
キャラメルの紙はましかく春休
蜂の屍やほんのわづかな塩の味
晩春や息をひそめて魚の眼  
夕ぐれのくるたび蝶のおとろへし  
晩春やパンダをいまだ見てゐない
かた足をひきずりぎみに夏近し
そら豆の空やはらかくあひにゆく
足音をそつと持ちあげ捕虫網




2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 20 高梨 章「明るい部屋」テキスト

20. 高梨 章 「明るい部屋」

炎天やみるみる泣くぞ泣くぞ泣く
春の月ぐいとキヤベツの葉を剥がす
飯食ひながら夕焼のことばかり
夏つばめ影一瞬に影の中
蝿がきてそのまま奥に消えにけり
夜濯や母の手くびの輪ゴム跡
夕焼にさはつたことがあるといふ
あれは母ではなく冬の夕焼
母からこぼるるこなごなの枯葉よ
手袋をはめた手で雨の音を聴く
山茶花や坂道おほき町にすみ
床下に夕焼さはぐと母のいふ
がまぐちの口金ゆるし緑の夜
目刺くふ子もくはぬ子もきて坐る
キャベツに醤油をかけてしまひけり
少年の影自転車の影五月
てのひらを夏のざわめき過ぎりけり
靴先を内側に向けしやぼん玉
しやぼん玉しばらく消えず消えにけり
初嵐けさも右足先に出す
靴下をはき靴をはき初氷
いつまでも石蹴るあそび冬銀河
空き箱をかかへて春の微熱かな
ずるいなあと母のつぶやく春の山
雨の日を昼寝してゐる漂流記
夏鳥の孤独もつパンタグラフかな
青年の団扇をゆるくうごかしぬ
透明度増してゆく母みどりふかし
昼顔をひとつ取つてくれないか
立ちどまるのが好き白い夏帽子
一気にファスナーひきおろすやうに鵙啼けり
そこここに団栗ならばそこここに
うろこぐもうまくつまめぬオブラート
どこに置く檪の林に母を置く
山の名もわからぬままに冬の山
大さむ小さむ音なく数行削除
冬支度ぼくらは夜毎めをつむる
豆電球も気泡のひとつ長き夜 
口あけてはるばる春のしじみ汁
早春のすべては水の音といふ
梅が香やガスのほのほを細くする
三月は木蔭のやうに来てゐたり
水を飲む母はせせらぎ南風
鳥帰る屑籠に屑しづかなり
島も見えず鳥も見えず母ねむる
ねむりにも水位あるらし冬の波
三月に目ざめつぶやくまだ朝か
春休み玩具の汽車が離陸する
大南風港と港つなぐ線
透明な夏のいちにち非常口



■高梨章 たかなし・あきら
昭和二十二年一月一日生まれ。大学非常勤講師。俳句歴六年。所属結社なし。 

2014-11-02

落選展2014_17 空車(むなぐるま) 高梨章

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週刊俳句 第393号 2014-11-02
2014落選展 17 空車(むなぐるま) 高梨章
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落選展2014_17 空車(むなぐるま) 高梨章_テキスト

17 空車(むなぐるま) 高梨章

薄氷やねむれぬ母をまぼろしに
ゆふぐれの青ゆふぐれのシャボン玉
春の日の金の夕べを空車(むなぐるま)
雨音に気づくオレンヂの香り
戸をたたく叩かれてゐる春の家
空つぽの手のひら春の月のぼる
永き日や空箱ふたつ三つ埋める
    *
かるくつてこはれやすくて山茶花は
霜のこゑローマ数字が身を起こす
枯野からかへれば紙のなかの白
初日さす白いボタンとボタン穴
われは耳もつものなりき山眠る
一月の白き紙片に指を切る
ゐないのに窓あいてゐる冬鷗
簡単に失くしてしまひ冬の星
聴きとれぬ高音あらむ枯野かな
ふとここで振り返らせる冬の夜
誤配のやうに生まれて冬の夕焼
手袋は暗くなるころおそろしき
明日もまた枯野は晴れてゐましたか
ちぎれてはちぎれては冬の半島
   *
来シカタニ会ツタ、カヘレヌ、秋ノ暮
窓四十と七つあり秋さびし
秋の灯台 いつぽんの蝋燭をひろふ
秋の朝きのふの雨の光かな
ふくらはぎぬすびとはぎに風が出て
ともすればくづしてしまふ秋の雲
図書室の水に秋の蚊死にたまふ
壜を縛るおしろいの花咲きそめぬ
でもぼくはあけつぱなしが好き残菊
空席をつくるたちまち月あがる
月の力すこしゆるみぬ時計店
金の星木の星あるひは金木犀
月は出たか母のまはりにさざなみよ
   *
一條の雷光こぼれ酢のにほふ
蟻地獄とほくはなれて蟻の声
目をふたつ底にしづめし蟻地獄
タテとヨコ十ミリ五ミリ蟻地獄
ながい梯子みじかい梯子蟻地獄
鍵を挿すしづかにまはす蟻地獄
あかるくつて誰もゐなくてでんでん虫
永遠のあそび友だちかたつむり
なめくじよ君くすぐつたくはないか
かくれんぼしたり雨のふる日は蝸牛
欠片といふものひかる晩夏かな
蝉たちの穴あいてゐて海が見ゆ
さつきまでそこにゐたのに冷奴
唖蝉がからだのなかにこつそりと
雷ひそかイヌの目ネコの目オバケの目
蟻たちにはこばれてゆく母ひとり

2013-11-03

2013落選展 9病室 高梨章

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週刊俳句 第341号 2013-11-03
2013落選展 9病室 高梨章
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2013落選展テキスト 9病室 高梨章

9 病室 高梨 章

きらきらと肺侵されてすみれ草
ていねいに苺つぶして夜微熱
春の日やひざへこぼるゝビスケット
つぎつぎに翼を折りて山眠る
月さして細道といふ渚かな
秋の日の抛物線がすてきです
くづかごよそこを動くな山笑ふ
紙くづは春のちひさな島である
日脚伸ぶ殊に離陸はうつくしく
ひとつぶの冬日くづれて水となる
遅き日のことにかがやく積木かな
他界からはるかな夕日蝉のから
輪になつて明かりをつける枯野かな
人ならば先に行かせて秋の暮
駅員とわかれてやがて雪になる
雪ひひと夢とも知らずあゆみけり
みづうみの底ひあかるむ蛍の夜
農夫来てやがてしづかにおよぐ夜
雲雀鳴くあそこはむかし鳥図書館
マドレーヌしまはれたまま春おはる
雷とほし空気枕の息をぬく
みどりごの喉にあたりて初蛍
月かげり木を抱くこども木のなかへ
百合咲いて這ふものたちの夜となる
げじげじがギリシャのくにのかたちして
飛行機雲掃除婦鳥の骨拾ふ
霧がふる父と子やがて手を放す
冬の月ひややかに非のうちどころ
霧はれてからつぽの箱持たされる     
花は葉に塵うつすらと書簡集
病むひとのあしうら白き聖夜かな
病むひとが橋の名をとふけさの秋
ひきがへるくちをきかずに昼となり
墓碑どれも他人同士よ桃の花
水の底ほのかに秋の手術室
ふる雪や誰も受話器をとらざりし
月朧しづまりかへる避雷針
月射せば落ちてゆくものみな愛し
芋むしにかるいくさめをさせたくて
霧ふればさびしからずやうしろ足 
とらへられし鹿ふりかへる冬泉
全集にふたつ欠けあり雪にかはる
死後といへど母に抱かれて春の坂
雲雀あがる農夫ひとりを遠く置き
絵の外へ出てしづかなり春の蠅
鰯雲あとかたもなき音色かな
隙間風白紙にはしるうすみどり
屋根屋根をひやす一羽の鶴白し
時雨ふる私だけがゐない町
水没の春の街から宇宙船