ペア70 はぐれたる安堵のすこし薔薇の園 鶴岡加苗

ペア70

◎夕方の雲

あたゝかに雲をいろどる夕日かな 正岡子規  しき

 

夕雲のふちのきんいろ雛納ひなおさめ 鍵和田かぎわだ[ゆう]子

 

 

◎生死の冷たさ

誕生も死も花冷えの寝間ねまひとつ 福田甲子雄  きねお

生前も死後もつめたきほうき 飯田龍太    りゅうた

つめたかりし蒲団ふとんに死にもせざりけり 村上鬼城    きじょう

生きてゐるうちもつめたき海鼠なまこかな 大西朋    とも

 

 

◎紐状

白酒のひもごとくにつがれけり 高濱虚子たかはま きょし

はじまりは紐のようなり揚花火あげはなび 月野ぽぽな

 

 

◎ローカル色

峰入みねいりに奈良交通のバスが着く 中本真人

白鳥おほかた眠り新潟にいがたテレビも了ふ 鈴木榮子
  ※了ふ=しまう/おう?

 

 

◎雨の夜

ひにゆく八十八夜はちじゅうはちやの雨の坂 藤田湘子    しょうし

雨の夜を会ひに行くなるさくらんぼ ハードエッジ

 

 

◎羽黒山

涼しさやほの三日月の羽黒山はぐろさん 松尾芭蕉    ばしょう

羽黒山つらぬく石のはし冷えぬ 小澤實おざわ みのる

段二千四百月の羽黒山 川崎展宏    てんこう

 

 

◎遠く遥か

はるかまで旅してゐたり昼寝覚ひるねざめ 森澄雄

遠くまでこころ遊びて年の暮 飯田龍太

 

 

◎一人

買い物は一人が気楽すだれ見る 星野立子

はぐれたる安堵あんどのすこし薔薇ばらの園 鶴岡加苗

 

 

◎降る音、落ちる音

木の実降る音からからとやぶの中 高濱虚子

団栗どんぐりむぐらに落ちてくゞる音 鈴木花蓑    はなみの

団栗の葎に落ちてかさと音 高野素十    すじゅう

 

 

◎涙涙の

とはいへど涙もろしや老の春 高濱虚子

なんでこれしきのテレビと初泣きす 石川桂郎    けいろう

初映画ほろほろ泣けて恥かしや 富安風生とみやす ふうせい

 

以上です